2016年度、薬価改正などで医療費は0.4%「減少」し41兆3000億円に―厚労省
2017.9.19.(火)
昨年度(2016年度)の医療費は、前年度に比べて1800億円・0.4%「減少」し、41兆3000億円となった―。
こういった状況が、厚生労働省が9月15日に発表した「医療費の動向」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。医療費が前年度から減少に転じたのは、2006年度(13億円・0.0%減少)以来のことです。
目次
75歳以上の後期高齢者、1人当たり医療費は2%減少
昨年度(2016年度)の医療費を見てみると41兆3000億円で、前年度に比べて1800億円・0.4%の減少となりました。1人当たりで見ると32万5000円で、やはり前年度に比べて2000円・0.4%の増加となっています。
今般発表された数値は、国民医療費の98%に該当する「概算医療費」と呼ばれるもので、労災や全額自己負担などの費用は含まれていません。したがって2019年秋に公表される国民医療費では42兆1400億円程度になると考えられます(関連記事はこちらとこちら)。
2016年度の医療費を制度別に見ると、被用者保険が12兆3000億円(本人6兆5000億円、家族5兆20000億円)、国民健康保険が11兆5000億円、後期高齢者医療(75歳以上の高齢者)が15兆3000億円、公費が2兆1000億円となっています。
前年度からの伸び率を見ると、被用者保険が1.3%増(本人2.8%増、家族0.0%増)、国保が4.2%減、後期高齢者医療が1.2%増、公費が0.9%減となりました。
また、制度別の1人当たり医療費を見ると、被用者保険が16万3000円(前年度に比べて0.4%増)で、うち本人が15万5000円(同0.6%増)、家族が16万2000円(同0.7%増)、国保が33万9000円(同0.1%増)、後期高齢者医療が93万円(同2.0%減)という状況です。
高齢化の進展により75歳以上人口が増加することから、後期高齢者の医療費はどうしても大きくなりがちです(2016年度は前年度に比べて1.2%増)。しかし1人当たりで見ると前年度から2.0%(1万8000円)減少しており、例えば重複受診・頻回受診の是正や、在院日数の短縮といった「医療費適正化」が功を奏していると考えられます。2018年度から新たな医療費適正化計画(都道府県が作成)もスタートするため、より詳細な分析を進め、さらに実効性のある対策をとることが期待されます(関連記事はこちら)。
調剤医療費の減少(前年度から3800億円・4.8%減)が医療費縮減の主因
診療種類別に医療費を見ると、医科入院が16兆5000億円(医療費全体の40.1%)、医科入院外が14兆2000億円(同34.3%)、歯科が2兆9000億円(同7.0%)、調剤が7兆5000億円(同18.2%)などとなっています。
診療種類別医療費の対前年度伸び率は、医科入院が1.1%増(1900億円増)、医科入院外が0.4%減(500億円減)、歯科が1.5%増(400億円増)、調剤が4.8%減(3800億円減)などという状況です。調剤医療費の減少が、「2016年度における医療費減少」の主因であることが分かります。
次に、受診延日数(「延べ患者数」に相当する)の伸び率を診療種類別に見ると、全体では前年度に比べて0.7%の減少。医科入院では0.2%の減少、医科入院外で1.0%の減少、歯科では0.5%の減少、調剤では0.8%の増加となっています。
一方、診療種類別の1日当たり医療費を見ると、全体では1万6100円(前年度に比べて0円・0.3%増)、医科入院が3万5500円(同500円・1.3%増)、医科入院外が8500円(同100円・0.7%増)、歯科が6900円(同100円・2.0%増)、調剤が9000円(同500円・5.5%減)、訪問看護が1万1100円(同100円、0.6%増)となっており、「1日当たり調剤医療費の減少」が、医療費全体を縮小させたことが分かります。
ハーボニーなど超高額薬剤の薬価引き下げなどが大きく影響
この点を更に詳しく診るために、厚労省が同日に発表した2016年度版の「調剤医療費(電算処理分)の動向」に一旦、目を移してみましょう(厚労省のサイトはこちら)。
調剤医療費を技術料と薬剤料に分解すると、技術料は前年度に比べて1.1%増加しているのに対し、薬剤料は6.7%減少しています。薬剤料は調剤医療費の4分の3と大きなシェアを占めており、この部分の減少が医療費全体に大きく影響します。
さらに薬効分類別に、前年度から薬剤料が大きく減少しているものを拾うと、▼抗ウイルス剤(前年度から34.6%減)▼グラム陽性菌、マイコプラズマに作用する抗生物質製剤(同18.3%減)▼合成抗菌剤(同16.9%減)▼血管拡張剤(同16.7%減)▼グラム陽性・陰性菌に作用する抗生物質製剤(同14.8%減)▼不整脈用剤(同13.3%減)▼血圧降下剤(同12.1%減)▼アレルギー用剤(同12.1%減)―などが目立ちます。とくに抗ウイルス剤の薬剤料は、前年度から1433億円も減少しており、調剤医療費全体減少分(3800億円)の4割弱を占めています。
2015年度には画期的なC型肝炎治療薬であるハーボニー錠ヤソバルディ錠の出現によって医療費が大きく増加しましたが、2016年度の薬価改正でこれら超高額薬剤の薬価が引き下げられたこと(関連記事はこちら)、C型肝炎治療のピークが過ぎた(ハーボニー錠では完治が見込める)ことなどが複合的に影響し、2016年度に薬剤料が減少したものと考えられます。超高額薬剤によって医療費が大きく増減することに改めて驚かされます。
急性期入院医療を担う大学病院や公的病院で収入増
次に、医療機関の種類別に1施設当たり医療費を見てみると、▼大学病院176億7467万円(前年度に比べて3億4489万円・2.0%増)▼公的病院52億5198万円(同7410万円・1.4%増)▼法人病院17億516万円(同1016万円・0.6%増)▼個人病院7億6476万円(同670万円・0.9%減)▼医科診療所1億74万円(同114万円・1.1%減)▼歯科診療所4028万円(同48万円・1.2%増)▼保険薬局1億3207万円(同844万円・6.0%減)―などとなっています。
また病院の種類別に2016年度の推計平均在院日数を見てみると、大学病院では16.0日(同0.4日短縮)、公的病院では18.7日(同0.2日短縮)、法人病院では47.5日(同0.7日短縮)、個人病院72.7日(同0.3日延伸)となっており、専ら急性期入院医療を担う大学病院・公的病院で収入(医療費は当該病院の収入と考えることができる)が増加している状況が伺えます。2016年度の診療報酬改定が「急性期入院医療に手厚い」ものであったと考えられます。
平均在院日数、最長の高知と最短の東京とで19.8日の格差
なお、2016年度の推計平均在院日数を都道府県別に見ると、最長は高知県の43.6日(前年度に比べて1.0日短縮)、ほか▼鹿児島県42.8日(同0.9日短縮)▼山口県42.5日(同0.6日短縮)―などで長くなっています。
一方、最短は東京都の23.8日(同0.3日短縮)で、ほか▼神奈川県24.1日(同0.3日短縮)▼愛知県25.2日(同0.2日短縮)―などで短くなっています。
最長の高知県と最短の東京都を比べると、19.8日間の差異があります。患者の疾患構成や重症度によってここまでの格差が出るとは考えにくいでしょう。病床利用率を維持するために在院日数の短縮が遅れていると考えられ、「病床数の適正化」を本格的に考えていく必要がありそうです(関連記事はこちら)。
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