病院薬剤師の確保に向け、卒然・卒後教育でのPR、診療報酬上の評価や地域医療介護総合確保基金での支援進めよ—日病協
2023.7.19.(水)
病院薬剤師の確保が「喫緊」の課題となっている。」「卒前・卒後教育の中で病院薬剤師の魅力・やりがいをPRする」とともに、「地域医療介護総合確保基金を活用して奨学金返済を免除する」「診療報酬における病院薬剤師の業務評価を充実し、それをベースに病院薬剤師の給与を引き上げる」などの対応を総合的に進めてほしい—。
地域医療機能推進機構や地域包括ケア病棟協会、日本病院会など15の病院団体で構成される日本病院団体協議会(日病協)が7月11日に、加藤勝信厚生労働大臣に宛てて、こうした内容の「病院薬剤師確保に関する要望書」を提出しました(日本医療法人協会のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。
病院薬剤師が「医師働き方改革」の重要な鍵となるが、病院は薬剤師確保に苦慮
日病協では、これまで「病院薬剤師の確保」をテーマに議論を重ねてきています。
従前より「病院に薬剤師が来てくれず、調剤薬局に流れてしまう」ことが問題視されています。
厚生労働省が6月9日に公表した「薬剤師偏在指標」によれば、病院薬剤師は「すべての都道府県で少な」く(目標値・必要数をクリアできていない)、最高の京都府でも「目標値の94%」にとどまり、最低の青森県では「目標値の55%」しか確保できていないことなどが明らかにされています(関連記事はこちら)。
また、日本病院会の調査では、例えば▼多くの病院が「薬剤師不足、薬剤師確保の難渋」を感じ、とりわけ「薬剤師業務を評価する診療報酬」(病棟薬剤業務実施加算や外来腫瘍化学療法診療料など)を取得する病院ほど「薬剤師不足」を強く感じている▼事態の改善に向け多くの病院では薬剤師の確保のため「学会や研修会への参加を経済的に支援する」「専門資格取得を経済的にも、その他の面でも支援する」などの取り組みを行っているが、それでもなお薬剤師不足に難渋している—ことなどが明らかになっています(関連記事はこちら)。
他方、2024年度からスタートする第8次医療計画でも「病院薬剤師の確保」が重視され、▼医療計画の中に「薬剤師確保」に関する記載を求める(現在は「資質向上」に関する記載のみ)▼各都道府県において「地域における薬剤師確保・配置状況」を把握したうえで、「薬剤師確保」策を推進していく(現在は、4割近くの都道府県が地域の薬剤師充足状況を把握していない)▼地域医療確保総合確保基金を活用し「地域医療機関で一定期間勤務することを条件に奨学金返済を免除する」などの薬学生支援が可能である旨をPRする—といった方向性が示されています(関連記事はこちら)。これを踏まえ厚生労働省は「薬剤師確保ガイドライン」と「薬剤師偏在指標」を公表し、病院薬剤師が「すべての都道府県で不足している」(目標値・必要数をクリアできていない)ことを確認したうえで、薬剤師の偏在解消に向けて、また病院薬剤師の確保に向けて、「3年を1期とする薬剤師確保計画」を作成し、これに沿って計画的・戦略的に薬剤師確保を進めるべきことを各都道府県などに求めています。
さらに2024年度の次期診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会論議の中では、医師働き方改革に向けて「薬剤師へのタスク・シフトが非常に効果的である」ものの、「病院では薬剤師確保に難渋している」ことが明らかにされました(関連記事はこちら)。
こうした中で日病協では、も「病院薬剤師確保に向けた取り組み」について議論を重ねてきており、今般、次の3点を加藤厚労相に強く要望しました。
(1)診療報酬上の対応
(2)地域医療介護総合確保基金をなどの優先的な活用
(3)薬学部の卒前・卒後教育の充実
まず(1)の診療報酬に関しては、次の5項目での対応を求めています。
(a)病棟薬剤業務実施加算の算定対象を、すべての入院基本料に拡大する。とりわけ中小病院や回復期リハビリ病棟・地域包括ケア病棟において、加算の要件となっている「時間設定」(病棟専任薬剤師の病棟業務が週20時間以上)を段階的に緩和する
(b)▼退院時薬剤情報管理指導料(入院時に「当該患者が服薬中の医薬品等」を確認するとともに、当該患者へ「入院中に使用した主な薬剤の名称や副作用等に関する情報」をお薬手帳に記載し、退院に際し患者・家族等に「退院後の薬剤の服用等に関する必要な指導を行う」ことを評価する、退院日に90点)▼退院時薬剤情報管理指導連携加算(退院に際し、患者・家族等へ「退院後の薬剤服用等に関する必要な指導」を行った上で、保険薬局に「当該患者に係る調剤に際して必要な情報」等を文書により提供することを評価する加算、退院日に150点)—を回復期リハビリ病棟や地域包括ケア病棟などでも算定可能とする
(c)病院薬剤師による転院・転所時における薬剤管理サマリ(薬歴に加え、入院中の薬剤投与状況の経緯、退院後の服薬管理支援情報などを薬学的視点で一元的に記載している)などの情報提供について、診療報酬上の評価を新設する
(d)病院薬剤の外来業務(薬剤使用歴の確認・評価、副作用・アレルギー歴の確認、初療室で使用する薬剤の管理、処方設計支援など)について、診療報酬上の評価を新設する
(e)病院薬剤師の時間外業務について、診療報酬上の評価を新設する(病院薬剤師が夜間対応していない病院では、医師が調剤等を行っており、評価新設で「病院薬剤師の夜間勤務体制充実」→「医師の業務負担軽減」が期待できる)
また(2)では、▼奨学金返済免除・都道府県が指定する病院への薬剤師派遣に関する経費▼調剤業務のデジタル化推進(ロボット調剤システム、調剤監査システムの導入など)に関する経費—に、地域医療介護総合確保基金を優先的に活用するよう、国から自治体へ働きかけてほしいと求めています。
さらに(3)では、▼卒前教育における「病院での実務実習(臨床実習)」期間の拡充(現在は22週)▼卒後の薬剤師臨床研修の制度化に向けた研究・検討の推進—を求めています。病院薬剤師の「やりがい、働きがい」を体験してほしいとの要望内容と言えます。
厚生労働省の調査では、薬学部学生が就職先選定で最も重視することは「業務内容・やりがい」であることが分かっています(関連記事はこちら)。卒然・卒業教育で「病院薬剤師のやりがい」をPRし、「基金を活用した奨学金返済の免除」や「診療報酬をベースにした給与引き上げ」などを総合的に進めていくことが重要でしょう。
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