同じ「メンタル系疾患」でも、統合失調症・気分障害・神経性障害のそれぞれで状況は大きく異なり、きめ細かなフォローが必要—健保連
2024.10.9.(水)
▼統合失調症、統合失調症型障害および妄想型障害(以下、統合失調症等)▼躁うつ病を含む気分[感情]障害(以下、気分障害)▼神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害(以下、神経症性障害等)—の有病者や医療費を分析すると、疾病の種類によって構造が大きく異なり、また同じ疾病でも、入院と入院外で構造が変わってくる―。
健康保険組合連合会が10月4日に公表した、2022年度の「被保険者のメンタル系疾患の受診動向等に関する調査」結果から、こういった状況が改めて確認できました(健保連のサイトはこちら)。
目次
統合失調症等の入院外、受診率は女性が高いが、1日当たり医療費は男性で高い
主に大企業の会社員とその家族が加入する「健康保険組合」の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、かねてよりデータに基づく保健事業(データヘルス)に積極的に取り組んでいます。
今般、1310組合の被保険者(家族を含まない会社員本人)1596万1791人(男性:1035万8068人(64.9%)、女性:560万3842人(35.1%)、月平均で算出しており合計とは一致しない)のレセプトを対象として、▼統合失調症等▼気分障害▼神経症性障害等—などの医療費を分析し、その結果を公表しました。
まず統合失調症・統合失調症型障害・妄想性障害について見てみます。有病者の年齢構成は、入院外では、次のような層で多くなっています。女性では、男性よりも若い年齢層で有病者が多くなっています。
【男性】
▼45-49歳:17.1%▼50-54歳:17.1%▼40-44歳:13.6%▼55-59歳:12.9%—
【女性】
▼45-49歳:14.7%▼25-29歳:14.1%▼35-39歳:13.8%▼30-34歳:13.7%—
1人当たり医療費を見てみると、男性477円(前年度から11円増)、女性540円(同28円増)となりました。これを医療費の3要素(受診率、1件当たり日数、1日当たり医療費)に分解してみると、次のような状況です。
▼受診率(1000人当たりの受診者数)は、男性62.5(前年度から2.7ポイント増)、女性72.3(同4.9ポイント増)で、女性が高い
▼1件当たり日数(一連の治療に係る通院日数)は、男性1.51日(前年度から0.01日増)、女性1.49日(同0.01日減)で、ほぼ同じ
▼1日当たり医療費、男性5059円(前年度から8円減)、女性5003円(同48円増)で、男性がやや高い
また1人当たり医療費を年齢階層別に見てみると、男性では▼45-49歳:615円(前年度から23円増)▼40-44歳:598円(同2円減)▼50-54歳:594円(同31円増)—、女性では▼35-39歳:681円(同38円増)▼40-44歳:648円(同15円増)▼30-34歳:634円(同31円増)―で高くなっています。
統合失調症等の入院、入院日数は男性が長いが、1日当たり医療費は女性が高い
統合失調症等の入院に目を移すと、有病者は次のような年齢層で多くなっています。
【男性】
▼55-64歳:28.7%▼45―54歳:28.2%▼35-44歳:15.9%—
【女性】
▼25-34歳:24.6%▼45-54歳:22.3%▼35-44歳:21.9%―
1人当たり医療費を見てみると、男性216円(前年度から27円増)、女性241円(同26円増)。医療費の3要素に分解してみると、次のような状況です。
▼受診率は、男性0.5(前年度から0.5減)、女性0.5(同0.4減)で同じ
▼1件当たり日数(一連の治療に係る通院日数)は、男性22.71日(前年度から2.41日延伸)、女性20.38日(同1.78日延伸)で、男性がやや長い
▼1日当たり医療費は、男性2万822円(前年度から1万1734円増)、女性2万3433円(同1万582円増)で、女性がやや高い
また1人当たり医療費を年齢階層別に見てみると、男性では▼70-74歳:784円▼55-59歳:336円▼60-64歳:318円—、女性では▼70-74歳:737円▼15-19歳:458円▼65-69歳:445円―で高くなっています。
気分障害の入院外、受診率は男性が高いが、1日当たり医療費は女性が高い
躁うつ病を含む気分[感情]障害に目を移すと、有病者の多い年齢層は、入院外では次のような状況です。
【男性】
▼50-54歳:17.2%▼45-49歳:16.4%▼55-59歳:14.1%▼40-44歳:12.8%―
【女性】
▼25-29歳:15.2%▼45-49歳:13.9%▼30-34歳:12.9%▼35-39歳:12.8%―
1人当たり医療費は、男性2659円(前年度から98円減)、女性2683円(同46円減)となりました。医療費の3要素に分解すると、次のような状況です。
▼受診率は、男性287.4(前年度から11.0ポイント増)、女性:307.8(同17.8ポイント減)で、女性の方が高い
▼1件当たり日数は、男性1.44日(前年度から0.06日減)、女性1.45日(同0.05日減)でほぼ同じ
▼1日当たり医療費は、男性6406円(前年度から422円減)、女性:6026円(同350円減)で、男性の方が高い
また1人当たり医療費を年齢階層別に見てみると、男性では▼50-54歳:3449円(前年度から227円減)▼45-49歳:3328円(同132円減)▼55-59歳:3263円(同17円減)―、女性では▼25-29歳:3109円(同2円減)▼40-44歳:3097円(同64円増)▼35-39歳:3071円(同14円増)―で高くなっています。女性では「若い世代で1人当たり医療費が高くなる」点などは、前年度から大きく変わっていません。
気分障害の入院、男性で入院日数がやや長い
気分障害による入院を見てみると、有病者が多い年齢層は次のような状況です。
【男性】
▼45-54歳:32.6%▼55-64歳:26.6%▼35-44歳:17.0%▼25-34歳:10.4%―
【女性】
▼25-34歳:27.2%▼35-44歳:22.2%▼45-54歳:20.4%▼55-64歳:15.7%―
1人当たり医療費を見てみると、男性152円(前年度から5円減)、女性126円(同14円減)。医療費の3要素に分解してみると、次のような状況です。
▼受診率は、男性0.3(前年度から1.1減)、女性0.2(同0.9減)で同じ
▼1件当たり日数(一連の治療に係る通院日数)は、男性20.81日(前年度から2.91日増)、女性18.31日(同1.91日増)で、男性がやや長い
▼1日当たり医療費、男性2万2166円(前年度から1万5934円増)、女性2万3916円(同1万6921円増)で、女性がやや高い
また1人当たり医療費を年齢階層別に見てみると、男性では▼70-74歳:385円▼55-59歳:266円▼65-69歳:246円—、女性では▼15-19歳:204円▼70-74歳:176円▼20-24歳:154円―で高くなっています。
神経症性障害等の入院外、受診率・1日当たり医療費とも女性がやや高い
最後に神経症性障害・ストレス関連障害・身体表現性障害を見てみましょう。入院外において、有病者が多い年齢層は次のようになりました。
【男性】
▼50-54歳:15.7%▼45-49歳:15.3%▼55-59歳:13.2%▼40-44歳:12.3%―
【女性】
▼45-49歳:14.1%▼25-29歳:14.0%▼50-54歳:12.9%▼40-44歳:12.3%―
1人当たり医療費は、男性617円(前年度から20円増)、女性899円(同32円増)となり、医療費の3要素に分解すると次のような状況です。
▼受診率は、男性237.6(前年度から8.0ポイント増)、女性308.6(同14.0ポイント増)で、女性のほうが高い
▼1件当たり日数は、男性1.44日(前年度から0.04日増)女性1.45日(同0.05日増)で男女差はない
▼1日当たり医療費は、男性1858円(前年度から10円増)、女性2071円(同10円増)で、女性のほうが高い
また1人当たり医療費を年齢階層別に見てみると、男性では▼45-49歳:698円(同33円増)▼40-44歳:682円(前年度から10円増)▼50-54歳:675円(同17円増)—、女性では▼40-44歳:986円(同32円増)▼25-29歳:971円(同33円増)▼45-49歳:969円(同51円増)—などで高くなっています。
神経障害等の入院医療、医療費は女性で高く、入院日数は男性でやや長い
神経障害等による入院では、有病者が多い年齢層は次のような状況です。
【男性】
▼45-54歳:34.0%▼55-64歳:20.0%▼35-44歳:18.0%▼25-34歳:16.8%—
【女性】
▼25-34歳:39.2%▼35-44歳:24.0%▼45-54歳:17.9%▼15-24歳:9.7%—
1人当たり医療費を見てみると、男性10円(前年度から10円減)、女性15円(同18円減)。医療費の3要素に分解してみると、次のような状況です。
▼受診率は、男性0.0(前年度から0.9減)、女性0.1(同1.0減)で、女性がやや高い
▼1件当たり日数(一連の治療に係る通院日数)は、男性15.77日(前年度から0.77日増)、女性10.73日(同2.07日増)で、男性がやや長い
▼1日当たり医療費、男性2万5767円(前年度から2万4280円増)、女性2万3987円(同2万1645円)で、女性がやや高い
また1人当たり医療費を年齢階層別に見てみると、男性では▼70-74歳:23円▼45-49歳:13円—、女性では▼65-69歳:25円▼30-34歳:23円▼40-44歳:20円―で高くなっています。
このように、同じメンタル系疾患でも、疾病の種類によって有病者の発生状況や医療費の構造(つまり診療内容)が大きく異なることが分かります。さらに、同じ疾病でも、入院外(比較的軽度者)と入院(比較的重度者)では、医療費の構造が全く異なる状況を改めて確認できます。
国や保険者による、疾病別・性別・年齢別・重症度別の「きめ細かいフォロー」が、有病者の抑制(医療費の抑制、生産性の向上、国民自身のQOL向上につながる)に必要と言えるでしょう。
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