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悪性腫瘍手術の1施設当たり実施数、1996年の10.0件から2020年には28.5件で「集約化」進む―厚労省

2022.5.6.(金)

昨年(2020年)10月1日現在、活動中の医療施設は17万8724施設で、うち一般病院は7179施設と減少(集約化の側面もある)が続いている―。

また悪性腫瘍手術について、1施設当たりの実施件数を見ると1996年には10.0件であったが、2020年には28.5件で「手術の集約化」が進んでいる状況が伺える—。

一般病床の平均在院日数は16.5日、病床利用率は71.3%。2020年には「新型コロナウイルス感染症」という特殊要素があるために厳密な分析はできないが、「在院日数の短縮に、病床利用率向上が追い付いていない」状況が確認でき、コロナ収束後には「ベッド数の適正化」を検討する必要がある—。

また病床数・在院日数には大きな地域格差があり、「多すぎるベッドの利用率を上げるために、在院日数を恣意的に延伸させる」などの事態が生じていないか、地域で検証する必要がある—。

このような状況が、厚生労働省が4月27日に公表した2020年の「医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況 」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら、過去の資料はこちら)(2019年の記事はこちら、2018年の記事はこちら、2017年の記事はこちら、2016年の記事はこちら、2015年の記事はこちら)。

病院の施設数・ベッド数は減少傾向にあり、集約化の進展が伺える

医療施設調査は、病院や診療所などの整備状況や分布、診療機能の現状を把握するために行われる調査です。病院報告は、病院の利用状況などを把握するために行われる調査です。両調査ともに、毎月および毎年行われる小規模調査(動態調査)と、3年に1度の大規模調査(静態調査)とがあり、2020年は「大規模調査」の年にあたります。

調査結果は膨大なため、ポイントを絞って眺めてみましょう。

医療施設調査では、(1)施設数(2)病床数(3)診療等の状況(4)従事者の状況—を詳細に調べています。

まず(1)の施設数、(2)の病床数に関しては、「有床診療所の減少が著しい」ことが再確認できます。1996年には全国に2万452施設ありましたが、2020年には6303施設となり、この25年弱で3分の1(30.8%)に減少しています。直近の医療施設動態調査を見れば「さらに減少スピードが増している」ことが確認できます(関連記事はこちら)。

次に一般病院の施設数を見ると、▼1996年:8421施設 → ▼1999年:8222施設 → ▼2002年:8116施設 → ▼2005年:7952施設 → ▼2008年:7714施設 → ▼2011年:7528施設 → ▼2014年:7426施設 →▼2017年:7353施設 → ▼2020年:7179施設―と、緩やかに減少していることが分かります(25年弱で15%弱減少)。人口減(=患者減)や機能分化の必要性などから「再編・統合」が今後、急速に進んでいくことから、「さらなる減少」が予想されます。

医療施設数の年次推移(2020年医療施設(静態・動態)調査・病院報告1 220427)

病院の公民比率を経時的に見ると「公の比率」が低下傾向

主な開設者別に病院(一般に限らず)の施設数・総病床数を「1996年」(厚労省のサイトはこちら)と「2020年」とで比較してみると、次のようになっています。

▽国:1996年「387施設」「15万4319床」 → 2017年「321施設」「12万5219床」・・・施設数は17.1%減(2017年調査に比べ1.6ポイントマイナス)、ベッド数は18.9%減(同2.0ポイントマイナス)

▽公的:1996年「1368施設」「35万6406床」 → 2017年「1199施設」「30万9255床」・・・施設数は12.4%減(同0.9ポイントマイナス)、ベッド数は13.2%減(同2.1ポイントマイナス)

▼都道府県:1996年「308施設」「8万8005床」 → 2017年「200施設」「5万2516床」・・・施設数は35.1%減(同0.6ポイントプラス)、ベッド数は40.3%減(同0.8ポイントマイナス)

▼市町村:1996年「766施設」「16万7178床」 → 2017年「609施設」「12万3213床」・・・施設数は20.5%減(同2.4ポイントマイナス)、ベッド数は26.3%減(同4.2ポイントマイナス)

▼地方独立行政法人:1996年「0施設」「床」 → 2017年「109施設」「4万2227床」

▼日本赤十字社:1996年「96施設」「4万188床」 → 2017年「91施設」「3万5048床」・・・施設数は5.2%減(同1.0ポイントマイナス)、ベッド数は12.8%減(同2.2ポイントマイナス)

▼済生会:1996年「74施設」「2万531床」 → 2017年「83施設」「2万2616床」・・・施設数は12.2%増(同1.4ポイントプラス)、ベッド数は10.2%増(同0.6ポイントプラス)

▽社会保険団体:1996年「134施設」「3万8904床」 → 2017年「49施設」「1万5264床」・・・施設数は63.4%減(同2.2ポイントマイナス)、ベッド数は60.8%減(同1.0ポイントマイナス)

▽医療法人:1996年「4873施設」「73万6614床」 → 2017年「5687施設」「84万312床」・・・施設数は16.7%増(同1.6ポイントマイナス)、ベッド数は14.1%増(同3.3ポイントマイナス)

▽個人:1996年「1875施設」「16万5637床」 → 2017年「156施設」「1万4545床」・・・施設数は91.7%減(同2.9ポイントマイナス)、ベッド数は91.2%減(同3.3ポイントマイナス)



国・公的・社会保険団体を「公」とし、医療法人・個人を「民」とした場合の公民比率を見ると、1996年には施設数ベースで「21.9対78.1」、病床数ベースで「37.9対62.1」でしたが、2020年には施設数ベースで「19.0対81.0」、病床数ベースで「29.8対70.2」となり、「公」の比率が明らかに下がってきています。一般に「公」病院は大規模であり、「施設の減少」よりも「病床数の減少」が大きくなります。「公立病院改革」や「地域医療構想の実現」などに向けて「合併や民間への移譲」などが進んでいることは確実ですが、さらに「閉院」や「ダウンサイジング」がどの程度進んでいるのか、より詳しく分析する必要があるでしょう。

中規模の病院、「ダウンサイジング」と「集約」の両極化傾向

次に病床規模別に、病院(一般に限らず)の施設数・構成割合(全体に占めるシェア)を「1996年」と「2020年」とで比較してみると、次のようになっています。

▽20-99床
1996年:3992施設・42.1% → 2020年:2970施設・36.1%(2017年調査に比べて0.4ポイント増)

▽100-199床
1996年:2605施設・27.4% → 2020年:2792施設・33.9%(同0.7ポイント増)

▽200-299床
1996年:1278施設・13.5% → 2020年:1036施設・12.5%(同0.7ポイント減)

▽300-399床
1996年:750施設・7.9% → 2020年:677施設・8.2%(同0.1ポイント減)

▽400-499床
1996年:356施設・3.8% → 2020年:369施設・4.5%(同0.1ポイント減)

▽500床以上
1996年:509施設:5.4% → 2020年:424施設・5.1%(同0.2ポイント増)

規模別に見た病院施設数(2020年医療施設(静態・動態)調査・病院報告2 220427)



3年前調査に比べて「100床未満」「500床以上」のシェアが増加しています。中規模病院の維持が困難となり「病床削減による小規模化」「再編・統合による大規模化」の2極に向かいつつある状況が生まれている可能性があります。

病床の集約化、全国規模で進んでいる状況

また、2020年における「人口10万対病床数」を見ると、一般病床では全国平均で703.9。3年前調査に比べて0.8床の微増です。また、都道府県別に見ると、最多の高知県「1109.3」(3年前調査に比べて0.5床減少)と最少の神奈川県「508.8」(同2.1床増)。最多と最小の格差は2.2倍となっています。

地域別に見た人口10万対病床数(2020年医療施設(静態・動態)調査・病院報告4 220427)

地域別に見た人口10万対病院病床数(2020年医療施設(静態・動態)調査・病院報告6 220427)



我が国では、先進諸国に比べ「患者当たりの病床数が多い」と指摘されます。これは「医療従事者1人当たりの患者数が多い」(=患者当たりの医療従事者数が少ない)ことを意味し、これが今般の新型コロナウイルス感染症対応において「患者受け入れのネックになった」ことが確認されています。

「病床数が多い=アクセスが良い」ことに疑いがありませんが、「症例の分散」による「医療の質低下」も生じてしまう点に留意が必要です。Gem Medを運営するグローバルへルスコンサルティング・ジャパン(GHC)と米国メイヨークリニックやスタンフォード大学との共同研究では、「症例数と医療の質(例えば医療安全)は相関する」ことが明らかになっています。

人工膝関節置換術における症例数と術後合併症の関係



ここから「アクセス」と「医療の質」とのバランスを考慮した医療提供体制を地域ごとに考えることの重要性がわかります(アクセスに偏れば医療の質が低下し、質に偏ればアクセスが阻害される)。



1996年には、全国平均で1003.3、最多はやはり高知県で1994.2、最少は埼玉県で679.9となっていました。したがって1996年から2020年にかけて、一見「大幅に病床が減少しており、症例の集約化が進んでいる」ようにも思えます。しかし、実は2001年の医療法改正で「一般病床」と「療養病床」が区分されており、両者を比較する場合には「2020年の一般病床と療養病床を合算する」必要があるのです。そこで、2020年の「一般病床+療養病床の人口10万対病床数」を見てみると、全国平均では933.1で7.0%減少、最多の高知県では1801.1で9.7%減少などとなっています。「医療の質」向上に向けて「病床の集約」がどう進んでいくのか注視していく必要があります。

規模別にみた病院病床数の年次推移(2020年医療施設(静態・動態)調査・病院報告3 220427)

悪性腫瘍手術、1996件から2020年にかけて集約化進む

次に、(3)の診療等の状況の中から「1施設当たりの悪性腫瘍手術実施件数」を1996年と2020年とで比較してみると次のような状況です。

▽悪性腫瘍手術
1996年:10.0件(3054施設で3万605件実施)

2020年:28.4件(2015施設で5万7321件実施)

悪性腫瘍手術については「1施設当たり件数」は3倍近くに増加しています。

上述のとおり「1施設当たりの手術件数等」が増加すれば、医療の質向上が期待でき、「アクセス」と「医療の質」とのバランスを考慮した医療提供体制を地域ごとに考えていくことが重要です。

一般病院のスタッフ数は「充実」傾向、医療の質向上に期待

さらに、(4)「従事者の状況」から、「一般病院における100床当たりの医療従事者配置状況」を1996年と2020年で比較すると、次のようになりました。

▽総数:1996年「101.7」 → 2020年「156.5」(2017年に比べて8.1人増)

▽医師:1996年「11.1」 → 2020年「18.8」(同2.7人増)

▽薬剤師:1996年「2.7」 → 2020年「3.9」(同0.3人増)

▽看護師:1996年「30.2」 → 2020年「62.0」(同4.1人増)

▽准看護師:1996年「14.9」 → 2020年「5.5」(同1.2人減)

▽診療放射線技師等:1996年「2.2」 → 2020年「3.6」(同0.2人増)

▽臨床検査技師等:1996年「3.1」 → 2020年「4.4」(同0.2人増)

▽管理栄養士:1996年「0.9」 → 2020年「1.9」(同増減なし)



1996年における「医師」以外のデータは常勤換算を行っていないため、厳密な比較は困難ですが、総じて「医療従事者が手厚く配置されてきている」状況に疑いはないでしょう。

また、2017年から20年にかけて一般病院では「医療従事者の配置強化」に努めていることが分かります。

上述のように「手厚い医療従事者の配置」が「医療の質向上」「在院日数の短縮」などに結びつくことを考えれば、「真に必要な病床数(地域の医療ニーズにマッチした病床数)」を探り、必要なダウンサイジングを行うことで、より「医療の質」を高めることが期待できそうです。



なお、都道府県別に「人口10万対医師数」を見ると、最多は高知県(316.9人、2017年調査に比べて57.2人増)、最少は埼玉県(137.8人、同12.9人)と大きなバラつきがあります。医師偏在解消に向けて各都道府県では「医師確保計画」を作成し、それに基づいた医師確保(医師の多い地域から少ない地域への派遣要請など)実施に動いています(関連記事はこちら)。今後の状況に注意が必要です。

平均在院日数・病床利用率の動き、コロナ感染症で分析は困難

病院報告では、病院の(A)患者数(B)病床利用率(C)平均在院日数―を詳しく調べています。

Gem Medで繰り返し報じているとおり、平均在院日数の短縮は、▼急性期病院における「重症患者割合」(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合)の向上▼DPC特定病院群(旧II群)要件の1つである「診療密度」の向上▼「院内感染」や「ADL低下」のリスク軽減▼患者のQOL向上(例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す)—といった「経営の質・診療の質」の向上に直結します。

もっとも在院日数の短縮のみを進めれば「空床」が発生し(病床利用率の低下)、病院の収益を悪化させてしまいます。そこで、▼かかりつけ医等と連携した重症紹介患者の確保▼救急搬送患者の積極的な受け入れ—といった新規入院患者の獲得策を同時に採る必要があるのです。

このように、(B)病床利用率と(C)平均在院日数は「セットで見ていく」必要があります。

一般病床について、「2005年」(厚労省のサイトはこちら)と「2020年」とで両者を見てみると、次のようになりました(前述のとおり2001年の医療法改正で「一般病床」と「療養病床」が区分けされ、2005年データからそれが反映されている)。

▽平均在院日数:2005年「19.8日」 → 2020年「16.5日」(2017年調査から0.3日延伸)・・・2005年から20年にかけて3.36日短縮

▽病床利用率:2005年「79.4%」 → 2017年「71.3%」(同4.6ポイント低下)・・・2005年から20年にかけて8.1ポイント低下

2020年には「新型コロナウイルス感染症の影響」で▼病床利用率の低下(一部病棟・病床を閉鎖し、コロナ対応病床にスタッフを集約させる、予定入院・予定手術の延期など)▼平均在院日数の延伸(患者減の中で病床稼働率を上げるため)—などが生じており、状況を正確に分析することは困難です。

ただし、コロナ禍前からも「平均在院日数の短縮に新規患者獲得が追いつかず、病床利用率が低下している」状況が伺えます。この点、「収益を確保するために、在院日数をコントロールしよう(在院日数の短縮をストップさせよう)」と考えることは、▼医療の質を低下させる(例えば感染リスクの拡大、ADL・QOLの低下など)▼地域住民からの信頼を損ねる▼医療費を無用に高騰させてしまう—という大きな問題を招きます。

コロナ感染症の収束を待って「自院の機能や規模が地域の医療ニーズにマッチしているか」を考えることが重要です(関連記事はこちら)。

なお、在院日数コントロールの背景には、我が国の入院料設定も影響していると考えられます。我が国の入院料は、出来高でもDPCでも「1日当たり」で設定されており、「長く入院させると収益が上がる」構造となっています(DPCでは、「●日間の入院が最も利益率が高い」との「解」を見出すことも可能)。

ちなみに都道府県別の平均在院日数(一般病床)を見ると、最長は高知県の21.2日(2017年調査に比べて0.1日短縮)、最短は愛知県の14.0日(同0.1日延伸)となっており、「病床数が多い」→「空床が生じやすい」→「在院日数をコントロールして病床利用率を高める必要がある」→「平均在院日数が長い」という構図が見え隠れしています。

地域別に見た病院の平均在院日数(2020年医療施設(静態・動態)調査・病院報告5 220427)

地域別に見た病院の平均在院日数(2)(2020年医療施設(静態・動態)調査・病院報告7 220427)



この点、2022年度診療報酬改定では「DPCの点数設計見直し」により「在院日数の短縮」を進める試みが導入されました(関連記事はこちら)。米国等で導入されている「1入院当たり」の支払い方式(DRG/PPS)ほどの「在院日数短縮効果」はありませんが、今後、どのように在院日数が動いていくのか注視していく必要があります。



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