早産児ビリルビン脳症やCASK異常症など29疾患を「小児慢性特定疾患」として医療費助成すべきか—小慢専門委員会
2021.5.14.(金)
「早産児ビリルビン脳症」や「CASK異常症」など29の小児難病について、医療費助成の対象となる「小児慢性特定疾患」の要件を満たすか否かを検討する—。
5月13日に開催された社会保障審議会・児童部会の「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」(以下、小慢専門委員会)で、こういった検討が始まりました。小児慢性特定疾患の要件を満たすと判断された疾患については、所定の手続きを経た後、今年度(2021年度)中に医療費助成の対象となる見込みです(成人における指定難病追加の議論も始まっており、その記事はこちら)。
要件充足が確認されれば、2021年度中に医療費助成の対象に追加
小児慢性特定疾患は、いわば「小児の指定難病」という位置づけで、該当疾患に罹患した小児は医療費助成の対象となります。これまでに762疾患が指定されており、順次対象疾患が拡大されていきます。
小児慢性特定疾患に指定されるには、(1)慢性に経過する疾病である(2)生命を長期にわたって脅かす疾病である(3)症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾患である(4)長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾患である―という4要件をすべて満たすことが求められます。日本小児科学会の「小児慢性疾病委員会」で、4要件を満たすであろう疾患を「候補」として選定し、小慢専門委員会で4要件をすべて満たすか否かを確認したうえで、所要の手続きを経て対象疾患に追加されます。
今般、小慢専門委員会に、「2021年度に追加すべき疾患」の候補として、次の29疾患が日本小児科学会から情報提供されました。
【慢性腎疾患】(3疾患)
▽ギャロウェイ・モワト症候群:腎糸球体硬化症(ネフローゼ症候群)と小頭症(難治性てんかん,精神運動発達遅滞)を2主徴とする疾患で、原因となる染色体異常や遺伝子変異は見つかっていない
▽鰓耳腎症候群:頸瘻・耳瘻孔・外耳、中耳、内耳奇形など(鰓原性奇形と呼ばれる)に、難聴、腎臓の形態異常(先天性腎尿路奇形)を伴う疾患
▽常染色体優性間質性腎疾患:遺伝性腎疾患(MUC1、UMOD、HNF1B、RENおよびSEC61A1の異常)で、進行性の腎機能障害、腎生検での広範な間質性腎障害が認められる
【神経・筋疾患】(14疾患)
▽徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症:▼てんかん▼脳症▼典型的脳波—の特徴を示す
▽PCDH19関連症候群:正常または軽度の運動発達の遅れを有する乳幼児期の女児に、発熱・感染症等を契機にてんかんを発症する
▽環状20番染色体症候群:難治な非痙攣性てんかん重積状態を主症状とし、ミオクローヌス、小型・大型の運動発作、複雑部分発作、非対称性の強直発作、過運動発作を伴うこともある疾患
▽アイカルディ症候群:眼の異常、様々な種類の脳形成異常、難知性てんかん発作、重度の知的障害、運動障害を呈する疾患
▽ミオクロニー欠神てんかん:意識の曇り、両上肢を中心とする四肢の律動的なミオクロニー性攣縮と強直性収縮を特徴とし、平均7歳頃(11か月-12歳6か月)に発症する
▽ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん:小児てんかんの約1-2%を占める「年齢依存性の全般てんかん症候群」の一型。全般強直間代発作、ミオクロニー脱力発作、非定型欠神発作等の多彩な発作を呈する
▽大田原症候群:重症のてんかん性脳症で、新生児から乳児期早期に発症し、てんかん性スパズムを主要発作型とする
▽早期ミオクロニー脳症:生後早期に発症する非ケトン性高グリシン血症などの代謝異常症、遺伝子異常、脳形成異常が原因となるてんかん性脳症。眼瞼、顔面、四肢に不規則なミオクローヌスが出現する
▽遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん:てんかん発症までの発達は正常で、生後6か月以内に発症するてんかん性脳症。発作中にてんかん焦点が移動することが特徴である
▽視床下部過誤腫症候群:先天性の奇形病変である「視床下部過誤腫」により引き起こされる病態。「笑い発作」や「思春期早発症」を特徴とする
▽WDR45関連神経変性症:脳内鉄沈着を伴う神経変性症(NBIA)の5型に分類され、女児に発症する
▽ビタミンB6依存性てんかん:ビタミンB6(ピリドキシンまたはピリドキサールリン酸)の投与によりてんかん発作が消失または著明に改善し、その後も発作抑制のためにビタミンB6治療の継続が必要なてんかんの総称
▽片側巨脳症:片側の大脳半球が2葉以上にわたり腫大し、生後早期に発症する難治てんかんを特徴とし、不全片麻痺、知的障害を呈する疾患
▽早産児ビリルビン脳症:神経毒性に起因する脳障害で、淡蒼球・視床下核・海馬・動眼神経核・蝸牛神経腹側核などに選択的な障害を認められる
【染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群】(10疾患)
▽ホルト・オーラム症候群:拇指および橈骨系を中心とした上肢の形成異常と、心房中隔欠損や心室中隔欠損などの先天性心疾患を特徴とする症候群
▽バインブリッジ・ロパース症候群:重度の発達遅滞または知的障害、言語発達遅滞、摂食障害を特徴とする先天異常症候群
▽DDX3X関連神経発達異常症:重度の知的障害、言語発達遅滞、摂食障害、特徴的顔貌を特徴とする先天異常症候群。DDX3X遺伝子のヘテロ接合性の変異を原因とし、ほとんどの症例が女性である
▽GRIN2B関連神経発達異常症:重度の発達遅滞および知的障害、筋緊張異常を特徴とする先天異常症候群で、摂食障害、てんかん、自閉症スペクトラム障害、小頭症、運動障害(ジストニアなど)、皮質視覚障害を認める
▽PURA関連神経発達異常症:PURA遺伝子のヘテロ接合性の病原性変異を原因とする重度の知的および運動発達の遅れを特徴とする先天異常症候群
▽ヴィーデマン・スタイナー症候群症候群:多毛、低身長、知的障害、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群で、筋緊張低下、睡眠障害、経口摂取不良、成長ホルモン分泌不全、けいれんを認める
▽CASK異常症:頭部MRIで橋小脳低形成を認める重度の知的障害、小頭症、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群
▽先天性グリコシル化異常症:糖たんぱく質の糖鎖合成不全で、主症状として乳児期からの筋緊張低下、精神運動発達遅滞、特徴的顔貌、皮膚症状、心嚢液貯留などが認められる
▽コーエン症候群:乳幼児期からの筋緊張低下、知的障害、特徴的顔貌、体幹部肥満、網膜ジストロフィーなどの眼異常、間欠的好中球減少症を主要症状とする先天異常症候群
▽ピット・ホプキンス症候群:重度の知的障害、成長障害、筋緊張低下、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群で、ほとんどの例で自立歩行や言語獲得が困難である
【皮膚疾患】(1疾患)
▽限局性強皮症:皮膚およびその下床に限局した皮膚硬化を伴う疾患で、てんかんや脳神経障害、四肢機能障害などを伴うことがある
【骨系統疾患】(1疾患)
▽タナトフォリック骨異形成症:長管骨(特に上腕骨と大腿骨、肋骨)の著明な短縮が特徴で、線維芽細胞増殖因子受容体3遺伝子の点突然変異が原因で発症する
●候補疾患の詳細はこちら(小慢専門委員会の資料)
小慢専門委員会では、これら29疾患について、詳細に「指定難病の要件を満たしているか」を審議(3回程度、非公開で審議する予定)。上述した要件の「すべて」を満たすと判断されれば、今年度(2021年度)中に新たな小児慢性特定疾患として告示され、医療費助成が行われます。
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