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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

指定難病等の医療費助成前倒し、「重症化した日まで、原則1か月、最大3か月」とすることなど決定―難病対策委員会

2022.8.2.(火)

重傷の難病等患者に対する医療費助成について、「患者が重症化した時点」にまで遡って医療費助成を行うとの見直し内容が固められているが、その詳細は次のように考えることとする—。
▽原則として遡及期間は「申請から1か月前まで」とする
▽患者が入院するなど、やむを得ない事情がある場合には「申請から最大3か月前まで」の遡及を認める
▽「重症化した日まで遡及しての医療費助成」が受けられない患者が出ないよう、個別事情に配慮する

また、医療費助成がなされない軽症患者の診療データ蓄積、軽症患者の福祉サービス利用促進などを目指し、「登録者証」を発行することとなっているが、軽症者の負担を考慮し「登録者証の申請は1回のみ」とし、有効期限は設けないこととする—。

7月27日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」と、社会保障審議会・児童部会「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」との合同会議で、このような「難病等制度改正の詳細」が固められました。

厚生労働省健康局難病対策課の簑原哲弘課長は、こうした詳細内容も踏まえて「法律改正案の早期国会提出に努める」考えを強調しています。

無期限に「重症化した日」まで遡及することは制度上できず、「原則1か月」の期限設定

「指定難病への医療費助成」や「難病医療体制の構築」「難病治療法の研究推進」などの総合的な難病対策は、2015年1月に施行された難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づいて実施されています。さらに同法については、医療・医学の推進や社会環境の変化を踏まえて「施行後5年以内を目途に、施行状況を勘案して必要があれば見直しに向けた検討を行う」こととされています。(小児の難病である「小児慢性特定疾患」対策を規定する児童福祉法にも同様の見直し規定あり)。

この点、合同会議や、下部組織のワーキングで難病法等改正に向けた議論が行われ、昨年(2021年)7月に▼医療費助成開始を「申請時点」から「重症化時点」にまで遡及する(医療費の前倒し支給)▼医療費助成の対象とならない「軽症者」のデータ登録を推進する方策を設ける(精緻かつ網羅的なデータベースの構築)▼難病・小児慢性特定疾病データベースの法律への位置づけと、他のデータベース(NDB:National Data Baseなど)との連結解析や第三者提供などの利活用規定を設ける▼医師の負担軽減のために「データ登録のオンライン化」を進める―などの「意見」取りまとめが行われました(関連記事はこちら)。

この意見を踏まえ、「厚労省で改正法案を作成」→「国会での審議」→「改正法の制定、施行」となりますが、新型コロナウイルス感染症の影響で改正法案の作成・提出は遅れています。

ところで、上記の見直し内容の中には「2点の宿題事項」がありました。1つは「医療費助成開始を重点化時点まで前倒しするが、その期限をいつまでとするか」(何年も経ってから「実は●年●月に重症化していたので、過去分の医療費を支給してほしい」と要望があったのでは自治体の事務が混乱してしまう)という宿題事項。もう一つは「軽症者のデータ登録等促進のために『登録者証』を交付するが、その対象者や登録内容、更新頻度をどう考えるか」という宿題事項です。

7月27日の合同会議には、厚労省からこの宿題事項への回答が報告されました。

まず1点目の「医療費助成の前倒し期限」についてです。現在「申請日」に遡って医療費助成が行われますが、それを「申請前の重症化が確認された日(重症基準を満たしていると医師が診断日)」にまで、さらに前倒しする画期的な見直し内容です。この点、「具体的にいつまでの前倒しとするべきか」が宿題事項として残っており、厚労省は次のような回答を示しました。

▽原則として遡及期間は「申請から1か月前まで」とする
→約99%の医師が概ね1か月で臨床調査個人票(臨個票)・医療意見書の作成を完了しているとのデータを踏まえたもの

▽患者が入院する(臨個票提出が遅れる)など、やむを得ない事情がある場合には「申請から最大3か月前まで」の遡及を認める

宿題1への回答内容(難病対策委員会1 220727)



上述のとおり、無制限に助成前倒しを認めれば自治体の助成事務が混乱してしまうために「制度上、一定の制限を設ける」ものです。

ただし、難病患者代表として参画する吉川祐一委員(日本難病・疾病団体協議会代表理事)は「確かに医師のほとんどが診断から1か月以内に臨個票を作成するが、その後の医療機関内の手続きがあり、また、患者の外来受診の状況・診療日予約状況なども考えれば、患者)・家族に臨個票が届くのは1か月を過ぎるケースも少なくない」ことを訴えました。また家族代表として参画する福島慎吾委員(難病のこども支援全国ネットワーク専務理事)も、制度上、期限設定をしなければならない点を理解したうえで「何らかの救済措置を設けてほしい」と要望しています。

また、「原則となる『申請日から1か月』よりも遡って(最大3か月)医療費を助成するケース」について、自治体や担当者による「バラつき」を防止するために「詳細な事例など」の提示を求める意見が、自治体代表として参画する中澤よう子委員(神奈川県健康医療局医務監)から示されました。福島委員や井田博幸委員(慈恵大学理事)、千葉勉委員長(難病対策委員会)(関西電力病院院長)らもこの意見に賛同を寄せています。

こうした意見も踏まえ、簑原難病対策課長は「想定される事例などの提示をQ&Aや申請書の記載要領などを工夫して行い、地域間・担当者間でバラつきが出ないように工夫する」考えを示しています。吉川委員らの要望する「救済措置」については、どのような取り扱いとなるのか、今後の制度設計を見守る必要があるでしょう。

なお、重症ではないものの「年に3月以上、『月の医療費総額が3万3330円を超える』患者」(いわゆる軽症高額、患者の医療費負担に配慮した助成が行われる)についても、同様の「医療費助成前倒し」が行われます。

軽症だが、医療費が一定額以上で長期にわたる場合には医療費助成が行われる(軽症高額)(難病対策委員会2 220727)

軽症者のデータ登録促進など狙い、重症の医療費助成対象者以外にも「登録者証」を交付

また、2つ目の「登録者証」には、▼軽症者のデータ登録を促す▼軽症者が福祉サービス等を利用する際の利便性向上を目指す—という2つの目的があります。

「発症の機構が明らかでない」「治療方法が確立していない」「希少な疾病である」「長期の療養が必要である」という要件を満たす「難病」のうち、▼患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない▼客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という要件を満たした【指定難病】 については、患者の治療継続・社会生活の維持に向けて、「重症の場合」には医療費助成が行われます。

このため「軽症患者」では「データベース登録のメリットが明確でない」(重症者ではデータ登録・医療費助成が一体で行われるが、軽症者では医療費助成が受けられないため、データ登録の負担だけが発生してしまう)ことから、患者・医師双方がデータ登録に消極的であるという課題があります。

難病等のデータベースから「軽症者データ」が抜け落ちることが、研究開発の足かせになっている(軽症→重症化のプロセス解明などが困難)とも指摘されます。

そこで、▼データベースへのデータ登録を行った患者に対し『登録者証』を発行する▼登録者証を、福祉サービス利用等で求められる「医師の診断書」の代わりとして用いることを可能とする—という新たな仕組みの構築が検討されているのです。

ただし、▼軽症者のデータ登録をどこまで求めるか(重症者と同内容のデータ登録を求めることに負担はないのか?)▼重症者は年に1回データ登録・更新を行うが、軽症者の登録・更新頻度をどう考えるか▼「登録者証」の対象者をどこまでとするか(小児慢性特定疾病では「患者数が多い疾患」(例えば気管支喘息)もあり、すべての軽症者に登録者証を発行すれば自治体事務負担が膨大となる)—という宿題がありました。厚労省は次のような回答を提示しています。

【登録項目】
→重症患者と同様に「臨個票・医療意見書の全ての記載項目」とする

【登録対象と頻度】
▽難病
→医療費助成を受けている者(重症者等):受給者証の更新時(原則1年)に登録
→重症度分類に関して医療費助成不支給決定を受けた者:初回のみ登録(再登録不要、有効期限なし)
→軽症のため医療費助成の申請に至らない者:初回のみ登録(再登録不要、有効期限なし)

▽小児慢性特定疾病
→医療費助成を受けている者:受給者証の更新時(原則1年)に登録

宿題2への回答内容(難病対策委員会2 220727)



小児については、まず「医療費助成を受けている者」に限定し、助成を受けていない軽症者について「登録者証のニーズがどこまであるのか」などを今後調査し、「軽症者にも拡大していくか」を検討していくことになります。

登録者証は、医療費助成が行われていない者には、当然「新規に発行する」ことが求められますが、医療費助成が行われている者には「受給者証と一体型」とすることなども可能です。

また、登録者には、上述の考えに沿って「地域で活用可能な障 害福祉・就労支援サービスの情報」提供が行われます。あわせて、障害福祉サービスの利用時に「医師の診断書の代わりに、登録者証を用いる」ことが可能となるように、国から自治体等に制度の周知が行われます。

こうした内容に異論・反論は出ていませんが、▼使い勝手の良いものとすべき、スマホ利用なども研究してほしい(吉川委員、黒瀨巌委員:日本医師会常任理事)▼できるだけ多くの軽症者に登録してもらうことが重要で、支援内容や運用について患者会等の意見を十分に聞いてほしい(井田委員)—などの注文がついています。制度運用時などに十分に考慮することが求められます。

また、柏木明子委員(有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会ひだまりたんぽぽ代表)は、同じ疾患でも「小児慢性特定疾病」と「指定難病」で病名が異なるケースもある(例えば小児慢性特定疾患の「メチルマロン酸血症のコバラミンC型」と、指定難病の「ホモシスチン尿症」など)ことを指摘し、「現場で不都合が生じないように配慮してほしい」と要望しました。今後、専門家の意見も踏まえて「配慮措置」を検討することになります。

なお、軽症者では「初回のデータ登録」しかなされないために、「軽症者の状態変化」を追うことが困難ではないかと錦織千佳子委員(兵庫県赤十字血液センター所長)は心配します。この点、例えば難病等データベースとNDB(医療レセプトデータなどを格納)との突合により「診療内容(診療報酬算定)の変化から、病態の変化を一定程度追えるのではないか」と、簑原難病対策課長はコメントしています。



このほか、次期難病法改正案には、上述の「意見」を踏まえて、▼難病等データベースの法制化(これによりNDBなどとの突合が可能となる)▼難病等の医療関係者と、地域の福祉・就労支援関係者との連携強化▼小児慢性特定疾患児の自立支援強化—が盛り込まれます(関連記事はこちら)。

簑原難病対策課長は「来年(2023年)1月で難病法施行から8年が経過してしまう。省内で早期の難病法等改正案提出に向けて準備を進める」考えを強調しています。

難病等データベースの法的根拠を明確にする(難病対策委員会3 220727)



また、厚労省は難病対策について次のような改善を行っていることも紹介しています。

▽「所得が一定以上であるが、年に6月以上、『月の難病医療費総額が5万円を超える』患者」では医療費助成が行われるが、カウント対象に「小児慢性特定疾患の医療費」も加えることとした(小児→成人の移行期に、円滑な医療費助成が可能となる)

所得が一定以上で、医療が高額が場合の助成制度を充実させる(難病対策委員会5 220727)



▽指定難病の診断基準を最新の医学的知見を求めてアップデートする(臨個票・システムの見直しも必要となるため2023年度に関連通知を発出予定、関連記事はこちら

指定難病診断基準のアップデート(難病対策委員会6 220727)



▽移行期(小児→成人)医療の充実などを図る

▽医療費助成の受給者証において、患者の利便性を考慮し、対象医療機関の個別名称から「地域の指定医療機関」へと包括的記載に改める

受給者証の記載内容改善(難病対策委員会7 220727)



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