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難病制度等改正の意見書まとまる、「重症化時点に遡り医療費助成する」との画期的な仕組みを構築―難病対策委員会

2021.7.1.(木)

6月30日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」と、社会保障審議会・児童部会「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」との合同会議で、難病等の制度改正に向けた論議が大筋でまとまりました。

例えば、▼患者が重症化した時点にまで遡って医療費助成を行う▼データベースを法律に位置づけ、利活用推進により治療法開発などを促進する▼軽症者のデータ登録を促して「網羅的なデータベース」を構築するために、福祉サービスを簡便に利用できるような登録者証を発行する―などの方針を固めました。厚生労働省は改正法案の作成作業に入り、早期の期国会上程・成立を目指します。

指定難病患者等が「重症化」した時点に遡った医療費助成、どこまで遡及させるべきか

「指定難病への医療費助成」や「難病医療体制の構築」「難病治療法の研究推進」などの難病対策は、2015年1月に施行された難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づいて実施されています。ただし、医療・医学の推進や社会環境の変化を踏まえて「施行後5年以内を目途に、施行状況を勘案して必要があれば見直しに向けた検討を行う」ことが難病法に規定されています。また、いわば小児の難病である「小児慢性特定疾患」対策を規定する児童福祉法にも、同様の見直し規定があります。

合同会議や、下部組織のワーキングで議論を進め、▽医療費助成の対象とならない「軽症者」のデータ登録を推進する方策を設ける(精緻かつ網羅的なデータベースの構築)▼難病・小児慢性特定疾病データベースの法律への位置づけと、他のデータベース(NDB:National Data Baseなど)との連結解析や第三者提供などの利活用規定を設ける▼医師の負担軽減のために「データ登録のオンライン化」を進める―などの見直し方向を固めました。

6月30日の合同会議では、これまでの議論を整理した「意見書」案が厚労省から提示され、大筋で了承しました。ただし表現ぶりの修正に向けた意見が委員から多数でており、厚労省と千葉勉委員長(京都大学名誉教授)で精査を行うため、「意見書」の確定版公表は7月上旬となる見込みです。

6月2日に示された「素案」から大きな見直しはなく、重複も多くなりますが、主な制度改正ポイントを見てみましょう。



「医療費助成」については、「遡及助成」が行われます(法改正事項)。

▽発症の機構が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾病である▽長期の療養が必要である—という要件を満たす「難病」のうち、▼患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない▼客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という要件を満たした【指定難病】 については、患者の治療継続・社会生活の維持に向けて、重症の場合には医療費助成が行われます。

現行法では、「申請日に遡って医療費助成が行われる」ことになっていますが、これを一歩進め、「医療費助成を重症化の時点まで、さらに遡る」(つまり、より早く医療費助成を行う)仕組みが改正法で創設されます(償還払いとなり、すでに支払った医療費に対して、助成分が支給される仕組みとなる)。他の公費負担医療制度には見られない、非常に画期的なものです。

現在は、重症化して医療費助成の申請をした日まで遡って助成が行われているが・・・(難病対策委員会2 201210)



この点、「実は何年も前に重症化していた」として無限の遡及を認めれば、助成を行う自治体の事務が混乱するため、「申請日の1か月前までを限度とする」方向で調整が行われていました。臨床個人調査票(臨個票)の作成期間は、ほとんどの場合「1か月以内」であることが分かった点を踏まえたものです。

臨個票作成には1、2週間がかかるケースが多いが、1か月みれば99%の患者をカバーできる(難病対策委員会3 201210)



しかし、委員から「1か月では短すぎる」「事情がある場合には1か月より前まで遡れるような柔軟な対応ができないか」との注文が相次いでいます。この点「柔軟化、つまり『この人は1か月前までしか遡及を認めない』『この人は1か月半前まで遡及を認める』というバラつきが出れば、自治体の事務は大混乱になる」との事情もあります。

そこで、千葉委員長は「患者の病状や指定医の状況によって は1ヶ月以内に申請手続を行うことが難しい場合があり得ることも踏まえて設定するべき」との考えを示し、「遡及期限を1か月よりどの程度前倒しできるか」を詰めるよう厚労省に指示しています。今後、親組織である「厚生科学審議会・疾病対策部会」などに報告が行われ、その後、法案化が行われますが、そこでは「どの程度の遡及が行われるのか」が明らかになっていることでしょう。

「データベース」を法制化し、第三者提供等の利活用を進める

病態解明や治療法の開発に向けて、難病・小児慢性特定疾病の双方で「データベース」が構築されていますが、▼法的に位置づけられていないため、他のNDB(検診・医療レセプト情報を格納)などとの連結をはじめとした利活用が十分に行えていない▼軽症者のデータ登録が十分に進んでない―という課題があります。

前者については、難病法などに「データベースの位置づけや利活用」に関する規定を設けることになりました。▼他のデータベースとの連結解析▼第三者へのデータ提供—などが進み、治療法(例えば新薬など)の開発が進むと期待されます。ただし、難病患者は、そもそも人数が少ないために「個人特定」などの危険性もあり、▼データ提供に当たっては「患者の再同意」(登録時点で同意がいるが、さらに提供時点での同意も必要とする)を求める取り扱いを継続する▼セキュリティ確保策に万全を期す―ことが徹底される必要があります。

軽症者のデータ登録メリットを明確化するための「登録者証」を交付

現行の仕組みでも「軽症者(重症基準を満たさず医療費助成の対象とならない)データを登録する」仕組みが準備されていますが、「データベース登録のメリットが明確でない」ことから患者・医師双方がデータ登録に消極的であるという課題があります。

データベースから「軽症者データ」が抜け落ちることが、研究開発の足かせになっているとも指摘されます。

そこで、「データベースへのデータ登録を行った患者に対し『登録者証』を発行する」(法改正事項)ことで、データ登録のメリットを明確化する方針が明確になりました。

登録者証に▼福祉支援等に関するサービス情報を記載する▼登録者証を「医師の診断書」の代わりとして用いることを可能とする(福祉サービス利用に当たり診断書が必要なケースがあり、これが患者の負担となっている)―もので、軽症者がより円滑に「各種の生活支援」を受けられるようになると期待されます。

ただし、「小児慢性特定疾病の軽症者」については、「患者数が多い疾患」(例えば気管支喘息)もある、ことから、すべての軽症者に登録者証を発行するのではなく(この場合、自治体の事務負担が膨大となる)、例えば「指定難病にも該当するような小児慢性特定疾病」について軽症者登録を始める考えが示されました。詳細は今後、公開の審議会等で議論されます。





厚労省は、合同会議農研を踏まえて、近く難病法・児童福祉法の改正作業に入ります。あわせて、法改正が必要のない事項(例えば「オンラインによるデータ登録に向けたシステム改修」や「難病診療連携拠点病院の設置支援」(残り3県)、「難病相談支援センターの活性化」など)も進める考えです。

なお、意見取りまとめに際して駒村洋平委員(慶応義塾大学経済学部教授)は難病法等の趣旨である「社会連帯」が、真に我が国に根付くような取り組みを進めるべきと強調しています。医療提供体制や研究促進、生活支援・就労支援といった福祉支援を充実していくことはもちろんですが、より多くの国民が難病等を「我が事」(そもそも原因が不明であり、後天的に発症する難病もあり、だれもが「予備群」であるとも言える)ととらえ、皆で手を取り合って共生できるような社会の構築を構築していく必要があります。

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