2023年度の1か月医療費上位1―14位は脊髄性筋萎縮症患者で各々1億7000万円程度、1000万円超レセは2156件で過去最高更新―健保連
2024.10.8.(火)
昨年度(2023年度)において、1か月当たり医療費が1000万円以上となった高額レセプトは2156件あり、前年度に比べて364件・20.3%の増加で、「過去最高」を更新した—。
超高額レセプト増加の背景には、脊髄性筋萎縮症治療薬「ゾルゲンスマ」、白血病等治療薬「キムリア」などの保険適用が大きく関係していると見られ、上位1-14位までは脊髄性筋萎縮症患者で占められ、それぞれ「1か月に1億7000万円」程度の超高額レセプトが発生している。なお、1か月当たり医療費の最高額は、脊髄性筋萎縮症患者の1億7815万8100円であった—。
健康保険組合連合会が10月3日に公表した昨年度(2023年度)の「高額レセプト上位の概要」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(2022年度に関する記事はこちら、2021年度に関する記事はこちら、2020年度に関する記事はこちら、2019年度に関する記事はこちら、2018年度に関する記事はこちら、2017年度に関する記事はこちら、2016年度に関する記事はこちら)。
がん患者の高額レセが増加続け、2023年度には上位100件中「76件」に
健康保険組合(健保組合)は、主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険です。健保組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、毎年度のレセプトから「1000万円以上の高額レセプト」を抽出し、分析しています。
1000万円以上の高額レセプトは昨年度(2023年度)には2156件発生し、過去最高を更新しました。最近の状況を見ると、次のようにハイペースでの増加を続けていることが分かります。
▼2014年度:300件
↓
(61件・20.3%増)
↓
▼2015年度:361件
↓
(123件・34.1%増)
↓
▼2016年度:484件
↓
(48件・9.9%増)
↓
▼2017年度:532件
↓
(196件・36.8%増)
↓
▼2018年度:728件
↓
(123件・16.9%増)
↓
▼2019年度:851件
↓
(514件・60.4%増)
↓
▼2020年度:1365件
↓
(152件・11.1%増)
↓
▼2021年度:1517件
↓
(275件・18.1%増)
↓
▼2022年度:1792件
↓
(364件・20.3%増)
↓
▼2023年度:2156件
また金額階級別に高額レセプトの対前年増加率(過去5年間)を見ると、下図のように「2000万円以上」の超高額レセプトが大きく増加している状況が伺えます。
健保連では、▼例えば白血病等の血液がん治療薬の「キムリア点滴静注」や脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」のような「超額医薬品の保険適用が進んでいる」こと▼「超高額医薬品の使用が増加している」こと▼2014年度には循環器系疾患や血友病が主な高額レセプト対象疾患であるが、2023年度には先天性の難病や悪性腫瘍など「超高額な医薬品を使用する疾患」に変わってきていることなどを紹介しており、「高額な医薬品の保険適用と対象患者の増加が、高額レセプト増加の大きな要因になっている」と考えていることが伺えます。
また、昨年度(2023年度)における上位100疾患のリストに目を移すと、最高額のレセプトは脊髄性筋萎縮症の患者で1か月当たり「1億7815万8100円」でした。また、2020年度、21年度、22と同様に第1位から第4位まで「脊髄性筋萎縮症」患者が占めており、それぞれ「1億7000万円ていど」の高額レセプトが発生しています。述べるまでもなく、上述した「ゾルゲンスマ点滴静注」の保険適用が大きく関係しています(当初薬価は患者1人当たり1億6707万円7222円)。
このほか、高額レセプトの対象では「血友病A」「高フェニルアラニン血症」などのほか、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」患者や「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」など、「キムリア点滴静注」が適応となる疾患の患者が多く含まれています。
長期的に見ていく必要がありますが、上述のように上位100件の高額レセプトの「疾病構成」について、「悪性腫瘍」が大幅に増加する(2019年度はゼロ件→2020年度は24件→2021年度は49件→2022年度は79件→2023年度は74件)など、その顔ぶれに大きな変化が生じていることが確認できます。
悪性腫瘍、つまりがん患者は今後も増加すると見込まれ、同時に「優れた、しかし超高額な治療薬」も相次いで出現すると予想されます。「優れた医薬品」の相次ぐ開発・保険適用は、患者・家族にとっては何よりの朗報ですが、こうした医薬品は「超高額であり、医療費を膨張させてしまう」という事実からも目をそらすことはできません。もちろん「薬価」ばかりに目が行き、製薬メーカーの開発意欲を削ぐことは本末転倒であることは述べるまでもありませんが、「薬価算定ルールの在り方」や「対象患者の明確化」(最適使用推進ガイドラインなど)などをめぐる議論も厳しさを増していく可能性があります(中央社会保険医療協議会・薬価専門部会における2025年度の薬価中間年改定論議に関する記事はこちらとこちらとこちら)。
ところで、こうした高額レセプトが発生した場合、健保組合の財政が一時的に苦しくなることがあります。とりわけ小規模な健保組合では、1件でも高額レセプトが発生した場合、財政に大きな影響が出がちです。そこで健保連では、いわば「再保険」とも言える仕組みを用意しています。具体的には保険料の一部をプールし、高額レセプト(2023年度は一般疾病では150万円超、血友病などの特殊疾病では100万円超)が発生した健保組合に対して、基準額(同)を超過した分が交付されます(高額医療交付金交付事業)。
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