75歳以上の後期高齢者医療制度、2017年度は単年度で357億円のマイナス決算―厚労省
2019.4.17.(水)
75歳以上の方が加入する「後期高齢者医療制度」は、2017年度には単年度で357億円の支出超過(いわば赤字)となった。収支がマイナスの広域連合は22で、前年度から9増加した―。
このような状況が、厚生労働省が4月12日に公表した2017年度の「後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)の財政状況等について―速報―」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(前年度の関連記事はこちら)。
目次
75歳以上の後期高齢者の医療費、公費5:若年者4:保険料1という財源構成で支える
我が国では、すべての国民が何らかの医療保険制度に加入します(国民皆保険制度)。大企業のサラリーマンやその家族はおもに健康保険組合に、中小企業のサラリーマンとその家族はおもに協会けんぽに、公務員とその家族は共済組合に、自営業者や無職者は市町村国民健康保険(2018年度から都道府県の国民健康保険となります)に加入することになります。
ただし75歳以上の後期高齢者は、現役で企業勤めをしていても、自営業を営んでいても、無職で年金生活であっても、都道府県単位の「後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)」に加入します。2008年の医療保険制度改革において、「若人全体で高齢者を支えていく必要がある」との考えの下に設立されたものです。
このように後期高齢者医療制度は、いわば「75歳以上の高齢者のための医療保険制度」と考えることもできます。ただし、一般に「高齢者は所得水準が低い一方で、傷病になりやすく、かつ治療が長期間に及ぶことが多いため、医療費が高くなってしまう」という特性があることから、単独での運営は困難です(仮に単独で運営するとなれば、極めて高額な保険料を設定するか、保険給付範囲を極めて狭くしなければならなくない)。このため若人からの支援が不可欠となり、財政構造は▼公費:約5割(国が25%、都道府県と市町村が12.5%ずつ)▼若人の医療保険(健康保険組合や市町村国保)からの支援金:約4割▼高齢者自身の保険料:約1割―となっています。公費・支援金が収入の9割を占めており、厳密には「医療保険制度」ではありません(名称にも「保険」の文字は使われていない)。
2017年度における後期高齢者医療全体の収入(前年度からの繰越金などを除く単年度収入)は15兆1891億円で、前年度に比べて4901億円・3.3%増加しました。一方、支出(同じく単年度)は15兆2248億円で、前年度に比べて5996億円・4.1%の増加となっています。
結果、2017年度(単年度)の収支差はマイナス357億円(前年度から1095億円減少)となりました。支出が公費・支援金収入等を大きく上回ってしまっています。公費や若人からの支援金が9割を占めている点を踏まえた、適切な「マネジメント」が、運営者である後期高齢者広域連合(都道府県単位の市町村の連合体)に求められます。
なお、ここに国庫支出金の精算分を加味した「精算後単年度収支差引額」は180億円の黒字となりました。前年度は321億円の黒字だったので、財政状況は悪化してしまっています。
赤字広域連合は前年度から9増加し、22に(47広域連合の47%)
医療保険制度を運営していく上では、突発的な事態に備えておく必要があります。たとえば、強毒性の新興・再興感染症が蔓延し(パンデミック)、医療ニーズが急増することも考えられますし、また天災によって保険料(収入)が十分に確保できなくなるにもかかわらず、医療ニーズが増加するケースも考えられます。こうした場合、医療機関に「医療費が急増して支払いきれませんので、我慢してください」と依頼することはできません。医療従事者にも生活があるからです。
そこで国は、医療保険者に対して「一定の期間、収入が確保できなくなるなどの事態が生じても保険制度を持続できる(つまり医療費の支払いが可能な)ように、積立金の保有する」よう求めています。後期高齢者医療制度も同様で、2017年度の積立金は2261億円となり、前年度の2012億円から249億円・12.4%の積み増しとなりました。
なお、支出が収益を超えている(いわば赤字)の広域連合は2017年度には22となりました(前年度に比べて9増加)。
健保組合の2割は、収入の半分超を高齢者の医療費に充てている
ところで後期高齢者医療制度を巡っては、健康保険組合など若人の医療保険者から「支援金負担が重過ぎる」との指摘があります。
2018年度の健康保険組合全体の予算では、後期高齢者(75歳以上、若人の医療保険全体で支援する)と前期高齢者(70-74歳、若人の医療保険に加入しており、前期高齢者の多い国民健康保険等へ、前期高齢者の少ない健保組合から財政支援を行う)に対する拠出金の合計が保険料収入に占める割合は、▼0.4%の組合では60%以上▼20.6%の組合では50パーセント以上▼60.5%の組合では40-50%▼18.9%の組合では40%未満—となっています。2割超の健保組合では、「収入の半分以上を高齢者のために支出している」格好です(関連記事はこちら)。
こうした状況から、「75歳以上の後期高齢者の医療をどのように支えていくか」が重要課題となっていますが、少子高齢化が進展する中では「支え方の見直し」ではいずれ対応しきれなくなることは確実です。そう遠くない将来、「保険給付範囲をどう考えていくのか」という難しいテーマについて正面から議論しなければならない時期がくるでしょう(関連記事は こちらとこちらとこちら)。
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