2025年度厚労省予算概算要求は34兆2763億円、医療DX推進、サイバーセキュリティ対策、医療提供体制改革など目指す
2024.9.3.(火)
厚生労働省はこのほど、財務省に対して来年度(2025年度)予算の概算要求を行いました。労働保険などの特別会計を含まない一般会計は34兆2763億円を要求しており、これは今年度(2024年度)当初予算に比べて4574億円・1.4%の増額要求となっています。
また年金・医療など社会保障に係る経費については、このうち32兆4375億円を要求。こちらは今年度(2024年度)当初予算に比べて3677億円・1.1%の増額要求となりました(2025年度予算概算要求に関する厚労省のサイトはこちら)。
厚労省と財務省で内容・金額の精査を進め、年末の予算編成過程で最終調整を行い、年内に来年度(2025年度)予算案が確定します(今年度(2024年度)予算案編成における大臣折衝に関する記事はこちらとこちら)。
医療・介護DX推進、サイバーセキュリティ対策などを下支え
厚労省の2025年度予算概算要求では、重点事項として次の3本の柱を打ち立てました。
(1)全世代型社会保障の実現に向けた保健・医療・介護の構築
(2)持続的・構造的な賃上げに向けた三位⼀体の労働市場改⾰の推進と多様な⼈材の活躍促進
(3)⼀⼈⼀⼈が⽣きがいや役割を持つ包摂的な社会の実現
2025年度には、いわゆる団塊の世代全員が後期高齢者となります。さらに、2025年度から40年度にかけては、高齢者数そのものは大きく変化しないものの「85歳以上の後期高齢者のシェアが急拡大していく」ことがわかっています。後期高齢者は若い世代に比べて傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長いため、高齢者の増加は「医療費の増加」を招き、また年金・介護費用の増加にも直結することは述べるまでもないでしょう。
このように社会保障費が高騰していく一方で、支え手となる現役世代人口は減少していきます(2025年度から2040年度にかけて急速に減少する)。
「減少する一方の支え手」で「増加する一方の高齢者」を支えなければならず、医療・介護・年金といった社会保障制度の基盤が極めて脆弱になり、今後もますます厳しさを増していきます。こうした状況も踏まえた柱建てと言えるでしょう。
本稿では主に(1)の中から、保健・医療・介護を中心に主要事項を眺めてみます。
まず「医療・介護DXの推進」について眺めてみましょう。散在する医療・介護等データを紐づけして分析・解析することによって、「より質の高い、効率的な医療・介護」提供が可能になると期待され、政府は昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールを示しています。
厚労省もこの工程表に則り、▼電子カルテ情報共有サービスの実現▼標準型電子カルテの普及▼医療・介護情報の2次利用推進—などの取り組みを進めており、武見敬三厚生労働大臣は「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医療・介護DX」を更に推進していく方針を明確にしています。
こうした取り組みの推進に向けて、次のような事項が要求されています。
▽電子カルテ情報等分析関連サービス構築事業(新規、6億2000万円)
→医療等情報の2次利用に向けて、公的データベース等を一元的かつ安全に利用・解析できる「情報連携基盤」を構築し、そこでは、2025年度中に本格稼働する「電子カルテ情報共有サービス」で共有される医療等情報の2次利用も可能とすることとされており、新たな「情報連携基盤」と「電子カルテ情報データベース」の構築に向けた仕様書作成のため、各種データベースとのデータ連携方法、利活用を支援するポータル機能、データのクレンジング機能、安全管理措置等を含めた調査設計を行う(関連記事はこちら)
▽保健医療情報拡充システム開発事業(新規、5億5000万円)
→救急時に意識不明等で患者の意思確認ができない状態でもマイナンバーカード等を用いて医療情報の閲覧を可能とし、適切な医療を提供できるようにする取り組みが進んでいるが、救急時の医療情報の閲覧はレセプトデータのみであるため、「電子カルテ共有サービス」開始を見据え、傷病名等の6情報等を閲覧できる仕組みを新たに構築し、機能強化を図る
▽診療報酬改定DX(施設基準の届出の電子化推進)(新規、6億円)
→保険医療機関等による施設基準等の届け出をオンラインで行うことができるよう、保険医療機関等管理システムの改修を行う(関連記事はこちらとこちら)
▽医療分野におけるサイバーセキュリティ対策調査事業(1億1000万円、前年度から1000万円増)
→昨今のサイバー攻撃の増加やサイバー攻撃による長期間の診療停止を踏まえると、「医療機関の自主的な取り組みだけでは不十分」と考えられる(関連記事はこちら)
→医療機関のサイバーセキュリティ対策の徹底を図るべく、医療従事者や経営層等へのセキュリティ対策研修の実施、医療機関においてサイバーセキュリティインシデントが発生した際の初動対応支援を実施する
▽医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業(新規、3億5000万円)
→医療機関に対して「委託先事業者と連携し、全ての外部ネットワーク接続点を確認する」ことを求めているが、中・大規模病院は多数の部門システムで構成されているため、各システムを提供する事業者と個別に連携しても「全てのネットワーク接続を俯瞰的に把握する」ことが困難である
→医療機関におけるサイバーセキュリティの更なる確保のため、外部ネットワークとの接続の安全性の検証・検査や、オフライン・バックアップ体制の整備を支援する
▽介護関連データ利活用に係る基盤構築事業(市町村分)(7000万円、前年度から8000万円減)
→「介護予防→要介護認定→介護給付」に至るまでの情報を一体的に利活用するためのデータ基盤の整備・活用に要する経費を補助することにより、保険者等に対し適切な介護保険事業の実施を促進するもの(基本チェックリスト情報、主治医意見書情報、認定調査票情報、医療保険の個人単位医療被保険者番号情報等を、市町村から国保連合会の介護保険審査支払等システムに送付できるようなシステム改修を行う)
▽科学的介護データ提供用データベース構築等事業(5億5000万円、前年度から8000万円増)
→介護サービスの質向上に向けた「科学的介護情報システム(LIFE)を活用したPDCAサイクルを推進するための、データ分析結果等の事業所フィードバック」について、2025年度以降、LIFEシステムが介護情報基盤の運用開始に伴って「顕名データを収集し利活用する顕名LIFE」に改組されることを踏まえた改修等を行う
▽介護テクノロジー開発等加速化事業(旧:介護ロボット開発等加速化事業)(9億2000万円、前年度から4億3000万円増)
→介護現場におけるテクノロジーへの理解を促進し、開発企業が介護テクノロジー市場に参入しやすい環境を整備する必要があり、▼介護施設・開発企業双方からの介護テクノロジーに関する相談窓口や開発実証を行う等の「開発・実証・普及のプラットフォーム」運営▼介護ロボット等の導入効果に係る大規模実証▼介護ロボットに関するフォーラム等による情報発信—などを行う
▽介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分))(地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)97億円の内数)
→介護人材確保が喫緊の課題とされる中で、介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用による業務効率化等で職員の業務負担軽減を図るとともに、生み出した時間を直接的な介護ケアの業務に充て、介護サービスの質の向上にも繋げることが重要である。職場環境改善等に取り組む介護事業者がテクノロジーを導入する際の経費を補助し、生産性向上による働きやすい職場環境の実現を推進する
▽介護生産性向上推進総合事業(地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分))(地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)97億円の内数)
→都道府県の主導のもと、介護人材の確保・処遇改善、介護ロボットやICT等のテクノロジーの導入、介護助手の活用など、介護現場の革新、生産性向上にワンストップ型の総合的な事業者への支援を可能とする「介護生産性向上推進総合事業」を実施する
▽介護事業所における生産性向上推進事業(1億4000万円、前年度と同額)
→生産性向上に係るセミナー、気運を盛り上げるためのフォーラム、デジタル活用に特化した人材養成研修を着実に実施するとともに、2024年度より開始する介護報酬の【生産性向上推進体制加算】や補助金により事業所より収集した取組効果のデータを、さらに有効活用しフィードバックする方策について検討する
▽電子処方箋の有効活用のための環境整備事業(新規、1億2000万円)
→電子処方箋管理サービスの機能拡充(院内処方管理機能)を行うため、システム改修や技術支援等のほか、医療機関・薬局向けベンダ用の技術支援ポータルサイト運営などを行う
▽電子処方箋の利活用促進(新規、8300万円)
→医療機関・薬局等から電子処方箋に関する意見や課題等を収集・整理し、医療機関・薬局、国民に向けて利活用を促進するのに効果的な周知広報等を実施する
→2024年度に機能拡充される院内処方管理機能等の運用に関する課題や好事例等の収集を行い、追加機能のメリットを積極的に発信する
地域医療構想の実現、かかりつけ医機能報告制度の施行などを下支え
また、現在、厚労省では各検討会などで▼新たな地域医療構想の策定▼現行地域医療構想の実現▼かかりつけ医機能報告制度の稼働準備▼医師偏在の是正—など、医療提供体制改革に向けた検討等が進められています。これらを後押しするために、次のような事項が要求されています。
▽地域医療介護総合確保基金(医療分)(733億円、前年度から増減なし)
→医療提供体制改革に向けた医療現場の取り組みを、各都道府県に設置した基金を持ちいって支援する(2014年度から稼働)
▽入院・外来機能の分化・連携推進等に向けたデータ収集・分析事業(4億4000万円、前年度から5000万円増)
→地域医療構想の実現、第8次医療計画の進捗管理等に活用するため、病床機能の分化・連携の促進に向けた病床機能報告を引き続き実施するほか、外来機能の分化・連携の取組に向け、必要なデータ収集・分析を行う
→新たな地域医療構想の策定支援ツール開発を行い、各都道府県に提供する
▽地域医療構想の実現に向けた医療機能分化・連携支援事業(2億円、前年度から3000万円増)
→地域医療構想の中で特に実施が困難な「複数医療機関の再編」について、その検討段階から、相談、事例紹介、調査・分析等を通じて、実現までの支援を行う(関連記事はこちら)
→重点支援区域等への支援で得られた知見や過去の再編事例等の調査を通じて、地域医療構想を推進する上での課題に対し、参考となる有効な分析、制度等の活用・改善方策を検討する(関連記事はこちら)
→モデル推進区域への区域の課題解決に向けてアウトリーチの伴走支援を行う
▽総合的な診療能力を持つ医師養成の推進事業(5億6000万円、前年度から2億6000万円増)
→医師の地域偏在と診療科偏在の解消に向けた取組のひとつとして「幅広い領域の疾患等を総合的に診ることができる総合診療医」の養成を推進する(関連記事はこちら)
▽地域医療提供体制データ分析チーム構築支援事業(新規、2億4000万円)
→第8次医療計画や地域医療構想の実現のため、医療提供体制の構築を着実に進めるとともに、構築した体制についてPDCAサイクルを実施するため医療提供体制に関する評価・分析を行う必要がある
→地域医療構想策定には、「地域の現場感覚とマッチしたデータ分析」が必要なため、都道府県におけるデータ分析体制の構築を支援するとともに、分析集積し、分析体制のベストプラクティスを検討・実践する
▽医療機能情報提供制度に係る全国統一システムの運用・保守・改修等経費、かかりつけ医機能報告制度に係るシステム(G-MIS)の構築等(19億円、前年度から16億9000万円増)→医療機能情報提供制度について、全国統一システムに係る運用・保守等及び工程管理業務等を行うとともに、かかりつけ医機能に関する報告項目の見直しなどに伴う改修を行う(関連記事はこちら)
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▽かかりつけ医機能普及促進等事業(7500万円、前年度から増減なし)
→2025年度から稼働する「かかりつけ医機能報告制度」が円滑に運用され、地域において必要なかかりつけ医機能が普及・推進されるための支援を行う
▽かかりつけ医機能研修事業(新規、2000万円)
→人口構造等の変化に対応し、「治す医療」から「治し、支える医療」を実現するために、「幅広い診療領域の全人的な診療を行う医師」の増加を促す仕組みが必要となる
→新たに開業し地域医療を担うことを検討している病院勤務医や、既に地域の中小病院や診療所でかかりつけ医機能を担っている医師等が研鑽を積む研修体制の整備等を支援する(関連記事はこちら)
▽医師の働き方改革普及啓発事業(新規、1億5000万円)
→医師働き方改革を更に進めていく必要がある(2036年度のB水準終了など)が、そこでは国民の理解・協力が必要不可欠となるため、医師働き方改革について▼インターネット等への動画放映▼普及啓発用ポスター等の作成▼イベントの実施による普及活動—を行う(関連記事はこちら)
▽医師の働き方改革にかかる地域医療への影響等に関する調査事業(新規、8100万円)
→B水準等については3年ごとに見直しを行うことになるため、B水準適用医師等の労働時間の状況を把握し、各医療機関における取組の進捗や労働時間の短縮状況の分析等を行う(関連記事はこちら)
▽看護現場におけるデジタルトランスフォーメーション効果検証事業(新規、2億8000万円)
→看護師養成や看護現場のDXを促進し、看護業務・看護職員育成の効率化の推進・その効果評価により、看護サービスのさらなる向上を目指す
▽中堅期看護職員等の就業継続支援事業(新規、2800万円)
→新人教育に携わる中堅期看護職員が気兼ねなくコミュニケーション等ができる環境や、必要な研修を受講できる環境等を提供することにより、新人教育に携わる看護職員等の離職防止・就労継続を支援する
難病対策、糖尿病性腎症対策、子宮頸がん予防対策なども強力に推進
また各種疾患等対策の強化に向けて次のような事項・予算の要望も行われました。
▽糖尿病性腎症患者重症化予防の取り組みへの支援(糖尿病性腎症患者等で、生活習慣の改善により重症化の予防が期待される者に対する医療保険者と医療機関とが連携した保健指導等の費用の補助):6600万円(前年度から1400万円増)
▽共生社会の実現を推進するための認知症基本法等に基づく施策の推進:148億円(前年度から14億円増)
▽子宮頸がん検診におけるHPV検査単独法導入に伴う健康管理システムの改修事業:9億5000万円(新規、関連記事はこちら)
▽難病・小児慢性特定疾病対策の着実な推進(難病患者等への医療費助成の実施、難病の医療提供体制の構築、難病・小児慢性特定疾病に関する調査・研究などの推進など):1658億円(前年度から51億円増)(関連記事はこちら)
▽移植医療対策の推進:41億円(前年度から6億円増)(関連記事はこちら)
このほか、長引く医薬品供給不安への対応、優れた医薬品の開発支援などのために、例えば▼新規モダリティ対応ヒト初回投与試験体制整備等事業(新規、7億9000万円、国立がん研究センター中央病院が実施主体となり国内のFIH試験の中核的な役割を担う体制の整備を推進)▼国際共同治験ワンストップ相談窓口事業(新規、2億7000万円)▼小児医薬品開発ネットワーク支援事業(新規、2500万円)▼小児医薬品開発支援体制強化事業(新規、4800万円)▼創薬力強化のための早期薬事相談・支援事業(新規、6800万円)▼医薬品安定供給・流通確認システム(仮称)の開発(新規、3億9000万円)▼医薬品の供給情報等の把握等の体制整備等事業(新規、2億7000万円)▼抗菌薬安定確保事業(新規、3億6000万円)▼抗菌薬安定確保事業(新規、5100万円、供給リスクの低減に取り組む製薬企業等の支援)▼医薬品供給リスク等調査・分析事業(新規、8500万円)—などの事項が注目されます。
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