2015年の医療・介護、推計値と実績には大きな乖離があるため新推計を行うべき―日医総研
2016.8.2.(火)
2011年に行われた「2015年度の医療・介護に係る推計値」と、実際の2015年度の姿を比較するとさまざまな乖離がある。在宅医療や介護の状況なども踏まえて、将来推計の改訂版を示すべきである―。
日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は、このほど公表したワーキングペーパー「過去の医療・介護に係る長期推計と現状(2015年の姿)」の中でこうした提言を行っています。
目次
2015年の医療・介護費、推計では55-57兆円だが、実際は51.9兆円
社会保障・税一体改革論議が進められる中で、政府は2011年に「医療・介護に係る長期推計」を行いました。日医総研では、こうした推計値と現状を比較しています。
まず「2015年の医療費・介護サービス費」を見てみると、2011年推計では、現状(当時)のままで推移(現状投影)すると55兆円(医療費45兆円、介護費11兆円、端数処理の関係で合計値が異なる)となり、改革シナリオのパターン1では57兆円(医療費45兆円、介護費11兆)と推計されました。しかし、実際には医療費41.8兆円・介護費10.0兆円の合計51.9兆円にとどまっています(関連記事はこちら)。
改革シナリオのパターン1には、一般病床の2割を高度急性期(平均在院日数2割短縮)、5割を急性期(同33%短縮)、3割を亜急性期・回復期に機能分化するといった内容が盛り込まれています。
平均在院日数や病床数などは、推計よりも早いペースで短縮・減少
医療についてもう少し細かく見てみると、次のようなことが明らかになっています。
【入院】
▽入院医療の単価(1人1日当たり費用)は、推計値と実績ともに「2011年度の1.09倍」となっている
▽入院患者数は、現状投影で143万人、改革シナリオパターン1で133万人と推計されたが、実績は128万人にとどまっている
▽平均在院日数は「1日程度短縮する」と推計されたが、実際には「1.8日短縮」している【特にDPCで短縮幅が大きい】
▽病床利用率は「一般病床73―80%程度、長期療養91%程度、精神病床90%程度」と推計されたが、実際には「一般病床70.4%、医療療養87.7%、精神病床85.6%」にとどまっている
▽病床数は、「一般病床109万床(高度急性期22万床、急性期53万床、回復期等34万床)、長期療養23万床、精神病床33万床」と推計されたが、実際には「一般100万床、医療療養28万床、精神病床34万床」となっている
【外来】
▽外来医療の単価(1人1日当たり費用)は、12,1万円(経済前提を加味する)と推計されたが、実際には12.3万円となった【薬剤費の伸びが大きい】
▽外来患者数は、1日当たり「現状投影で812万人、改革シナリオパターン1で802万人」と推計されたが、実際には1日当たり「768万人」にとどまっている【病院から診療所への外来移行は進んでいない】
介護保険3施設の入所者、推計値よりも少なく、整備遅れか
また介護分野については、次のような乖離があることも分かりました(関連記事はこちら)。
▽施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養病床)の利用者数は、「現状投影で115万人、改革シナリオパターン1で106万人」と推計されたが、実際には「98万人」にとどまっている
▽施設の1人1か月当たり費用は、41万円(経済前提加味)を推計されたが、実際は38万円となっている
「社会保障の充実」が疎かになっていないか、新推計を行って検証すべき
こうした乖離の原因について日医総研は、「2011年の推計では外来、在宅医療、介護について精緻な推計がなされていない」ことがあると見て、厚生労働省に対して「将来推計の改訂版を示すべき」と提案しています。
2011年時点と比べて、入院医療から外来医療へのシフト、在宅医療の推進、医療・介護連携の推進など、さまざまな動きがあるため、新たな制度(診療報酬改定や地域医療構想、病床機能報告制度など)を踏まえた推計が必要と言えそうです。
その上で日医総研は、社会保障・税一体改革には、社会保障の効率化にとどまらず、「社会保障の充実」という側面がある点を指摘。「退院後の受け皿」「在宅医療」「介護施設サービス」の整備といった充実がなされないことで、「保険給付範囲の縮小」「所得による格差の拡大」などにつながることを懸念しています。
なお日医総研では、入院患者数・病床数の減少について「高齢者で平均在院日数が急速に短くなっている」点に着目。「効率化が進んでいるように見えるが、公的保険外の民間介護サービスを頼らざるをえない事態になっていないか」と危惧しています。
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