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多くの地域でがん患者が減少する点、手術患者は減少するが放射線・薬物療法患者は増加する点踏まえて集約化検討を―がん診療提供体制検討会(1)

2025.6.24.(火)

がん医療提供体制について、高度ながん手術療法・薬物療法・放射線治療は「症例の集約化による質の維持・向上」を進める方向で検討が進んでいるが、さらに「地域のがん患者数」や「療法別のがん患者数」の動向なども踏まえて「集約化」を検討する必要がある—。

患者数が減る地域・療法については「がん医療の質の維持・確保」「がん診療連携拠点病院等の経営維持、医療技術の質の維持・向上」などの面から集約化の要請が強いが、患者数が減らない、かえって増加する地域・療法について集約化を進めれば、「がん診療連携拠点病院等で治療を受けられない患者」があふれてしまう等の弊害も出てくる—。

この点、がん患者数は「大都市では増加するが、多くの地方では減少する」こと、また療法別に見ると「手術ニーズは多くの地域で減少するが、放射線・薬物療法ニーズは全国的に増加する」ことなども踏まえて、「どの地域の、どの分野のがん医療を集約化していくか」を丁寧に検討する必要がある—。

6月23日に開催された「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、関係学会も交えてこうした議論が行われました。今夏(2025年夏)に議論の整理を行った後、「がん医療提供体制の均てん化・集約化」に関する通知を厚生労働省が各都道府県に発出します。

6月23日に開催された「第18回 がん診療提供体制のあり方に関する検討会」

集約化を検討すべきがん「高度がん医療」を手術・放射線・薬物療法等別に整理

我が国のがん対策は「がん対策推進基本計画」に基づいて進められます。がん医療提供体制の整備に関しては、これまで「日本全国のどの地域に住んでいても、優れたがん医療を受けられる体制を整える」という【均てん化】の方針に則って進められてきました。

ただし、▼少子高齢化が進み医療従事者の確保、症例(患者)の確保が難しくなる▼がん医療の高度化が進む—中で、従前どおり「多くのがん診療連携拠点病院等を整備」し続ければ、医療人材・症例(患者)が分散し、「がん診療連携拠点病院などの経営が困難となる」ことはもちろん、何よりも「がん医療の質の低下」につながってしまいます。そこで、第4期のがん対策推進基本計画では、【均てん化】とともに、持続可能ながん医療の提供に向け、拠点病院等の役割分担を踏まえた【集約化】を推進する考えを明確にしています。

この考え方は、新たな地域医療構想で「急性期拠点病院機能の集約化・絞り込み」を行う方針が示されていること、外科系学会が「高度手術を実施する施設の集約化・絞り込みが治療成績の維持・向上に向けて不可欠である」と提言していること(関連記事はこちら)などとも合致します。

検討会では、この方針に沿って「がん医療のどの部分について【均てん化】を進め、どの部分について【集約化】を図るのか」という議論を進めており、6月23日の会合では意見とりまとめ(議論の整理)に向けた検討を行いました。

ただし、国が「●●医療は都道府県拠点病院に集約化する、○○医療は地域拠点病院で広く行う」と一律に決めることはできません。がん患者の状況や医療資源の状況などは地域によって大きく異なるためです。そこで、▼厚労省が、「均てん化・集約化の考え方、集約すべき具体的な医療技術の例」を示す→▼この考え方に沿って、各都道府県で「●●医療は県拠点病院に集約化を進める、○○医療は地域拠点病院で実施する」などの切り分け方針を固め、集約化を進めていく—という具合に「段階的に集約化・均てん化の切り分けを進めていく」ことになります。

本稿では、前者の「均てん化・集約化の考え方、集約すべき具体的な医療技術の例」に焦点を合わせ、別稿で「各都道府県における切り分けの進め方」などを見ていきます。



まず、「集約化すべきがん医療」と「均てん化すべきがん医療」の切り分けは、(1)医療需給の観点(2)医療技術の観点—の2つの軸で行うこととされ、これまでに(2)の医療技術の観点では、▼手術療法▼放射線療法▼薬物療法▼その他の医療—について次のようなグループに切り分けていく方針を固めています(関連記事はこちらこちら)。

●医療技術の観点に関する厚労省分類案はこちら

(i-1)都道府県または更に広域での集約化の検討が必要な医療
→希少がんに対する手術、粒子線治療、小児がん・希少がんへの薬物療法など

(i-2)都道府県での集約化の検討が必要な医療
→食道がんに対する食道切除再建術、遺伝性乳がんに対する予防的乳房切除術、膀胱がんに対するロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘術、専用治療病室を要する核医学治療、高度な薬物療法(特殊な二重特異性抗体治療等)など

(ii)がん医療圏または複数のがん医療圏単位での集約化の検討が必要な医療
→肺がんや乳がん、子宮がんなどに対する標準的な手術、強度変調放射線治療や画像誘導放射線治療等の精度の高い放射線治療、標準的な薬物治療、がんゲノム医療など

(iii)更なる均てん化が望ましい医療(できる限り多くの診療所・病院で提供されることが望ましい医療)
→癌性腹膜炎・癌性胸膜炎に対する治療、副作用が軽度の術後内分泌療法、がん検診、がんリハビリテーション、緩和ケア療法など

がん医療の均てん化・集約化に向けた医療行為切り分けの考え方(がん診療提供体制検討会(1)1 250623)



この考え方に対し、松本公一構成員(国立成育医療研究センター小児がんセンターセンター長)は「小児医療についても、集約化と均てん化が重要である。厚労省の整理案では『集約化』すべき技術は記載されているが、『均てん化』すべき技術の記載は不十分であり、工夫してほしい」と注文を付けましたが、関係学会の考え方をベースに検討会意見を踏まえて厚生労働省が整理した考え方であり、反対意見は出ていません。

概ね上記の内容で「集約化すべき医療技術、均てん化すべき医療技術」の切り分け例として、都道府県に提示される見込みです(通知が示される見込み)。

もっとも「例示」であり、「必ず上記に通りに切り分けなければいけない。例えば『食道がんに対する食道切除再建術』を地域拠点病院で実施してはいけない」という性質の分類ではありません。

上述のようにがん患者の状況、医療資源の状況は地域によって異なっており、各都道府県で「地域の実情」を十分に踏まえ、患者の理解も得ながら、上記を参考に「どの医療技術を都道府県拠点病院に集約していくか、どの医療技術を地域拠点病院で広く実施していくか」を検討していくことになります。こうした検討の進め方は、別稿で詳しく見ていきます。

2040年にかけて沖縄県や東京都など16都府県でがん患者は増加するが、31道県では減少

6月23日の会合では、上記(1)の「医療需給の観点」、つまり「将来、がん患者はどのように推移(増加?減少?)するのか、がん医療提供体制はどう変化していくのか」に関する分析データが提示されました。

がん医療において「集約化」が求められる背景には、上述のように「がん患者・がん医療提供者が減少するため、がん拠点病院等の経営や医療の質の確保が難しくなる」ことがあります。このがん患者減等の状況は地域によって異なるため、「集約化と均てん化の切り分け」方も当然異なってきます。

例えば「がん患者が減っていく」地域で、集約化を進めず、多くのがん拠点病院等があれば、症例が分散し▼がん拠点病院等の実績基準を満たせなくなり、経営が厳しくなる▼技術の習得・維持が難しくなり、がん医療の水準が低下してしまう—などの事態に陥ってしまうため、急ぎ集約化を進める必要があります。

しかし、「がん患者がそれほど減らない、あるいは増えていく」地域で、集約化を進め、がん拠点病院等が限定されてしまえば、「当該拠点病院等だけで地域のがん患者に対応しきれなくなる」→「がん拠点病院等の指定を受けていない一般病院で、がん医療を受けなければならない」等の事態が生じ、上記とは異なる方向でがん医療の質低下が生じて可能性が出てきます。

このため、地域ごとに「がん患者・がん医療提供者は増えていくのか、減っていくのか」を見ていく必要があるのです。

この点について厚労省は、▼国立社会保障・人口問題研究所の推計した「日本の地域別将来推計人口」▼全国がん登録における年齢階級別がん罹患率—をもとに、「がん患者数」の変化を次のように日本全体・都道府県別・2次医療圏別に予測しています。

【日本全体】
▽2040年に向け、がん患者は横ばいから微増で推移する
→64歳以下のがん患者は減少(生産年齢人口の減少)
→65-84歳のがん患者は横ばい
→85歳以上のがん患者は増加(いわゆる団塊世代の高齢化)

日本全国のがん患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)2 250623)



【都道府県別】
▽都市部を中心に16都府県で増加
▽31道県で減少

都道府県別のがん患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)3 250623)



【2次医療圏別】
▽大都市部の88%の2次医療圏でがん者数が増加
▽地方都市部の59%、過疎地域の98%の2次医療圏でがん患者が減少

2次医療圏別のがん患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)4 250623)



人口、とりわけ高齢者人口の増加する大都市を中心にがん患者は増加を続け、逆に地方では概ねがん患者が減少していくことが伺えます。単純に考えれば「地方、とりわけ過疎地域で、いそぎがん拠点病院等の集約化を進める必要性が高い」と考えられそうです。

もっとも、「がん拠点病院等の集約化」は「患者アクセスを悪くしてしまう」という側面もあります。「高齢のがん患者は自家用車での医療機関受診が困難になる」「地方では公共交通機関(バスも含めて)の確保が難しくなってきている」点を踏まえれば、「安易に集約化のみを目指す」ことには大きなリスクが伴います。

別稿で見るように、地域の関係者で「どのように集約化と均てん化のバランスをとっていくのか」を議論し、丁寧に集約化を見定めていくことが必要です。

手術療法が必要な患者は一部地域除き減少、放射線・薬物療法患者は概ね全国で増加

さらに厚労省は、がんの3大療法(手術、放射線、薬物)ごとの「がん患者数」も推計しています。上記の「将来推計人口」「がん罹患率」に、院内がん登録における年齢階級別の「3大療法の実施割合」を加味したもので、次のような推計結果が報告されました。

【手術療法】
▽日本全国では減少が見込まれる
▽都道府県別にみると、2都県(東京都、沖縄県)では増加するが、他の45道府県では減少すると見込まれる
▽大都市部の54%、地方都市部の92%、過疎地域の98%の2次医療圏で減少が見込まれる

日本全国の手術療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)5 250623)

都道府県別の手術療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)6 250623)

2次医療圏別の手術療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)7 250623)



【放射線療法】
▽日本全国では増加が見込まれる
▽すべての都道府県で増加が見込まれる
▽過疎地域の22%を除き、ほとんどの2次医療圏で増加が見込まれる

日本全国の放射線療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)8 250623)

2次医療圏別の放射線療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)10 250623)



【薬物療法】
▽日本全国では増加が見込まれる
▽秋田県を除く46都道府県で増加が見込まれる
▽大都市部のすべて、地方都市部の88%の2次医療圏で増加するが、過疎地域では70%の2次医療圏で減少が見込まれる

日本全国の薬物療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)11 250623)

都道府県別の薬物療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)12 250623)

2次医療圏別の薬物療法が必要な患者数推計(がん診療提供体制検討会(1)13 250623)



このように、手術療法・放射線治療・薬物療養で患者数の増減の状況が大きく異なることが分かります。地域ごと・療法ごとのデータをクロスすることで、「どの地域の手術療法については、どの程度のペースで集約化を進めればよいか」などが見えてきます。

こうしたデータを活用して、地域ごと・療法ごとに、▼患者が増えていくのか(この場合、上述のように集約化すべきかを慎重に判断する必要がある)▼患者が減っていくのか(この場合、アクセスなどにも配慮しながら集約化を進める必要がある)—を見ていくことが検討会で合意されています。



ただし、上記の推計には、例えば▼院内がん登録のデータには「再発がん」に対する治療内容が含まれていない▼「内視鏡治療」等は、手術療法等のデータに含まれていない—などの限界もあります。このため、例えば厚生労働科学研究班を立ち上げ▼再発治療のデータ、内視鏡治療のデータなどをどう把握し、推計に反映させていくか▼例えば手術療法について「部位別」のデータ把握・推計への反映をどう考えていくか▼NDBのレセプト情報から、実際の手術・放射線・薬物療法のそれぞれの実施状況を把握できないか—などを研究・検討していく考えも厚労省から示されています。

別稿で述べるように、「患者数を推計する手法、考え方や、患者数の推計値」等のデータは厚労省から各都道府県などに示され、それをベースに「集約化すべき地域・医療技術」を地域ごとに洗い出していくことになります。

外科医の確保が困難、放射線科医が少ない病院が多く、供給面からも「集約化」検討を

また、「がん医療提供者数の変化」について、厚労省は▼外科医数はここ10年でほとんど増えておらず(医師全体は1.3倍に増えている)、中でも消化器外科医数は過去10年間で10%減少している▼「全てのがん診療連携拠点病院等でがんゲノム医療を提供できる」—といったデータも示しています。

外科医数の推移(がん診療提供体制検討会(1)14 250623)

がんゲノム医療実施体制の推計(がん診療提供体制検討会(1)15 250623)



関係学会も、次のように「がん医療を提供する医師」の確保に難渋などしている状況を報告しています。

▽2040年には、日本消化器外科学会に所属する医師数では、需要に対して「5200人の不足」になると推測される
▽現状の消化器がん治療提供体制を維持するためには少なくとも「毎年900人」の新たな外科医が必要だが、現状では「毎年500人」にとどまっている(毎年400人づつ、不足度合いが高まっている)

消化器外科医数の将来推計等(日本癌治療学会)(がん診療提供体制検討会(1)16 250623)



▽2040年には、医療需要に照らして放射線科医は「35万7000人」必要になると推計される
▽放射線治療装置1台あたりの年間照射患者数の適正数は「250-300名」と考えられるが、現状では1施設あたりの治療患者数が少ない放射線治療施設が分散している(我が国の放射線治療施設は734あるが、年間治療患者数100人未満が127施設、100-200人が216施設となっている)

放射線療法の患者数・治療装置数の将来推計(日本放射線腫瘍学会)(がん診療提供体制検討会(1)17 250623)



こうした状況を踏まえれば、例えば「がん医療を行う医師を限られた施設に集約し、個々の医師の負担を減らし、医療の水準を維持・向上していく」ことが重要であると考えられます。

もっとも消化器外科領域では「働き方改革」(夜間業務の当番制、平日業務のシフト制など)や「インセンティブ」(年俸1.3倍化)などによる「消化器外科医の増加」策にも力を入れています。



こうした「がん患者数・がん医療提供者数の変化」について検討会では、▼外科医が年齢を重ねメスを置いた後、セカンドキャリアとして「総合診療や薬物治療を担う」ことも考えられる。そうした点も踏まえたがん医療の需給推計を行うべきはないか(岡俊明構成員:日本病院会副会長)▼最新の治療法を踏まえた通院回数減なども織り込んだ推計結果を各都道府県等に示してほしい(天野慎介構成員:全国がん患者団体連合会理事長)—などの注文が付いています。



上記の「高度ながん医療技術」と「地域・療法別のがん医療の需給(がん患者数・がん医療提供者数の推移)」等のデータをもとに、各都道府県で「この地域ではどういう医療技術を集約化すべきか、どういった医療技術は更に均てん化を進めるべきか」を議論・検討していきます。この、各都道府県の議論・検討をどう進めるべきかについては別稿で報じます。



なお、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンは、全国から200を超えるがん診療連携拠点病院等が集い、自院のデータを持ち寄って比較分析することで、がん医療の質向上を目指す「CQI研究会」(2007年設立に対して、DPCデータに基づく診療内容・実績の分析協力をしています(関連記事はこちら)。がん診療に力を入れる病院は、ぜひCQI研究会への参加もご検討ください。

●CQI研究会のサイトはこちら



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