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2022年夏にがん携拠点病院の指定要件見直し、高度型の意義、診療実績・体制要件等を議論―がん拠点病院指定要件WG

2021.12.2.(木)

2022年夏に
「がん診療連携拠点病院」の指定要件(整備指針)
を見直す。例えば「望ましい要件の趣旨・意味」「高度型拠点病院の存在意義」「診療実績要件や体制要件の在り方」などの見直しを進めていく―。

11月30日に開催された「がん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こういった議論が始まりました。来夏(2022年夏)の指定要件見直しに向け、ワーキングの藤也寸志座長(国立病院機構九州がんセンター院長)は「来年(2022年)6、7月までに意見をまとめる」考えを示しています。

2022年夏に「がん診療連携拠点病院」の指定要件を見直し

我が国では「がん」が死因第1位を独走しています。そうした中で「日本全国のどの地域に住んでいても、優れたがん医療を受けられる体制を整える」(均てん化)という方針の下、我が国では、▼高度ながん医療を提供する「がん診療連携拠点病院」等▼小児特性に踏まえた高度がん医療を提供する「小児がん拠点病院」等▼ゲノム解析結果を踏まえて適切ながん医療提供を目指す「がんゲノム医療中核拠点病院」等―の整備が進められています。

ただし、がん医療の高度化(例えば新たな医療技術の開発・普及など)、患者ニーズの多様化など、がん医療を取り巻く環境は絶えず変化するため、指定要件については定期的に見直すことが求められ、▼成人拠点・小児拠点では4年に一度▼ゲノム拠点では2年に一度―見直すこととされています。

今般、成人拠点(がん診療連携拠点病院)の指定要件見直し論議がワーキングでスタートしました。なお、拠点病院を統一的視点で整備していく観点から、がん診療提供体制の在り方に関する検討会」を親組織として、その下に▼成人拠点▼小児拠点▼ゲノム拠点―のワーキンググループを設置するという体制変更が行われています(関連記事はこちら)。

11月30日のワーキングには、厚生労働省から次のような「見直しに向けた論点案」が提示されました。こうした内容をこれから議論していくほか、▼アピアランスケア(例えば抗がん剤治療で毛髪が抜けてしまった場合のウィッグ装着など)▼高齢者へのがん医療—なども論点に据えていくことが構成員の間で了承されました。

(1)いわゆる「望ましい要件」や「原則要件」について整理を行うべきではないか
(2)希少がんについて施設の集約化・連携の強化などを図るための見直しを検討してはどうか
(3)「高度型」の地域がん診療連携拠点病院について、その必要性や要件の在り方を検討してはどうか
(4)要件を満たせない地域がん診療連携拠点病院への対応について明確化を行ってはどうか
(5)がん診療連携拠点病院では、主に「5大がん」への集学的治療提供が求められているが、それのみで良いのかなどを検討してはどうか
(6)がん診療連携拠点病院等は「集学的治療・標準的治療等の質の評価のため、必要な情報を国に届け出る」ことが求められるが、内容などの明確化を図ってはどうか
(7)がん診療におけるクリティカルパスのあり方をどう考えるべきか
(8)キャンサーボードの開催・対象症例等について明確化を図ってはどうか
(9)小児がん患者の長期フォローアップについて、成人を対象とする「がん診療連携拠点病院」ではどういった要件設定が妥当か検討しなおしてはどうか
(10)AYA世代のがん患者への治療・支援体制を充実させるため、要件をどう考えていくべきか
(11)妊孕性温存療法に関する要件をどのように考えていくべきか
(12)就労支援の充実に向けてどのような要件を考えていくべきか
(13)手術療法、放射線治療、薬物療法の提供体制や実績などの要件をどう見直していくべきか
(14)緩和ケア提供体制の充実等に向けて要件をどのように考えていくべきか
(15)地域連携の推進体制のあり方について、さらに地域連携を推進するために必要な要件についてどう考えるべきか
(16)セカンドオピニオンに関する情報提供を推進するための要件のあり方を検討しなおしてはどうか
(17)病理診断に携わる医師の配置を、オンライン診断の進展なども踏まえてどう考えていくべきか
(18)相談支援センターの普及、利用推進に向けて要件等をどのように見直していくべきか
(19)がん診療連携拠点病院等としての情報公開をどう考えるかについて
(20)がん診療連携拠点病院等に求められる研究協力体制をどう考えるか
(21)BCP(事業継続計画)的な視点に基づく診療体制の確保を要件に盛り込んでいくべきか
(22)ICT技術の利活用促進に向けた要件をどう考えていくべきか
(23)「がん治療に伴うリハビリテーション」を要件に組み込んでいくべきか
(24)「ピアサポート」推進に向けて、支援体制を要件に盛り込んではどうか

拠点病院の「望ましい要件」の意味、「高度型」病院の存在意義などを検討

論点案は膨大ですので、少しポイントを絞って「どういった方向で議論が進められていくのか」を眺めてみましょう。具体的な見直し論議は今後行われます。

まず(1)では、がん診療連携拠点病院の指定要件(厚生労働省健康局長通知「がん診療連携拠点病院等の整備について」)の中に多数ある「緩和ケアチームにおける専任の身体症状緩和の専門的知識・技能を有する常勤の医師について専従であることが望ましい」「2人以上の放射線治療に携わる診療放射線技師を配置することが望ましい」などの「望ましい要件」や、「原則として集中治療室を設置すること」などの「原則」要件について、「義務化するべきなのか」「廃止すべきなのか」「現状のままとするのか」という議論が行われます。

この点、増田昌人構成員(琉球大学病院がんセンター長/診療教授)は「望ましい要件には▼義務化は難しいので、こうした方向に向けて努力してほしい▼4年後に義務化を行う予定であるので、今から準備を進めてほしい―という2つの考えがあると思う。ここでどちらに寄せるのかを考え、『望ましい』の意味を明確化すべきである」と指摘。津端由佳里構成員(島根大学医学部附属病院呼吸器・化学療法内科診療教授)も「『望ましい』要件の解釈が病院によって異なり、4年後を見据えて充足に向けた努力を行う病院と、要件でないことから充足に向けた努力を行わない病院とがある。整理を行うべき」と増田真人委員に賛同しています。ただし、「地方で人員確保などが困難な病院がある」点への配慮を求める声もあります。こうした視点に立って今後、見直し論議が進められます。



(2)は、患者サイドからは「希少がんの専門施設が見つけにくい」という課題があることを踏まえ▼施設の集約化(例えば希少がんセンターの明確化など)▼一般のがん診療連携拠点病院などと希少がん専門施設との連携—などを整備指針に盛り込んでいく方向で検討を進めることが固まっています。



また(3)では地域のナンバー1拠点病院である「高度型」について、「その役割・意義が不明確である」(一般型拠点病院と何か異なる機能を持つのか)ことや、「A医療圏の高度型とB医療圏の一般型と同程度の実績であるケースも散見される」こと、「地域のナンバー1とは何をもって認定するのかが不明確である」ことなどを踏まえ、どう見直していくのかが議論されます。さらに(4)では「要件未充足→特例型→指定更新を行わない」という運用ルールの明確化や「地域がん診療病院では特例型がなく、要件未充足=指定更新しない」という扱いになっている点をどう考えるかなどが具体的な議題となります。

5大がん以外にも膵臓がん・前立腺がん等への集学的治療体制も要件に加味してはどうか

他方(5)では、最新データによれば5大がんの1つである肝がんよりも「膵臓がん」「前立腺がん」の患者数が増えていること、上述(2)のように希少がん対策の充実が求められていることを踏まえて「5大がん等について手術、放射線治療、薬物療法を効果的に組み合わせた集学的治療、 緩和ケアを提供する体制を有するとともに、各学会の診療ガイドラインに準ずる標準的治療など、がん患者の状態に応じた適切な治療を提供すること」という要件をどう見直すべきかが議論されます。増田真人委員は、上記(2)とも関連して「沖縄県では希少がんは琉球大学病院で、●●がんは◆◆病院、〇〇がんは◇◇病院で診療することを原則とするというルールを設けている。こうした点を各地域や拠点病院連絡協議会で検討すべき旨のメッセージを発してはどうか」と提案しています。がん症例の集約化を行い、医療の質を向上させていくための重要な視点と言えるでしょう。

また(7)では「クリティカルパスの整備は今や当たり前になっているが、パスの実施率が低調な病院もある。その当たりを議論していきたい」との考えが藤座長から示されています。

また(8)のキャンサーボードについては、整備指針では「手術、放射線診断、放射線治療、薬物療法、病理診断および緩和ケアに携わる専門的な知識・技能を有する医師、その他の専門を異にする医師等によるがん患者の症状、状態および治療方針等を意見交換・共有・検討・確認等するためのカンファレンスを設置し、その実施主体を明らかにした上で月1回以上開催する」旨の規定があります。しかし▼複数診療科・多職種による症例検討の実施は月1回どころではない(大西洋構成員:山梨大学医学部放射線医学講座教授、藤座長)▼がん診療連携拠点に期待される役割を踏まえた参加メンバーの明確化が必要である(鈴木直構成員:聖マリアンナ医科大学産婦人科学教授、津端構成員)—といった指摘が出ており、要件見直し論議を今後具体的に行っていくことが確認されました。

妊孕性温存、全拠点病院で体制整備する必要はなく「主治医から患者への情報提供」進めよ

一方、(11)の妊孕性温存については、説明を受けた患者が52.0%にとどまること、4分の1のがん診療連携拠点病院が要件(患者の希望確認や生殖医療の情報共有等の生殖機能温存体制)充足が難しいと考えていることを踏まえた議論が行われます。この点、鈴木構成員は「すべてのがん診療連携拠点病院で妊孕性温存体制を整備する必要はない、主治医が『妊孕性温存について患者にきちんと説明する』(その上で自院に体制が整っていない場合には、他院を紹介するなどの対応をとる)だけでもよい。そこが極めて重要である」と強く訴えました。



また(13)の診療体制・実績については、増田真人構成員が「がん診療連携拠点病院や現場の医師は最大限努力をしている。細かな要件などで規定をするのではなく、例えば生存率などのアウトカム評価、患者満足度調査などで病院を評価するという形に視点を変えてはどうか」と提案。「体制評価」から「アウトカム評価」への移行を視野に入れた提案と言え、非常に重要な論点です。今後の議論を注目する必要があります。

遠隔病理診断などの広まりを踏まえ「常勤病理診断医配置」要件等をどう考えるか

(14)の病理診断では「遠隔病理診断、オンライン病理診断」の進展を踏まえて、現在の「専従の病理診断に携わる常勤の医師を1人以上配置すること」などの要件をどう考えていくかという論点です。この点、増田しのぶ構成員(日本大学医学部病態病理学系腫瘍病理学分野教授)は「精度の確保が極めて重要である。例えば術中の迅速病理診断について、バーチャルスライドで実施した場合のレベル・精度検証などを進める必要がある。また地域によって遠隔病理診断・オンライン病理診断が進んでいるところもあり、そうした地域で試験的に要件緩和し、検証しながら拡大していく方法も考えられると思う」とコメントしています。

病理診断に限らず、「医師の地域偏在」が大きな問題となっている中で、「オンライン病理診断」や「オンライン手術」などの技術が進むことで「偏在解消が大きく進む」と期待されています。こうした部分にこそ資源を投入し「オンライン診療」の推進を図っていくことが重要でしょう。



また(20)の研究に関しては、がん診療連携拠点病院の3分の1が「研究推進は一部の拠点病院で実施すれば十分である」と考えている点等を踏まえて要件の在り方をどう見直していくかが論点となっています。この点、東尚弘構成員(国立がん研究センターがん対策研究所がん登録センター長)は「残念な回答結果である」と評したうえで、「研究には政策研究と臨床研究があると思う。前者の政策研究についてはすべてのがん診療連携拠点病院で実施すべきである」との考えを示しました。



また(21)から(24)は、現行整備指針には盛り込まれていない項目で「新たに要件化すべきか」を検討していくものです。この点、▼ピアサポートの支援体制は是非とも要件化してほしい(松本陽子構成員:愛媛がんサポートおれんじの会理事長)▼ICT推進に関してオンラインでのセカンドオピニオンなども推進を考えるべき(早坂由美子構成員:日本医療ソーシャルワーカー協会理事)—などの意見が出ています。



なお、今後、具体的に要件見直しを議論するにあたり、▼要件項目が多く病院サイドの負担が大きい、項目削減を検討するとともに、医療の質を確保するためのアウトカム指標導入を考えていってはどうか。また1拠点病院では地域のがん医療全体を見渡すことができず、連携が極めて重要になる。そうした視点が重要である(増田真人構成員)▼拠点病院に求められる役割として「がん医療の均てん化、標準治療の推進」「地域で連携したがん患者のサポート」「国のがん対策の一翼を担い、貢献する」という3点があげられると思う。この点を共通認識として議論していってはどうか(東構成員)▼がん対策基本法の第2条にある「がん患者がその居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにする」という基本理念に沿って見直し論議を進めるべき(松本構成員)—といった考え方も提示されています。こうした考え方に沿い、今後、上記項目について見直し案を具体的に練っていくことになります。



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