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自治体病院の経営は非常に厳しいが、「地域に必要とされ、地域になくてはならない」病院を目指さなければならない—全自病・望月新会長

2024.6.14.(金)

全国自治体病院協議会が6月13日に総会を開催し、新執行部体制がスタートしました。

新会長には望月泉氏(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)が就任。

副会長には松本昌美氏(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)が再任となったほか、新たに▼小阪真二氏(島根県立中央病院長)▼野村幸博氏(国保旭中央病院長)▼吉嶺文俊氏(新潟県立十日町病院長)—が就任しています。

全国自治体病院協議会の新会長に就任した望月泉氏(岩手県立中央病院 名誉院長・岩手県八幡平市 病院事業管理者)

全自病の望月新会長「若手医師の研鑽を阻害すれば、中長期に医療の質が低下してしまう」

望月新会長は、就任にあたり(1)自治体病院が目指すべき方向(2)医療の質・経営の質の向上(3)医師働き方改革(4)診療報酬—の4点についてコメント。

まず(1)の「自治体病院が目指すべき方向」としては、長年の岩手県立中央病院・八幡平市立病院での実践を踏まえ「地域に必要な病院、地域になくてはならない病院」となるべきと強調。

そのためには、(2)の医療の質・経営の質の維持・確保が不可欠です。医療の質を担保できなければ、住民に必要とされる病院にはなれないことはここで述べるまでもないでしょう。望月新会長は「医療の質」の評価は難しいテーマであるとしたうえで、「全国自治体病院協議会医療の質の評価・公表等推進事業」により多くの病院が参画し、「他院との比較」よりも、「自院の経年的な変化の把握」を行ってはどうかと提案しました。自治体病院と一口に言っても、規模も機能も地域特性も大きく異なるため、まず「自院の医療の質を経時的にチェックし、データを見ながら改善に努めていく」ことを望月新会長は推奨しています。

また、経営の質を確保できなければ、いかに高い志を持っていても地域住民に良質な医療を提供できないことは述べるまでもありません。この点について望月新会長は、「新型コロナウイルス感染症は落ち着いてきているが、患者数は十分に回復せず、収益確保が困難となっている。一方、感染症対策をおろそかにすることはできず、コストは下がらない。さらに、物価高騰や人件費高騰により支出は大きく膨らんでおり、病院経営は非常に厳しい状況にある」と述べ、▼(3)の診療報酬の在り方について国民的な議論を行う必要がある▼診療報酬以外の「病院経営を支える補助金や基金」などの創設を考える必要がある—と訴えました。

さらに(4)の医師働き方改革に関しては「研鑽の重要性」を強調。厚生労働省も研鑽と労働の切り分けが重要であるとしていますが、「必要な研鑽」が阻害されるようなことがあれば、中長期的に医療の質が確保できなくなってしまうことを望月新会長は強く懸念しています。

なお、この4月(2024年4月)からの改正労働基準法(医師働き方改革)の影響について「病院によっては救急医療の縮小などの動きがあるものの、これまでのところ、岩手県レベルでも、全国レベルでも、大きな悪影響が出ているとの報告は受けていない。大学側も医師派遣を維持してくれている。今夏から秋にかけて、自治体病院における医師働き方改革の影響に関する調査を行う予定である」とコメントしています。

このほか、▼患者満足度を上げるためには「職員満足度の向上」が必要不可欠である▼病院幹部で戦略・大方針を固め、現場から具体的な戦術をボトムアップで積み上げていくことが、課題解決にとって非常に重要である▼医師偏在の解消に大きな期待を寄せており、例えば「地域医療支援病院にとどまらず、すべての医療機関の院長要件に、一定期間の医師少数区域等勤務を据える」ことなどを検討すべき▼診療報酬による消費税補填のバラつき是正の改善が急務である▼新たな地域医療構想に関しては、「患者・住民に病院機能を分かりやすく伝える」ことが最も重要である—との考えも示しました。

自治体病院はへき地・過疎地の医療を守る重要な役割、独法化が経営改善の重要な選択肢

また、4副会長からは▼多くの自治体病院は、山間・へき地・過疎地という厳しい環境の中で地域医療を確保しており、そうした病院の代表という気持ちで会務にあたっていく(松本副会長)▼医師偏在指標をはじめ、各種の厚生労働省指標は「人口10万対」で示されるため、島根県のような住人が散在している地域では「医療機関へのアクセス」問題が無視されてしまう。そうした地域特性を踏まえて地域医療を考える必要がある(小阪副会長)▼大規模な地域の中核拠点となる急性期病院であっても、物価高騰や高齢者救急などで大きな課題を抱えている。そうした問題の解決に向けて尽力していく(野村副会長)▼へき地を守る中小規模病院の視点で、自治体病院の在り方を考えていきたい(吉嶺副会長)—との抱負が示されました。



一方、会長を勇退した小熊豊氏(砂川市立病院名誉院長)は名誉会長に就任。「今後、自治体病院をめぐる環境は厳しくなる」と見通し、望月新会長をバックアップしていく考えを強調。

小熊豊・名誉会長(前会長、砂川市立病院名誉院長、向かって右)と、望月新会長



さらに、前副会長からは▼自治体病院の存在意義を示す大事な時期だが、経営状況は非常に厳しい(2022年度は72%が黒字であったが、23年度は77%が赤字)。新体制に期待している(竹中賢治:前副会長(熊本県・天草市病院事業管理者))▼自治体病院の経営改善に向けた手法の1つとして「独立行政法人化」があり、多くの病院で選択肢の1つに据えていく必要があるのではないか(田中一成:前副会長(静岡県立病院機構理事長))—とのエールが新執行部に送られています。

全自病の新執行部、前列左から野村幸博副会長(国保旭中央病院長)、松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)、望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)、小阪真二副会長(島根県立中央病院長)、吉嶺文俊副会長(新潟県立十日町病院長)。後列左から田中一成参与(静岡県立病院機構理事長)、、小熊豊名誉会長(砂川市立病院名誉院長)、竹中賢治前副会長(熊本県・天草市病院事業管理者)



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