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GemMed塾 ミニウェビナー DPC委員会のありかたとは?

医療機関・患者自身の電子カルテ情報共有のため、まず生活習慣病・救急の診療行為で標準コード作成―医療情報ネットワーク基盤WG(2)

2023.1.30.(月)

患者自身や全国の医療機関での電子カルテ情報を共有・確認する仕組み((仮)電子カルテ情報交換サービス)の検討が進んでいるが、このためには膨大な診療行為について「標準コード」を付与する必要がある—。

全ての診療行為に標準コードを付与するためには相当の時間がかかり、例えば頻繁に発生する災害時などに活用できなくなってしまう(間に合わない)。そこで、まず救急・生活習慣病に関する診療行為について「標準コード」を付すことから始めてはどうか―。

その際、各医療機関による標準コード使用を推進するために、診療報酬の請求コードと絡めて検討していってはどうか―。

1月27日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)でこういった議論も行われています。同日には「診療情報の共有・確認に向けた患者同意」も議論されており、既に別稿で報じています。

次回会合で「意見とりまとめ」に向けた最終論議が行われる見込みです。

1月27日に開催された「第6回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」

全国の医療機関での電子カルテ情報を共有するための「標準コード」を付与

Gem Medで繰り返し報じているとおり、「全国の医療機関や患者自身が診療情報(レセプト情報・電子カルテ情報など)を共有する」仕組みの構築・運用が進められています。この仕組みには、(A)「レセプト」情報を共有・閲覧可能とする仕組み(B)各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み—の2つがあり、いずれも「オンライン資格確認等システム」のインフラを活用するものです(関連記事はこちらこちら)。

医療情報の共有・閲覧に向けて2つの仕組みが動いている(医療部会(2)2 211209)

全国の医療機関での電子カルテ情報共有するにあたり「オンライン資格確認等システムのインフラ」を活用する方針を決定(医療情報ネットワーク基盤WG1 220516)



(A)のレセプト情報共有の仕組みはすでに稼働しており、ワーキングでは(B)の各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組みを検討しています。これまでに▼情報共有は(A)と同じくオンライン資格確認等システムのインフラを活用する共有する情報は3文書(診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書)・6情報(傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査(救急、生活習慣病)、処方)とする、ただしこのうち「健診結果報告書」は別にテキストべースでの共有が検討されている▼情報共有に当たっては、広範に用いられている「HL7FHIR」という規格を採用する標準規格(HL7FHIR)により情報の出し入れが可能な電子カルテの開発を進め、これを導入する医療機関には医療情報化支援基金を用いた補助を行う—などの下準備が行われてきています。ワーキングや親組織(健康・医療・介護情報利活用検討会)で「本年度内(2023年3月まで)に意見を固める」予定で議論が精力的に進められています。



1月27日の会合では、「患者同意」と「診療行為等の標準コード」の2つを主な議題としており、本稿では後者の「標準コード」に関しては見て見ます(前者の「患者同意」については既に別稿で報じ済)。

例えば、ある疾患の患者がAクリニックで診療を受けていたが、悪化したためにB病院で入院加療を行い、改善したために再びAクリニックに戻った。その後、転居しCクリニックを受診するとともに、関連疾患でDクリニックにもかかるようになったというケースで、当該患者の検査値や診療行為を比較できるようにするためには「標準コード」が必要となります。

同じ疾患の状態を把握するための検査でも、手法や試薬などが多数あり、それらが異なれば検査値が意味するところが変わるため「比較」ができません。そこで、「●●の手法で●●試薬を用いた検査は●●●●のコード、○○の手法で○○試薬を用いた検査は○○○○のコード」などといった具合に「標準コード」を付与することで、「●●●●検査同士の数値を比較するとこう変化している。患者の状態が改善しているな」と判断可能となるのです。

(B)の全国の医療機関・患者間で電子カルテ情報を共有・確認するにあたりって、膨大な診療行為について「標準コード」を付す理由はここにあります。

この標準コードについては、これまでの検討の中で次のような大きな方針が固められてきています。

▽傷病名については、厚労省標準規格「HS005 ICD対応標準病名マスター」等で活用されているICD-10コードと病名管理番号(傷病名マスター)を用いる

▽検査については、厚労省標準規格「HS014 臨床検査マスター」等で活用されているJLACコードを用いる

▽処方については、厚労省標準規格「HS001 医薬品HOTコードマスター」、薬価基準収載医薬品コード、YJ(個別医薬品)コード、レセプト電算医薬品マスター等で活用されている薬品コード、厚労省標準規格「HS027 処方・注射オーダ標準用法規格」等で活用されている用法コードを用いる

▽アレルギーについては、厚労省標準規格に規定がないため「テキストデータ」を用いる

▽薬剤禁忌情報については、厚労省標準規格に規定がないため「テキストデータ」を用いる



ただし、膨大な診療行為のすべてについて標準コードを付与するためには、やはり膨大な時間がかかります。すると、例えば頻発する自然災害の折などに「標準コード付与等が整っていないので、被災患者の過去の診療情報を確認することができない」事態に陥ってしまいます。

そこで厚労省は、まず「救急・生活習慣病の分野に絞って、標準コードを付与する」考えを示しています。救急(災害も含む)場面では、「患者が、これまでにどのような傷病にかかり、どのような治療を受けているのか」を医療関係者が確認することが、安全で質の高い医療提供のためにとりわけ重要となります(例えば傷病の検討がつけやすくなり、迅速な処置などを行える)。また、生活習慣病治療においては、患者自らが自身の状況を把握し、積極的に治療に参加する(薬剤任せにせず、生活習慣を改善するなど)ことが極めて重要です。このため、「救急」「生活習慣病」分野で、まず標準コード付与などを進めてはどうかと厚労省は提案しています。

この2分野で「過去の診療情報を医療機関・患者が共有し、安全で質の高い医療提供」が可能になり、患者・医療関係者がその効果を実感することが、「過去の診療情報の全国共有」をさらに推進させるきっかけになることも期待できます。

ただし、長島公之構成員(日本医師会常任理事)は「部分的にシステム改修を重ねていけば医療現場の負担は極めて大きなものとなる。一体的に進めるべきではないか。もし一体的に進められないのであれば、慌てて標準コード付与を行う必要はない」とコメントしています。このコメントが「すべての診療行為への標準コード付与などを一度に行うべき」という意味なのか、「都度都度のパッチワーク対応を避け、将来の道筋を事前に立ててから進めるべき」という意味なのかは、明らかになっていません。前者を求めているとすれば、過去の失敗の轍を踏むことにもなりかねず、慎重な調整が必要でしょう。

2020年12月開催の親組織(健康・医療・介護情報利活用検討会)で、生活習慣病・救急分野の標準コードに関する検討が既に行われている(1)

2020年12月開催の親組織(健康・医療・介護情報利活用検討会)で、生活習慣病・救急分野の標準コードに関する検討が既に行われている(2)

2020年12月開催の親組織(健康・医療・介護情報利活用検討会)で、生活習慣病・救急分野の標準コードに関する検討が既に行われている(3)

2020年12月開催の親組織(健康・医療・介護情報利活用検討会)で、生活習慣病・救急分野の標準コードに関する検討が既に行われている(4)

各医療機関の院内コードと標準コードの紐づけ推進のため「診療報酬請求との連携」を検討

ところで、これまで「診療行為の標準コード化」が進まなかった背景の1つに「医療機関等へのインセンティブがない、必要性が小さい」ことがあげられます。

個々の医療機関では、診療行為にコード(いわば院内コード)が付されていることが多いでしょう。しかし、これまで「別の全国の医療機関と、診療行為データを比較する」ことなどが求められなかったため、「よその病院と診療行為コードを合わせる(標準化する)」必要性が少なかったのです。地域単位で診療情報を共有する地域医療情報連携ネットワーク(いわゆる地連)でも「地連内部での、参加医療機関同士での標準化」は進んでいますが、外部との標準化は進んでおらず、状況は同じです。

各医療機関の「いわゆる院内コード」と、今後設定される「標準コード」とを紐づける(院内マッピング)ためには、相応の人材配置が必要でコストもかかります。

必要性の小さい分野にコストをかけることはできず、標準化を進めるためには、医療機関に「何らかのインセンティブを与える」あるいは「必要性を強く感じてもらう」ことが極めて重要になるのです。

たとえば、人材確保・コストに見合った手当て(インセンティブ)を補助してはどうかとの考えが1つあります。しかしインセンティブ付与には「財源」が必要となるとともに、「どの程度の補助を行うのか」「誰がその費用を負担するのか」という問題をセットで考えなければいけません。

この点、1月27日のワーキングでは、後者の「必要性を高める」ことに着目し「診療行為の標準コードを、診療報酬請求と関連させることを検討してはどうか」との意見が松田晋哉構成員(産業医科大学公衆衛生学教授)らから出ています。例えば診療報酬を請求する際に「詳細な診療行為の標準コードを付記する」あるいは「診療行為の標準コードで請求する」ことになれば(現在は同じ診療行為は手法などが異なっても同じ請求コードで処理する)、全国の保険医療機関において標準化が一気に進むと考えられ、魅力的な提案と言えます。一方、診療報酬請求において「手法の違いまで分けて請求してもらう必要があるのか」という問題点もあり、今後、関係部局間で慎重に検討が進められることになるでしょう。

ただし松田構成員は「診療報酬の仕組みそのものを見直していかなければ、標準コード付与などは困難である」ともコメントしており、今後、どのような検討が厚労省内部で進められるのか注目する必要があるでしょう。



上述のように、ワーキングでは「本年度内(2023年3月まで)に意見を固める」予定であり、厚生労働省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)は「次回会合に、これまでの議論を踏まえた『取りまとめ案』を示し、それに基づいて議論してもらう」考えを明らかにしました。

もっとも「システムの開発・運用にどの程度のコストがかかり、それを誰がどのような形で負担するのか」という難しい宿題も残っており、「取りまとめ案」にどこまでの内容が盛り込まれるのかは明らかにされていません。

また「取りまとめ」の先には、実際のシステム開発、各ベンダーによる新仕様の電子カルテ開発、標準的な電子カルテを導入する医療機関への補助(医療情報化支援基金の活用)などが進むことになり、当面、こうしたテーマから目を離すことができない点にも留意が必要です。



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