がん診療内容の病院間比較で「均てん化、ボトムアップ」目指す、コロナ禍でのがん診療への影響を再確認―CQI研究会
2021.8.30.(月)
8月28日に第15回「CQI研究会」(Cancer Quality Initiative研究会、代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)がオンラインで開催されました。
がん診療の内容を病院間で比較することで、「各病院の改善」→「均てん化」「全体のボトムアップ」が図られると期待されます。
また、猛威を振るう新型コロナウイルス感染症が、がん医療に大きな影響を及ぼしていることも改めて確認されました。
胃がんの術式、在院日数、抗菌剤投与、栄養指導など、病院間で大きなバラつき
CQI研究会は、全国から100を超えるがん診療連携拠点病院などが集い、自院のデータを持ち寄って比較分析することで、がん医療の質向上を目指す研究会です(2007年設立)。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が、DPCデータに基づく診療内容・実績の分析を担当しています(関連記事はこちら、2019年の第14回研究会の記事はこちらとこちら)。
8月28日に開催された第15回 CQI研究会では、がん診療連携拠点病院116施設が参加し、(1)がん診療に関する病院間比較(2)新型コロナウイルス感染症ががん診療等に及ぼした影響―の大きく2テーマを議題としました。
まず(1)では、厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」の座長も務める藤也寸志世話人(国立病院機構九州がんセンター院長)から、胃がん・結腸がんを対象として「病院間の診療内容」の比較分析が行われました(研究会では実名が示されています)。
胃がんに焦点を合わせて全体を眺めてみましょう。ここでは、DPCで060020「胃の悪性手術」を選択し、▼K655【胃切除術】の「2 悪性腫瘍手術」▼K655-2【腹腔鏡下胃切除術】の「2 悪性腫瘍手術」―を算定した症例を対象に、各病院における▼件数▼術式割合(開腹か、内視鏡か、ロボット支援下か)▼在院日数▼術後抗生剤投与・銘柄▼血液凝固阻止剤投与▼栄養食事指導―を比較分析しています。
まず件数について2019年度と20年度とを比較すると、「減少している」病院と「増加している」病院とが混在しています。後述するように、コロナ感染症の影響によりで「検査・手術が減少している」病院が多くなっていますが、中には「他院で受け入れられなかったがん患者を引き受け、患者が増加している」病院もあることを確認できます。
次に術式の割合(開腹手術か、内視鏡手術か、ロボット支援下手術か)を2019年度と20年度とで比較すると、全体では▼開腹手術は横ばい▼内視鏡手術は減少▼ロボット支援下手術が増加-であることが分かりました(内視鏡手術からロボット支援下手術へのシフト)。胃がんに対するロボット支援下手術は2018年度診療報酬改定で保険適用され、徐々に医療現場に徐々に浸透している状況が伺えます。しかし2018年度・20年度改定では「優越性のエビデンスが示されなかった」ことから、通常の内視鏡手術点数と同じに設定されています(「内視鏡手術用支援機器を用いて行った場合においても腹腔鏡下切除術の点数を算定できる」という取り扱い)。藤世話人は「ロボット支援下手術の質向上に務め、優越性のエビデンス構築に向けたデータ集積も我々に求められている」(一義的には学会マターであるが、個々のデータは一般病院でもNCDに登録することになる)と指摘しています。
また在院日数を見ると、10日を切る病院がある一方で、30日を超える病院もあるなど、大きなバラつきがあることが再確認されました。藤世話人は「在院日数の長い病院は背景を分析し、短縮に努める必要がある」「一方で在院日数の短い病院では、『一定程度の長期入院が必要となる患者についても、無理な早期退院がなされていないか』など、患者満足度も含めて見ていく必要がある」とアドヴァイスしています。
なお、在院日数と症例数との間には、強い負の相関があることがわかりました。例えば「症例数の少ない病院では、新規患者獲得が困難で、ベッド利用率を上げるために在院日数を延伸している」可能性なども考えられ、背景を分析する必要がありそうです。藤世話人は「治療の標準化が進み、在院日数は収斂していくことが望まれるが、どのあたりが望ましいのかも考えていく必要がある」と見通しています。
さらに▼術後の抗生剤投与日数▼血液凝固阻止剤の投与日数―にも大きなバラつきがあります。他院の状況を見ながら「自院の診療内容の妥当性を検証し、必要があれば改善を行う」ことが重要ですが、藤世話人は「診療行為(例えば血液凝固阻止剤の投与)と、アウトカム(たとえば血栓症の発生率)との関係を見て、医学的・科学的に適正な診療行為(例えば投与日数)を探っていく必要がある」とも付言しています。もっとも重要なのは「治療成績である」ためです。
一方、栄養指導の実施状況を見ると、多くの病院で「すべての患者に実施」している状況が伺えます。「がん患者への栄養確保が、治療成績に大きく関係する」ことから診療報酬でも手当てがなされており、「良い方向に標準化が進んでいる」と藤世話人は見ています。
なお、がん診療における「質向上を目指す診療報酬」の取得状況を見ると、▼B001【特定疾患治療管理用】の「23 がん患者指導管理料」(医師や看護師が患者に対し、治療内容の説明や心理的不安軽減を行うことを評価する)▼B005-6【がん治療連携計画策定料】(がんの種類・ステージを考慮した地域連携パスを作成に基づく治療を行うことを評価する)―の算定が遅れている状況が確認されました。がん治療の質向上に向けて、こうした取り組みが全国の病院で進むことに藤世話人は強い期待を寄せています。
コロナ禍でがん患者は減少、一部に「他院で受けられない患者を受け」て患者増となる病院も
ところで昨年(2020)初めから我が国でも新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、それは「がん医療」にも大きな影響を及ぼしています。
中山治彦世話人(神奈川県立がんセンター総長)は、CQI研究会の会員病院に対して「コロナ感染症への影響」を調査(アンケート調査)し、例えば次のような集計結果を報告しました。回答は83名(76施設)。
▼CQI会員病院のほとんどでコロナ感染症患者を受け入れた(94%)が、一部では「重症化リスクの高いがん患者へのコロナウイルス感染を防ぐ」ために受け入れを行っていない(6%)
▼検査・手術について、「感染拡大の都度の延期している」病院もある(2割程度)が、「延期しない」「コロナウイルスの正体が明らかでなかった第1波の際にのみ延期し、以降は延期しない」という病院が多数は(6割程度)である
▼がん患者数について、3割程度は「変わらない」が、半数の病院では「減少」している。ただし、一部に「増えた」病院もある
▼患者の状態について、コロナ感染症蔓延後には「進行している患者」が増えた印象を持つ病院が少なくない
また中山世話人が総長を務める神奈川県立がんセンターでも、コロナ感染症患者に対応するために「415床のベッドを70床休ませている」状況です。コロナ患者、とりわけ重症患者では手厚い人員配置が必要なことから、一部の病床・病棟を閉鎖し、そこに配置していた医療スタッフをコロナ対応に転換する必要があるためです。もっとも、上述のように「がん患者では、コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクが高い」ことから、中山世話人は「在院日数の短縮」「入院医療から外来医療へのシフト」などにより、感染拡大防止に努めていることなどを報告しています。
あわせて、コロナ禍で「検診の受診控え」→「早期発見の遅れ」→「がんの進行」→「予後が悪化する」という事態を避けるために、「コロナ禍でも、必要な検診などを積極的に受ける」ことの重要性を中山世話人は強調。そのためには「個々の病院はもちろん、行政機関(都道府県や市町村)と連携し、『検診等の受診が必要である。各病院では感染防止対策を敷いており、安心して受診してほしい』とPRすることが重要である」(神奈川県ではPR動画を作成、配信している)とも訴えています。
また、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン代表取締役社長の渡辺幸子は、▼がんの種類別▼入院・外来別▼症例別▼患者の性・年齢階級別―などに、2019年度(2019年4月-2020年1月)と20年度(2020年4月―2021年1月)との状況を比較。そこからは、次のような状況が明らかになりました。
▽がんの外来初診では、対前年同期比で結腸、肺、胃、乳房、前立腺、子宮頸・体部、膀胱(患者数降順)が1割以上も減少していた。コロナの影響が最も大きかった第一波の5月単月では、がん初診症例数トップ5は対前年同月比でマイナス35-55%にも及ぶ。
▽予定手術に関し、2019年度に比べて、胃がんは14%も減少し、結腸や直腸肛門は7-8%減、乳房や肺は6%ほどの減であった(増加しているがん種もあり、背景などを分析する必要がある)
▽▽病期の変化率(19年8月―20年1月と20年8月-21年1月を比較)に関しては、胃がんに関してはとりわけ「初期」(ステージ1、ステージ2)の症例数減少が目立った
▽外来患者数の増減、入院患者数の増減を病院ごとにみると、過半数は「入院・外来ともに減少している」が、「入院患者が増加している病院」が一部あり、さらにごく一部に「入院・外来ともに増加している」病院もある
患者減の背景としては、▼患者サイドの受診抑制(受診によるコロナ感染を防ぐ)▼初期の検査控え(コロナ感染症の正体が不明な時期(例えば2020年4月5月の第1波)には内視鏡検査などを控える必要があった)▼コロナ対応のための入院延期(上述の中山世話人のコメントを参照)▼クラスター発生による診療制限(外来閉鎖、一部病棟閉鎖など)―などがあります。クラスター発生病院では、患者数が前年度に比べて20%超減少しているところもあり、経営的に大きな打撃を受けるとともに、患者にも「受診できない」という大きな影響が及んでいます。
一方、一部病院で「がん患者が増加」している背景には、「他院でがん患者を受け入れられず、紹介患者などが増えている」ことがあります。
コロナ禍では「病院の機能分化・連携の強化」の重要性が再認識され、各地域の実情に応じた機能分化(例えば、A病院は「コロナ感染症患者のみを受け入れる」、B病院は「コロナ感染症患者は一切受けず、がん患者のみを受け入れる」など)を検討していく必要がありますが、そこではCQI研究会会員病院のデータ・経験が非常に有用な資料となるでしょう。
なお、急性期入院医療を評価するDPC制度下では、包括評価ゆえに「医療の質向上に向けた取り組み」が重要となります。この点、多くの病院が「CQI研究会への参加」によって医療の質向上に取り組んでいる状況も明らかとなっています(8月27日開催の「入院医療等の調査・評価分科会」で報告)。
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