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医療保険制度改革に向け「給付と負担の見直し」「病院経営の維持」「保険給付範囲の在り方」など様々な点の議論を―社保審・医療保険部会

2025.9.22.(月)

9月18日に社会保障審議会・医療保険部会が開催され、医療保険制度改革に向けた自由討議が行われました。

政治が流動的な中では「具体的な医療保険改革論議」に入ることができません。一方、医療保険改革の必要性は強く、今秋から冬にかけて「突貫工事」的な改革論議が進む可能性があります。

9月18日に開催された「第197回 社会保障審議会 医療保険部会」

政治が流動的な中、「具体的な医療保険改革論議」に入ることができない

Gem Medで繰り返し報じているとおり、医療保険財政が厳しさを増しており、今後もさらにその度合いは強くなっていきます。

まず「医療技術の高度化」により医療費が高騰していきます。例えば、脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、キムリアに類似したやはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。

また、新たな認知症治療薬「レケンビ」が保険適用され、さらに新たな認知症治療薬「ケサンラ」の保険適用も行われました。患者数が膨大なことから、医療保険財政に及ぼす影響が非常に大きくなる可能性があります。

他方、「数億円の薬価」すら予想される、小児の「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」(DND)治療に用いる「エレビジス点滴静注」の保険適用も近く行われる見込みです(関連記事はこちら)。

大企業の会社員とその家族が主に加入する健康保険組合の連合組織「健康保険組合連合会」では、こうした高額薬剤によって超高額レセプトの発生が増加し、医療保険財政を圧迫している状況を強く懸念しています(関連記事はこちら)。

あわせて「高齢化の進展」による医療費高騰も進みます。人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が、ついに2022年度から75歳以上の後期高齢者となりはじめ、今年度(2025年度)には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長く、結果、1人当たり医療費が若年者に比べて2.3倍と高くなります(関連記事はこちら(2023年度の市町村国保医療費は平均40万2157円であるのに対し、後期高齢者では93万1637円)。このため高齢者の増加は「医療費の増加」につながるのです(医療費は1人当たり医療費×人数で計算できる)。

このように医療費が高騰していく一方で、支え手となる現役世代人口は2025年度から2040年度にかけて急速に減少していきます。

「減少する一方の支え手」で「増加する一方の高齢者・医療費」を支えなければならないために医療保険の制度基盤が極めて脆弱になり、さらに今後も厳しさを増してくと考えられるのです。

こうした中では、「医療費の伸びを、我々国民が負担できる水準に抑える」ための取り組み(医療費適正化方策)が強く求められます。

例えば、我が国の経済・財政の方向を定める骨太方針2025(「経済財政運営と改革の基本方針2025—『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ—」でも様々な改革を検討・実行する方針が明確に示されています。

通常、医療保険部会では「骨太方針で指摘された事項などについて秋から改革論議をはじめ、冬に意見を取りまとめる」(その後、改正法案に繋げる)というスケジュールで議論が進みます。しかし、政治の世界が非常に流動的なため、医療保険部会で具体的なテーマに関する議論が行えない状況です。

このため9月18日の医療保険部会では、医療保険制度の状況を再確認したうえで「今後の医療保険制度改革に向けた自由討議」が行われました。

例えば、次のような意見が目を引きます。

【医療費を負担する側の委員の主張から】
▽将来の医療保険制度の「あるべき姿」から逆算して、「今、どのような改革をすべきか」を考える必要がある。医療保険制度の持続可能性を確保するためには、若い世代が「将来への希望」を持てる仕組みとすることが必要だ。給付と負担のバランス(世代間のバランス、財源における税・保険料・自己負担のバランスも含めて)確保が極めて重要である。あわせて「保険給付の適正化、重点化」(一般用医薬品に類似する医薬品や、いわゆる低価値医療の保険給付からの除外など)も検討する必要がある(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)

▽「今」手を打たなければ、将来の医療保険制度が成り立たなくなる。国民負担の抑制に向けて、改革を先送りせずに実行すべき。保険は「大きなリスク」に限定し、「小さなリスク」は自助で対応する必要がある。そこでは「国民の受診行動の適正化」なども重要となる。また医療提供体制について「ベッド数の適正化(削減)」や「地域格差の是正」などを進めるとともに、低価値医療の保険給付からの除外なども検討していくべき(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)



【医療提供者を代表する委員の主張から】
▽医療保険制度の持続可能性を考えるとき、議論の入り口は基本的には「負担増」になろう。日本の医療保険制度には「自身への備え」の役割とともに、「相互扶助」の役割もある。また、医療保険制度改革を議論するにあたり、「所得に関係なく、同じ給付(医療)を受けられる」仕組みを維持することを共有すべきである。また、医療保険財源には限りがあり(税・保険料・自己負担で賄うしかない)、どこかで「給付の在り方」(どこまでの医療を保険でカバーするのか)も議論しなければならない。高度化する医療をどこまで保険でカバーするのかが大きなポイントになろう。その際、「国民負担を抑える=保険給付範囲の縮小(保険で受けられる医療の範囲が狭まる)ことを国民にきちんと理解してもらう必要がある。なお、ヘルスメディケーションの推進には「疾病発見・治療の遅れ」が伴うため反対である(城守国斗委員:日本医師会常任理事)

▽世界に冠たる国民皆保険・医療保険制度は今後も維持しなければならない。しかし現在、病院経営が非常に厳しく、7割が赤字という状況だ。これが続けば病院が倒産し、新たな地域医療構想等の実現もできなくなる。収支悪化の最大の要因は「支出増」であり、これを担保するための緊急対応が必要である(島弘志委員:日本病院会副会長)



【学識者委員の主張から】
▽現在の医療保険制度は「患者による過剰な医療保険利用」を生じさせやすい仕組みとなっており、是正が必要である。保険制度は「小さなリスク」(風邪など)よりも「大きなリスク」(がんなど)に対応すべきものであることを理解しなければいけない。また高額な医療費については「所得」ではなく「資産」に着目した負担を求めるべき(中村さやか委員:上智大学経済学部教授)

▽中長期的な視点も持って財政運営を検討していく必要がある。医療が高度化する中では中長期的な視点が不可欠である。また医療提供体制の整備に、どこまで保険料を投入できるのか(診療報酬と補助金との役割分担)も検討していかないといけない(伊奈川秀和委員:国際医療福祉大学医療福祉学部教授)



今後、政治の世界がいったん落ち着くのを待って「具体的な改革テーマ」に沿った議論が進みます。上述したスケジュールに照らせば「突貫工事的な改革論議」になる可能性もあり、今後の動きに要注目です。



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