「マイナンバーカードでオンライン資格確認できない」トラブル等に備え「マイナ保険証+資格情報」セット運用—社保審・医療保険部会(2)
2023.8.25.(金)
「マイナンバーカードの保険証利用」が、医療DXの基盤・入り口となり、課題を1つ1つ解消していく必要がある。一度マイナ保険証を使用してもらい「利便性・有用性を実感」してもらうことが重要である—。
▼マイナンバーカードの保険証利用をしない人には「資格確認証」を申請を待たずに交付する▼何らかのトラブルでマイナンバーカードによるオンライン資格確認ができない場合などに備えて紙ベースで「医療保険の加入情報」(資格情報)を交付し、「マイナ保険証+資格情報のセット運用」を行う—仕組みにより、円滑な保険診療受診を保証する。なお、これら交付コストを考慮しても、保険証とマイナンバーカードの一体的利用(保険証の廃止)によるコスト節減効果が100億円程度みこまれる—。
8月24日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こういった議論も行われました(同日の2024年度診療報酬改定基本方針策定論議に関する記事はこちら)。
目次
マイナ保険証持たない人には「資格確認書」を申請を待たずに交付
医療分野においても、質向上・生産性向上に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが加速化しており、例えば「患者の過去の診療情報を全国の医療機関等で共有・確認し、その情報を現在の診療に活かす」取り組みが始まっています(いわゆる【医療DX】、関連記事はこちらとこちら)。
この仕組みが本領を発揮するためには、「すべての医療機関等でDXの基盤となるオンライン資格確認等システムが導入」され、「すべての国民がマイナンバーカードの被保険者証(保険証)利用」を行うことが求められます。医療機関側の基盤は整ったが患者がその利用を求めない、逆に、国民・患者側の準備は整ったが医療機関等でそれを活用する体制が整っていないのでは、DXは進みません。
前者の「オンライン資格確認等システム」については、本年(2023年)4月以降、原則としてオンライン資格確認等システムを導入することが保険医療機関等に義務付けられています(紙レセプト対応医療機関等は例外、また一部医療機関等には経過措置を設けることが昨年末(2022年末)の中央社会保険医療協議会で決定された、関連記事はこちら)。導入状況を見ると、本年(2023年)8月13日時点で、▼準備完了:87.7%(義務化施設では93.8%)▼運用開始:82.2%(義務化施設では88.2%)—という状況です。
後者のマイナンバーカードについては、人口比で有効申請が77.9%、交付済が75.3%となっています。
政府は「マイナンバーカードの保険証利用」を国民の安心・理解を得て進めるために(1)マイナ保険証を保有しない者への対応(2)登録データの正確性の確保(3)その他—を取りまとめ(8月8日)ており、8月24日の医療保険部会でも報告が行われました(厚労省サイトは、こちら(マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会最終とりまとめ)と、こちら(マイナンバー制度及びマイナンバーカードに関する政策パッケージ)。
まず、「来年(2024年)秋以降、マイナンバーカードによる保険証利用」(マイナ保険証)が基本的な姿となります。ただし、「他人の情報が紐づけられていた」「医療機関で資格確認がなされず10割負担を求められた」などの事態が生じており、後述するように「国民の信頼確保」に向けた取り組みが進められます。一方「マイナンバーカードを持ちたくない人」「マイナンバーカードによるオンライン資格確認等が行えない場合」にも、保険診療を円滑に受けられる体制の構築がっ住められます。
前者の「マイナンバーカードを保有しない者」「マイナンバーカードの保険証利用をしない者」には、すでにGem Medでも報じたとおり、医療保険者(健康保険組合や協会けんぽ、国民検討保険など)から「資格確認証」が交付されます。これまで「加入者からの申請に基づいて交付する」「有効期間を最長1年間とする」考えが示されてきましたが、政府は▼申請を待たず「マイナ保険証を保有しない者」にプッシュ型で交付する▼有効期間は「5年以内」で保険者が定める期間とする—などの考え方をまとめました。「マイナ保険証を保有しない者」にも、適切に保険診療を受診する機会をしっかりと確保するための考え方と言えます。
マイナ保険証を使えない場合に備え、「マイナ保険証+資格情報」のセット運用
また、「マイナ保険証のみしか持たない」人が、紙レセプト対応医療機関などオンライン資格確認等システム導入が義務化されていない医療機関を受診する場合などにはどうすればよいのか?という問題に対応するために、政府は「資格情報」(医療保険の加入状況に書ぬする情報を記載した書面)を紙ベースで交付する考えもまとめています。
「紙レセプト対応医療機関などオンライン資格確認等システム導入が義務化されていない医療機関を受診する場合」のほか、「何らかのトラブル(停電やシステム上の問題など)でマイナンバーカードによるオンライン資格確認ができない場合」などに、医療機関窓口で各医療保険者から交付された紙ベースの「資格情報」を提示することで、自分が「どの医療保険に加入しているのか」を証明することができます。また医療機関サイドも「この患者さんが、●●医療保険に加入しており、1―3割の自己負担を徴収すればよいのだな、10割負担分を支払ってもらう必要はないのだな」と安心して事務手続きを行うことができます。これも「円滑な保険診療受診を可能とする」ことを狙った仕組みです。
当面は、基本的に「すべての被保険者等に資格情報が交付される」ことになり、「マイナ保険証と資格情報のセット運用」が保険診療受診のスタンダードモデルになりそうです(上記のトラブル対応のため、また被用者保険(健康保険組合など)では保健事業受診の際に被保険者証提示を求めているため)。
資格確認書や資格情報の交付コストを考慮しても、マイナ保険証推進で大幅なコスト削減
厚生労働省保険局医療介護連携政策課の竹内尚也課長は、「マイナンバーカードの保険証利用により保険証発行コストが節減できる」こと、「資格確認書、資格情報の交付・郵送等で新たなコストが発生する」ことを一定の仮定を置いて粗く試算した結果を医療保険部会に提示。現状(マイナ保険証の利用率52%)では1年度に76-82億円、マイナ保険証利用がさらに進んだ場合(同じく65-70%)には1年度に100-108億円のコスト削減が実現できることを紹介しています。「資格確認書、資格情報の交付・郵送等で余計なコストが生じる。現行の保険証発行を継続すればよいではないか」との指摘がありますが、「資格確認書、資格情報の交付・郵送等のコストを考慮しても、マイナンバーカードの保険証利用により保険証発行コストが大幅に節減できる」と反論する狙いがあると考えられます。
マイナ保険証を1度使ってもらい、利便性・有用性を実感してもらうことが重要
「マイナンバーカードの保険証利用」には国民・患者等の信頼確保が極めて重要となるため、政府は次のような対応を行う考えもまとめています。
▽福祉施設・支援団体の方向けマイナンバーカード取得・管理マニュアル(紛失防止のため鍵付きのロッカー等に保管する、管理記録をつける、職員のうち管理を行う者の範囲を定めるなどの対応案を規定)を作成(「高齢者施設などでは、入所者のマイナンバーカードを保管することに抵抗がある」との指摘があることを踏まえた対応)
▽個別データの総点検を実施
▽国民が自分自身で「データが正しく紐づけられているか」を確認できる仕組みの周知(マイナポータルを利用した確認)
▽マイナンバーカードの健康保険証としての利用に加えて、「生活保護の医療扶助」「自治体による子どもの医療費助成制度」「診察券としての利用」を可能とする取り組みを進め、マイナンバーカード1枚で受診できる環境整備などを進める
▽患者本人の受診履歴に基づいた質の高い医療の実現など「患者がメリットを感じられる」環境の整備
厚生労働省保険局の伊原和人局長は「マイナ保険証は医療DXの基盤・入り口であり、課題を1つ1つ丁寧に解消し、問題を乗り越えていかなければならない。医療現場を訪問すると、マイナ保険証は患者にも病院サイドにも極めて有益であることを確認できる。医療関係者、医療保険者はぜひ患者・加入者に『一度、マイナ保険証を利用してみてほしい』と勧奨し、その利便性を実感してもらってほしい」との考えを強調。
また医療保険部会委員からは、「マイナ保険証は過去の診療録を確認できる、つまり『命を守るカードである』ことをPRすべき。多くの国民はそうしたことを知らないのが実際である」(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)、「首都圏や沖縄県など、地域によってはマイナ保険証を利用できない医療機関が少なくない。解消に努めるべき」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)、「『資格情報』はあくまで例外措置であり、これをもって保険診療を受けられるわけではない点を確認すべき」(安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)、「『資格情報』の交付は医療機関窓口の混乱を避けるために有用だが、そもそもマイナンバーカードは『これ1枚ですべての手続きが完了する』ことを目指した点を忘れてはならない」(前葉泰幸委員:全国市長会相談役・社会文教委員/三重県津市長)、「メリットのPRは良いが、現時点で出来ること、現時点では出来ないことを明確にして、正しい理解を求めるべき」(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会副理事長)などの声が出ています。
上記の対応・取り組みにより、国民が納得・安心・理解して「マイナ保険証の利用」が進むことに期待が集まります。
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