訪日外国人の「医療機関受診」増加に向け、医療通訳の養成・配置、未収金対策など整理
2018.6.19.(火)
「外国人の医療機関受診」増加を見据えて、医療通訳の認定制度、翻訳アプリケーション等を搭載したタブレット配置支援などを行うとともに、未収金の発生などのトラブル防止のために「事前の想定費用提示」「医療費前払い」などの重要性を記載したマニュアルを作成する。また医療費不払い経歴のある外国人は、入国時に厳格な審査を行う―。
政府の「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」が6月14日に開催され、こうした内容を盛り込んだ「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」が固められました(首相官邸のサイトはこちら(総合対策)とこちら(工程表))。今年度(2018年度)中に医療機関・都道府県向けのマニュアルを厚生労働省が策定するなど、今後、詳細を詰めていきます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
医療通訳の養成・配置、多言語翻訳アプリ搭載のタブレット端末配置などを支援
近年、我が国を訪れる外国人が増加し、我が国で医療を受けるケースが増加しています。その際、例えば「医療従事者は必ずしも外国語に堪能なわけではない」「我が国の公的医療保険に加入していない場合には、費用は患者自身が負担することになるが、民間の保険制度に加入しておらず、費用を支払えないケースが出てくる」「新興・再興感染症が蔓延するリスクもある」などの課題があります。
2020年度には東京オリンピックが開催されるなど、今後、さらに訪日外国人が増加するため、こうした課題への対応を事前に備える必要があり、今般、総合対策が策定されました。
医療現場においては、(1)外国語への対応(2)費用負担—の2点が特に大きな課題になっていることでしょう。
まず(1)の外国語対応に関しては、「医療通訳」の活用がまず考えられます。しかし、実態が必ずしも明らかになっていないこと、「医療通訳」という公的資格が設定されているわけではないことから、次のように順を追って対策を講じることになります。
▼今年(2018年)秋頃を目途に「医療通訳に関する実態把握」を行う
▼今年度(2018年度)末までに、「医療通訳者の確保・配置」に関する考え方を、厚労省の検討会(訪日外国人旅行者に対する医療提供体制に関する検討会(仮称))で議論し、整理する
▼来年度(2019年度)に「医療通訳の認定制度」を試行する(現在、厚生労働科学研究によりカリキュラムや研修テキストなどを研究中)」で」考えを明示。
もっとも、医療通訳者の養成・認定・配置等には時間がかかり、すべての医療機関に医療通訳を配置することは困難です。そこで、「遠隔通訳」「タブレット端末などのデバイス」に期待が集まります。特に後者に関しては、「時間を問わない」「比較的安価で対応できる」と考えられ、夜間救急や人材確保が難しい地域での活用が可能となりそうです。政府は▼医療分野における多言語音声翻訳技術の高度化(2015年度からの5か年計画である「多言語音声翻訳技術の研究開発」)▼翻訳精度の更なる向上を目指した、AI技術の一つであるディープラーニング導入の加速化—などを進めるとともに、2019年度以降、段階的に「全国の医療機関における翻訳ICT技術に対応したタブレット端末等の配置」支援を行っていく方針が明確にされました。「地域の拠点医療機関すべてにタブレット端末を配置する」ことが目標となります。
30%の医療機関で過去に「外国人患者における金銭・医療費トラブル」を経験
また(2)の費用負担は、端的に言えば「未収金」発生をいかに防ぐかという問題です。厚労省が2016年に実施した調査(医療機関における外国人旅行者及び在留外国人受入れ体制等の実態調査)では、1710医療機関のうち30%の医療機関で「金銭・医療費に関するトラブル」、35%の医療機関で「未収」を経験していることが分かりました。
政府は、後述する「医療機関向けのマニュアル」に、紛争防止のために▼価格の事前提示▼診療内容等の事前説明▼文化や習慣に配慮した診療▼外国人患者に関わる紛争に対応する上での留意点▼民間の損害補償サービス・債権回収サービス▼「医療費前払い」が妨げられない旨—などを記載する考えを示しています。あわせて、訪日前に「旅行保険などへの加入」を促す考えなども提示しました。
もっとも、一部の悪質な外国人(極論すれば、我が国に医療目的で来日し、費用を支払わない)に対しては、上述の取り組みでは十分に対応できない可能性もあります。そのため政府は「過去に『医療費の不払い』などの経歴がある外国人観光客の情報を厚労省から法務省に提供し、入国審査に活用する(悪質な場合には入国を認めない)」体制を構築する考えを打ち出しました。今後、▼不払い・未払いの実態調査(発生件数、金額等)▼通報手順の整理▼医療機関に対する周知—などの論点を検討し、今年度(2018年度)中に結論を得ることとしています。
なお、医療保険に加入していない外国人患者では「自由診療」となり、必ずしも診療価格の明確な基準がありません。この点、上記の「医療通訳」等に係る費用(研究では患者1人当たり3-5万円程度が必要とされている)なども勘案し、厚労省で「適切な診療価格の考え方」をまとめ、後述の「医療機関向けマニュアル」に記載することになります。
このほか、▼救急搬送と搬送先医療機関における連携の確保▼医療コーディネーター(外国人に対応する医療者へのサポート、トラブル対応、院内外の連携調整などを行う)への研修支援▼外国人観光客に対する応召義務の考え方の整理(2018年度末まで)▼外国人向けの「我が国の医療情報」充実(外国語診療が可能な医療機関の情報など)▼医療機関・都道府県向けマニュアルの整備(2018年度末までに作成し、2019年度に周知)—などの方針も明確にされました。
医療機関向けのマニュアルには、上述した「医療通訳」「紛争対策」などのほか、▼パスポートの提示▼診療開始前の「想定価格」説明(「この治療では総額○○ドルかかる見込みです」などの説明)▼文化・習慣の相違に配慮した診療上の留意点▼ホテル、旅館等との連携▼患者対応における相談窓口としての在日外国公館による協力等▼地方入国管理局との連携▼アシスタント会社との連携—なども記載されることになります。
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