国の「がん対策推進基本計画」受け、都道府県で「がん対策推進計画」の作成が進むが、記載内容等に若干のバラつき―がん対策推進協議会(2)
2024.8.7.(水)
国の「第4期がん対策推進基本計画」を踏まえて、各都道府県で「都道府県がん対策推進計画」作成が進んでいる—。
全体を見ると、新潟県・石川県を除く45都道府県で作成が完了し、2県でも近く作成・公表がなされる見込みである—。
計画の内容を見ると、「ロジックモデルの活用」「科学的根拠に基づくがん検診に実施」「支持療法」「新規医薬品、医療機器、医療技術の速やかな医療実装」「地域・病院間の格差モニタリング」などについて、記載内容にバラつきがある—。
8月5日に開催されたがん対策推進協議会で、こういった状況報告も行われました(中間評価に関する記事はこちら)。
「ロジックモデルの活用」「科学的根拠に基づくがん検診に実施」などで都道府県格差
我が国のがん対策は、「がん対策推進基本計画」に則って実施されます。現在、第4期計画(2023年3月に閣議決定)が稼働しています。
この第4期基本計画を踏まえ、各都道府県で「がん対策推進計画」を定め、これに沿って具体的な「がん対策」(予防、医療、共生、基盤整備など)が進められます。
厚生労働省は8月5日の協議会に、本年(2024年)7月時点の「都道府県がん対策推進計画の策定状況」報告を行いました。
そこからは、次のように「相当程度、都道府県計画の策定が進んでいる」ものの、いくつかの課題も見えてきています。
まず【計画策定状況】を見ると、都道府県計画は、新潟県・石川県以外では策定済(2県でも近く策定・公表予定)となっており、山形県、埼玉県、福井県、長野県、三重県、兵庫県、鳥取県、広島県、山口県、愛媛県の10県では「医療計画と一体的ながん対策推進計画」となっていることが分かりました。
次にがん対策推進計画が策定されている45都道府県の状況を見ると、次のような点が分かりました。
【ロジックモデルの活用状況等】
▽北海道、岩手県、秋田県、福井県、愛知県、大阪府、熊本県の7道県以外では、ロジックモデルを活用
▽25自治体で全分野での目標設定が、20自治体で一部分野での目標設定がなされている
【がん予防、がん検診】
▽1次予防(生活習慣・感染症)については、全45自治体で記載あり
▽2次予防のうち「検診受診率向上」「検診の精度管理」については、全45自治体で記載があるが、「科学的根拠に基づく検診」については、北海道、山形県、福島県、栃木県、広島県、長崎県、熊本県、宮崎県の8自治体で記載なし
【がん医療】
▽「ゲノム医療」「手術、化学療法、放射線治療」「チーム医療」「リハビリ」「緩和ケア」「忍容性温存療法」については、全45自治体で記載あり
▽「均てん化・集約化」については、大阪府、山口県の2自治体で記載なし
▽「支持療法」については、青森県、山形県、栃木県、大阪府、広島県、山口県、熊本県の7自治体で記載なし
▽「希少がん、難治性がん対策」については、山形県、富山県、熊本県の3自治体で記載なし
▽「小児がん、AYA世代のがん対策」については、熊本県で記載なし
▽「高齢者のがん対策」については、山口県で記載なし
▽「新規医薬品、医療機器、医療技術の速やかな医療実装」については、岩手県、宮城県、福島県、千葉県、富山県、岐阜県、静岡県、滋賀県、京都府、兵庫県、和歌山県、徳島県、愛媛県の13自治体のみで記載あり
【がんとの共生】
▽「相談支援」「情報提供」については、全45自治体で記載あり
▽サバイバーシップ支援のうち「就労支援」「アピアランスケア」については、全45自治体で記載あり
▽サバイバーシップ支援のうち「がん診断後の自殺対策」については、富山県、長野県、大阪府、鳥取県、山口県の5自治体で記載なし
▽サバイバーシップ支援のうち「その他の社会的な問題」に関する記載は、青森県、山形県、富山県、島根県、岡山県、山口県、大分県の7自治体でなし
▽ライフステージに応じたがん対策のうち「小児・AYA世代」「高齢者」については、北海道、鳥取県、山口県、大分県の4自治体で記載なし
【基盤整備】
▽「研究」については、27自治体で記載あり
▽「人材育成」については、広島県で記載なし
▽「がん教育・普及啓発」「がん登録」については、全45自治体で記載あり
▽「患者・市民参画」については、青森県、山形県、三重県、奈良県、鳥取県、広島県、山口県、宮崎県の8自治体で記載なし
▽「デジタル化」については、北海道、青森県、東京都、愛知県、大阪府、広島県、宮崎県の7自治体で記載なし
▽「感染症発生・災害時対策」については、青森県、鳥取県の2自治体で記載なし
【モニタリングの実施について】
▽各分野の取り組みについて「地域間、医療機関間の差」のモニタリングは、宮城県、秋田県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、東京都、岐阜県、静岡県、滋賀県、奈良県、島根県、山口県、愛媛県、高知県、大分県の17自治体で予定されている
▽管内「市町村のがん対策」のモニタリングは、岩手県、秋田県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、静岡県、滋賀県、奈良県、島根県、山口県、徳島県、大分県の17自治体で予定されている
もっとも、「ロジックモデルを活用しない」「項目について記載がない」自治体がさぼっていると考えるのは早計です。例えば、ロジックモデル活用をしない北海道では「国のロジックモデルでは、多くのアウトカム指標について『患者体験調査』結果を活用するが、都道府県別の結果は回答数が少ない(抽出調査である)こと、調査頻度が少ない(これまでに3回のみ実施)ことなどを踏まえ、『道の計画におけるアウトカム指標』として適当かどうかを検討している」と答えています。
また、がん医療のうち「新規医薬品、医療機器、医療技術の速やかな医療実装」についての記載がない栃木県では、「新規医薬品等の医療実装は、県の取り組むがん施策よりもがん診療連携協議会等や臨床試験・治験を実施している医療機関を中心に推進していくことが適しているために記載していない」と答えています。
たしかに、新規医療技術などは、「高次病院と製薬メーカー等が開発」→「治験や先進医療での実施」→「保険適用を待って全国で実装」という経過を辿ることが多く、地方などでは「都道府県の計画に馴染まない」と考える自治体が出てくることも理解できます。
協議会では、第4期がん対策推進基本計画の中間評価に向けて、「都道府県ごとのがん対策の進捗状況を評価するため、『都道府県ごとのコア指標』を可能な限り測定・公表する。都道府県のがん対策を見える化しながら、地域の実情に応じたより良い取り組みが横展開しやすくなるように取り組みを進める」方針を固めています。
今後、「都道府県がん対策推進計画」の作成完了→実行→効果等の評価が行われていきます。
なお、協議会では、「『患者体験調査』では、都道府県別の回答数が少なくなる。調査の在り方を再考する時期に来ているのではないか」(谷口栄作委員:島根県健康福祉部医療統括監)、「都道府県による各種調査を支援・指導する仕組みも検討してはどうか」(樋口麻衣子委員:富山AYA世代がん患者会Colors代表、富山大学附属病院)、「地域差分析など先進的な取り組みを行う都道府県については、好事例として紹介し、横展開を図るべき」(久村和穂委員:金沢医科大学医学部公衆衛生学非常勤講師、石川県がん安心生活サポートハウスソーシャルワーカー、日本サイコオンコロジー学会代議員)などの意見・注文が出されています。今後の施策を検討するうえで重要な視点となりそうです。
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