直腸がん治療等に用いるセツキシマブ、通常「週1回の投与」だが、「隔週での投与」も審査上認める―支払基金・厚労省
2019.10.10.(木)
「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」や「頭頚部がん」治療に用いるセツキシマブ(販売名:アービタックス注射液100mg)について、薬事承認上は「週1回」の投与が必要とされているが、審査上「隔週での投与」を認める—。
こうした審査情報を社会保険診療報酬支払基金(支払基金)が9月30日に公表しました(支払基金のサイトはこちら)。厚生労働省も同日に、事務連絡「医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて」を関係団体等に向けて行っています。
医療現場の要望に応えるため、審査における「柔軟な取扱い」を一定程度認める
保険診療において、医薬品の使用は、薬事・食品衛生審議会(薬食審)で有効性・安全性が認められた傷病に限定されます。医療安全を確保すると同時に、医療保険財源を適正に配分するためです。
もっとも、医療現場では、「医学的・薬学的知見に照らし、薬食審で認められていない傷病にも一定の効果がある」と強く推測されるケースがあり、レセプト審査においては一定の柔軟な取り扱いがなされています(いわゆる「55年通知」(旧厚生省保険局長による1980年発出の通知)に基づく適応外使用など)。
一方で、地方独自の審査ルール(都道府県ルール、例えば「山間部などでは冬期に高齢者の通院が困難になるので、薬剤の1回処方量を多くすることを認めている」「地域によって、疾患別リハビリテーションを1日6単位までしか認めない(診療報酬点数上は9単位まで算定可能)」など)が横行すれば、「全国一律の診療報酬」という大原則に反し、また審査が不透明になってしまいます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
そこで支払基金では、審査ルールを適宜明確にし、医療関係者らに情報提供しています(支払基金の審査情報提供サイトはこちら)(関連記事はこちらとこちらとこちらと こちら)。
今般、支払基金は次の審査ルールを明確にしました。
(1)「アシクロビル」(販売名:ゾビラックス顆粒40%、ゾビラックス錠200、ゾビラックス錠400、ほか後発品あり)を「カルフィルゾミブ(カイプロリス点滴静注用10mg、同40mg)、もしくはイキサゾミブクエン酸エステル(ニンラーロカプセル2.3mg、同3mg、同4mg)使用時の帯状疱疹の発症抑制」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める
(2)「アシクロビル」(販売名:ゾビラックス顆粒40%、ゾビラックス錠200、ゾビラックス錠400、ほか後発品あり)を「ベンダムスチン塩酸塩(トレアキシン点滴静注用25mg、同100mg)使用時の帯状疱疹の発症抑制」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める
(3)「アセメタシン」(販売名:ランツジールコーワ錠30mg)を「好酸球性膿疱性毛包炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める
(4)「インドメタシン ファルネシル」(販売名:インフリーカプセル100mg、インフリーSカプセル200mg)を「好酸球性膿疱性毛包炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める
(5)「レボブピバカイン塩酸塩」(販売名:ポプスカイン0.25%注シリンジ25mg/10ml、同0.25%注バッグ250mg/100ml、同0.25%注25mg/10ml、同0.5%注シリンジ50mg/10ml、同0.5%注50mg/10ml)を「浸潤麻酔」を目的に使用した場合、当該使用事例を審査上認める
(6)「レボブピバカイン塩酸塩」(販売名:ポプスカイン0.25%注シリンジ25mg/10ml、同0.25%注バッグ250mg/100ml、同0.25%注25mg/10ml、同0.5%注シリンジ50mg/10ml、同0.5%注50mg/10ml)をを「硬膜外麻酔」を目的に使用した場合、当該使用事例を審査上認める
(7)「ポリドカノール」(販売名:エトキシスクレロール1%注射液、ポリドカスクレロール1%注2mL)を「ストーマ静脈瘤出血」に対して投与した場合、当該使用事例を審査上認める
(8)「セツキシマブ」(販売名:アービタックス注射液100mg)を「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」、「頭頸部がん」に対して「隔週」で投与した場合、当該使用事例を審査上認める
まず(1)(2)の「アシクロビル」は、成人では▼単純疱疹▼造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制▼帯状疱疹―への効能効果が認められており、今般「薬理作用が同様である」として、上記疾患への使用が保険診療上認められたものです。この場合、「1回200mgを1日1回経口投与する」ことになります。
また(3)「アセメタシン」と(4)「インドメタシン ファルネシル」は、関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群などの消炎・鎮痛への効能効果が認められており(両者で若干異なる)、今般「薬理作用が同様である」として、上記疾患への使用が保険診療上認められたものです。
一方、(5)(6)の「レボブピバカイン塩酸塩」は、術後鎮痛の管理や伝達麻酔に用いられ、今般「薬理作用が同様であり妥当と推定される」として、上記疾患への使用が保険診療上認められました。
さらに(7)の「ポリドカノール」は、食道静脈瘤出血の止血などに効能効果が認められており、今般、やはり「薬理作用が同様であり妥当と推定される」として、上記疾患への使用が保険診療上認められました。
また(8)の「セツキシマブ」は、すでにEGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん治療などに用いられていますが(通常は週1回の投与)、「隔週投与」が「薬理作用に基づいており、妥当と推定される」として今般、保険診療として認められています。薬剤の安易な減量は「効果が現れず、副作用ばかりが生じる」などのデメリットが生じる可能性があります。しかし、患者の容体が必ずしも芳しくないが、抗がん剤投与は継続が望ましいと医師が判断した際、今般、妥当性が認められたために、「隔週」で様子を見ながら投与する手法などが考えられるでしょう。
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