化膿性炎症を伴う「ざ瘡」へのビブラマイシン錠の投与、審査上認める―支払基金
2018.10.2.(火)
保険診療において、「ドキシサイクリン塩酸塩水和物(販売名:ビブラマイシン錠)を化膿性炎症を伴う「ざ瘡」の治療に用いることを、審査上認める―。
こうした審査情報を社会保険診療報酬支払基金が9月28日に公表しました(支払基金のサイトはこちら(全情報が掲載されており、今般の取扱いはページの最後部に記載))。
医療現場の要望踏まえて審査上「柔軟な取扱い」を認め、全国の支払基金に情報提供
保険診療において医薬品を使用する場合、薬事・食品衛生審議会(薬食審)で有効性・安全性が確認された傷病への治療、用法・用量に限定されます。医療安全を確保すると同時に、医療保険財源の適正配分を確保するためです。
ただし医療現場においては、医学的・薬学的知見に照らし「薬食審で認められていない疾病等の治療においても一定の効果があると強く推測される」ケースがあり、レセプト審査において一定の柔軟な取り扱いもなされています(いわゆる「55年通知」(旧厚生省保険局長による1980年発出の通知)に基づく適応外使用など)。
一方で、地方独自の審査ルール(都道府県ルール)があることも指摘されています。例えば、「山間部などでは冬期に高齢者の通院が困難になる」ので、薬剤の1回処方量を多くすることを認めていたり、地域によっては、疾患別リハビリテーション料の算定を1日6単位までしか認めない(診療報酬点数上は9単位まで算定可能)などのルールが存在すると指摘されています。
こうした地方独自ルールを放置しれば、「全国一律の診療報酬」に反するとともに、「審査の透明性」が確保できず、医療保険制度への信頼が揺らいでしまいます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。そこで支払基金では、審査に関するルールを適宜明確にし、医療関係者らに情報提供しています(支払基金の審査情報提供サイトはこちら)(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
今般、薬剤に関して次の5点の審査ルールが明確にされました。厚生労働省も「妥当適切なもの」との見解を明確にしています。
(1)原則として、「ドキシサイクリン塩酸塩水和物【内服薬】」(販売名:ビブラマイシン錠50mg、同100mg)を「ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)」に対して投与した場合、当該使用事例を審査上認める
(2)原則として、「放射性医薬品基準人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTC)注射液【注射薬】」(販売名:プールシンチ注)を「リンパ浮腫」に対して投与した場合、当該使用事例を審査上認める
(3)原則として、「クラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物【内服薬】」(販売名:オーグメンチン配合錠125SS・250RS、クラバモックス小児用配合ドライシロップ)を「歯周組織炎」、「歯冠周囲炎」、「顎炎」対して投与した場合、当該使用事例を審査上認める
(4)原則として、「プロポフォール【注射薬】」(販売名:1%ディプリバン注200mg20mL、同500mg50mL、同1g100mL、1%ディプリバン注キット200mg20mL、同500mg50mL、その他後発品あり)を「歯科・口腔外科領域における手術または処置時等の鎮静(留意事項を遵守して使用した場合に限る)」を目的に静脈内鎮静法で使用した場合、当該使用事例を審査上認める
(5)原則として、「アモキサピン【内服薬】」(販売名:アモキサンカプセル10mg、同25mg、同50mg、アモキサン細粒10%)を「逆行性射精症」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める
このうち(1)の「ドキシサイクリン塩酸塩水和物」は、これまでにドキシサイクリンに感性のブドウ球菌属等による表在性皮膚感染症などへの効能・効果が認められています。支払基金は「薬理作用(タンパク合成阻害作用)が同様」と推定し、今般の取扱いを決めました。ただし、留意事項として、▼急性炎症期の中等症以上の症状に対して用いる▼急性炎症期は、概ね3か月を目安とする▼炎症軽快後は抗菌薬を中止し、「アダパレン」や「過酸化ベンゾイル」などの薬剤耐性菌の懸念のない薬剤を用いた維持療法に移行する―ことが求められます。
また(2)の「放射性医薬品基準人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTC)注射液」は、現在、RIアンギオグラフィおよび血液プールシンチグラフィによる各種臓器・部位の血行動態・血管性病変の診断に用いることが保険診療上、認められています。支払基金は「皮下/皮内に本剤が投与された後、リンパ管内に取り込まれ、リンパ液に拡散して移動し、リンパ流の動態診断が可能になる」という薬理作用が同様であると推定し、今般の取扱いを決めています。今般認められた「リンパ浮腫」に対しては、本剤を投与部位1か所当たり約40-80MBqを容量が0.1-0.2mL以内となるように調製の上、皮内に投与し、観察部位のシンチグラムを得ることになります。
また(4)の「プロポフォール」は、現在、全身麻酔の導入・維持、集中治療における人工呼吸中の鎮静に用いられています。支払基金では、「薬理作用(鎮静作用)が同様」と推定し、今般の取扱いを決めています。
なお、遵守すべき留意事項としては、以下のように規定されました。
▽当該使用例は「成人の患者」に認める
▽当該使用例の用法・用量は、「6-8mg/kg/時の投与速度で、持続注入にて静脈内に投与を始め、適切な鎮静深度が得られた時点で2-3mg/kg/時の投与速度都市、患者の全身状態を観察しながら投与速度を調節する。患者の年齢、感受性、全身状態、手術術式などに応じて適宜増減する」こととする
▽本剤投与に際し、「歯科・口腔外科領域における手術・処置時等の患者管理に熟練した医師・歯科医師」が、本剤の薬理作用を正しく理解し、患者の鎮静レベル・全身状態を注意深く継続して管理すること、▼気道確保▼酸素吸入▼人工呼吸▼循環管理―を行えるように全身麻酔器を含めた準備をし、体制を整備することが求められる
▽過度の鎮静(呼びかけに対応する応答がなくなる程度)および呼吸器・循環器系の抑制を避けるため、歯科・口腔外科処置を行う医師・歯科医師とは別に、「呼吸および循環動態を観察できる医療従事者」を配置し、パルスオキシメーターや血圧計などを用いて手術・処置等中の患者を観察することが求められる
▽術野と気道部位が同一部位であり、器具等の仕様で口腔内に水分が貯留しやすいことから、▼誤嚥▼気道閉塞―を起こさないよう注意することが求められる
▽手術・処置等の後は、全身状態に注意し、▼基本的運動▼平衡機能—の回復等に基づいて「帰宅可能」と判断できるまで患者を管理下に置くことが求められる。また鎮静の影響が完全に消失するまでは、自動車運転など危険を伴う機械操作に従事しないよう、患者に注意することも必要である
▽▼循環器疾患合併患者▼呼吸器疾患合併患者▼高齢者―など、全身状態の悪い患者では、とくに「少量から投与を開始」すること
▽予定手術または処置等に対して投与する場合には、「全身麻酔に準じた術前禁飲食」を行うことが必要である
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