塩酸バンコマイシン散、MRSA腸炎など以外への投与は保険診療上「不可」―支払基金
2017.11.28.(火)
保険診療上、「MRSA腸炎や偽膜性大腸炎、造血幹細胞移植時の消化管内殺菌」以外に対する塩酸バンコマイシン散の投与は原則として認めない。また、DIC患者に対する脂肪乳剤のイントラリポス輸液の投与は原則として認めない—。
こうした審査情報を社会保険診療報酬支払基金(支払基金)が11月27日に公表しました(支払基金のサイトはこちら)。
DIC患者への脂肪乳剤「イントラリポス輸液」投与も保険診療上「不可」
医薬品の保険診療における使用は、薬事・食品衛生審議会(薬食審)で有効性・安全性が認められた傷病に対するケースに限定されます。医療安全を確保すると同時に、医療保険財源の適正使用を目指すものです。もっとも医療現場においては、医学的・薬学的知見に照らして「薬食審で認められていない疾病にも一定の効果があると強く推測される」ケースがあり、レセプト審査において一定の柔軟な取り扱いもなされています(いわゆる「55年通知」(旧厚生省保険局長による1980年発出の通知)に基づく適応外使用など)。
一方、審査の現場において地方独自のルール(都道府県ルール)があることも指摘されています。例えば、「山間部などでは冬期に高齢者の通院が困難になるので、薬剤の1回処方量を多くすることを認める」「地域によって、疾患別リハビリテーションを1日6単位までしか認めない(診療報酬点数上は9単位まで算定可能)」などのルールが存在すると言われています。
こうした地方独自ルールを放置していたのでは、「全国一律の診療報酬」に反するとともに、「審査の透明性」が確保できません。そこで支払基金では、審査に関するルールを適宜明確にし、医療関係者らに情報提供しています(支払基金の審査情報提供サイトはこちら)(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
今般は、次の2点の審査ルールが明確にされました。
(1)▼メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)腸炎▼偽膜性大腸炎▼造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)時の消化管内殺菌―以外に対する塩酸バンコマイシン散(バンコマイシン塩酸塩散)の投与は、原則として認めない
(2)播種性血管内凝固症候群(DIC)の患者に対する脂肪乳剤のイントラリポス輸液の投与は、原則として認めない
このうち(1)の根拠として、「塩酸バンコマイシン散の適応は▼MRSA感染性腸炎▼クロストリジウム・ディフィシルによる偽膜性大腸炎▼骨髄移植時の消化管内殺菌―に特化されている」こと、「塩酸バンコマイシン散は、通常、経口投与によってほとんど吸収されず、高い消化管内濃度が得られるが、血中にはほとんど現れないことから、消化管以外の感染症には用いられない」ことをあげています。
また(2)の根拠については、「イントラリポス輸液は、静注用脂肪乳剤であり、添付文書上、▼術前・術後▼急・慢性消化器疾患▼消耗性疾患▼火傷(熱傷)・外傷▼長期にわたる意識不明状態時の栄養補給―が適応である」こと、「イントラリポス輸液には、▼血栓症患者において凝固能亢進による病状悪化のおそれ▼重篤な血液凝固障害のある患者において出血傾向のおそれ—という副作用が指摘されている」ことがあげられました。
請求事務上はもちろん、臨床現場でも上記2点にご留意ください。
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