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インスリン製剤の多くを「妊娠糖尿病」治療、ザイボックス錠を「多剤耐性結核」治療に用いることを審査上認める―支払基金・厚労省

2020.10.28.(水)

多くのインスリン製剤について、「妊娠糖尿病」治療に用いることをレセプト審査上認める―。

MRSA感染症治療等に用いる「リネゾリド(内服薬)」(ザイボックス錠ほか)について、「多剤耐性結核」治療に用いることをレセプト審査上認める―。

「放射性医薬品基準ピロリン酸テクネチウム(99mTc)注射液調製用」(テクネピロリン酸キット)について、「心シンチグラムによる心疾患の診断」目的で骨シンチグラムと同様の用法で使用することをレセプト審査上認める―。

こうした審査情報を社会保険診療報酬支払基金(支払基金)が10月26日に公表しました(支払基金の審査情報提供サイトはこちら(ページの最終部分に、今回の事例が追加された))。厚生労働省も同日に、事務連絡「医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて」を示しています。

薬理作用等に照らし、審査における「医薬品使用の柔軟な取扱い」を一定程度認める

保険診療の中では、医薬品が使用できる傷病は「薬事・食品衛生審議会(薬食審)で有効性・安全性が認められたもの」に限定されています。無制限に医薬品使用(適応外使用)を認めたのでは医療費の高騰・医療費財源の不適切な配分につながることはもとより、何より「医療安全の確保」ができなくなってしまうためです。このため「適応外使用」が行われた場合には、一連の診療はすべて自由診療となり全額自己負担となるのが原則です(混合診療の禁止)。

しかし医療現場では、「医学的・薬学的知見に照らし、薬食審で認められていない傷病にも一定の効果があるはずである」と強く推測されるケースがあります。このような場合には、例外的にレセプト審査において一定の柔軟な対応(適応外使用であっても保険診療と扱うことを認める)がなされています(いわゆる「55年通知」(旧厚生省保険局長による1980年(昭和55年)発出の通知)に基づく適応外使用など)。

もっとも、こうした例外的な取り扱いを野放図に認めたのでは「全国一律の診療報酬」という原則に反します。現に、地方独自の審査ルール(都道府県ルール、例えば「山間部などでは冬期に高齢者の通院が困難になるので、薬剤の1回処方量を多くすることを認めている」「地域によって、疾患別リハビリテーションを1日6単位までしか認めない(診療報酬点数上は9単位まで算定可能)」など)の存在が知られており、是正に向けた取り組みも進められています。また「審査の透明性」という面でも大きな問題があります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

そこで支払基金では、こうした「例外的な取り扱い」に関する審査ルールを明確にし、適宜、医療関係者らに情報提供しています(支払基金の審査情報提供サイトはこちら(ページの最終部分に、今回の事例が追加された))(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。



今般、支払基金は次の6つの審査ルールを明確にしました。

(1)「インスリン デテミル(遺伝子組換え)」(主な製品名:▽レベミル注ペンフィル▽レベミル注フレックスペン▽レベミル注イノレット—)について、「妊娠糖尿病」に対して投与した場合、原則として当該使用事例を審査上認める



(2)「インスリン ヒト(遺伝子組換え)」(主な製品名:▽ノボリンR注100単位/mL▽ノボリンR注フレックスペン▽ヒューマリンR注100単位/mL▽ヒューマリンR注カート▽ヒューマリンR注ミリオペン—)について、「妊娠糖尿病」に対して投与した場合、原則として当該使用事例を審査上認める



(3)「インスリン リスプロ(遺伝子組換え)」(主な製品名:▽ヒューマログ注カート▽ヒューマログ注ミリオペン▽ヒューマログ注ミリオペンHD▽ヒューマログ注100単位/mL―)について、「妊娠糖尿病」に対して投与した場合、原則として当該使用事例を審査上認める



(4)「インスリン アスパルト(遺伝子組換え)」(主な製品名:▽ノボラピッド注ペンフィル▽ノボラピッド注100単位/mL▽ノボラピッド注フレックスタッチ▽ノボラピッド注フレックスペン▽ノボラピッド注イノレット―)について、「妊娠糖尿病」に対して投与した場合、原則として当該使用事例を審査上認める



(5)「リネゾリド(内服薬)」(主な製品名:ザイボックス錠600mg、ほか後発品あり)について、「多剤耐性結核」に対して処方した場合、原則として当該使用事例を審査上認める



(6)「放射性医薬品基準ピロリン酸テクネチウム(99mTc)注射液調製用」(主な製品名:テクネピロリン酸キット)について、「心シンチグラムによる心疾患の診断」目的で骨シンチグラムと同様の用法により使用した場合、原則として当該使用事例を審査上認める



このうち(1)-(4)のインスリン製剤は、現在、インスリン療法が適応となる糖尿病への効能・効果が認められています。今般、「薬理作用(血糖降下作用)が同様で、妥当と推定される」として、「妊娠糖尿病」に対する処方が審査上認められることとなったものです。

この場合の用法・用量は「原則1日1-2回(インスリン デテミル)あるいは3回(インスリン ヒト、インスリン リスプロ、インスリン アスパルト)、2-30単位を皮下注射する」こととなります。

なお、▼妊娠中はインスリン需要量が変化しやすく、妊娠中期から後期にかけては需要量が増加する▼症例によっても内因性インスリン分泌能やインスリン感受性が異なる—ことから、「定期的な採血による血糖検査」「日常生活における血糖自己測定」などの結果を踏まえて、経時的にインスリン用量を調節する必要がある点に留意が必要です。また、「糖尿病診療ガイドライン2019」の食事・運動療法も参照した治療を行うことが求められます。



また(5)の「リネゾリド(内服薬)」は、現在、本剤に感性のある▼メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)▼バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム—による感染症への効能効果が認められています。今般「薬理作用(抗菌作用)が同様で、妥当と推定される」として、「多剤耐性結核」に対する処方が審査上認められることとなったものです。

この場合の用法・用量は、患者の年齢に応じて次のように設定されました。
▽成人:リネゾリドとして600mgを1日1回経口投与
▽12歳以上の小児:リネゾリドとして1回10mg/kgを1日1回経口投与
▽12歳未満の小児:リネゾリドとして1日1回、経口で▼体重5-9kgでは15mg/kg▼体重10-23kでは12mg/kg▼体重23kg超では10mg/kg―を投与する
ただし、1日量として600㎎(副作用が発現した場合は300㎎)が上限となります。

また、▼多剤耐性結核患者と診断された患者のみに用い、感受性結核患者には用いるべきでない▼感受性結核治療中に出現した副作用による中止薬剤の代替え薬としての投与は行わない▼多剤耐性結核患者に十分な治療経験がある医師により投薬する—という点への留意が必要です。

小児へ投与する場合には、▼多剤耐性結核治療の経験がある医師が治療を行うか、頻繁に相談を行いうる医療施設での投与する▼副作用について熟知し、病状に応じて適切に採血や神経症状、視神経機能について検査を行える医療施設で投与する—点に留意する(原則である)とともに、患者・保護者に十分に説明し、理解を得ておくことが求められます。

なお、本剤の使用に当たっては、次の点に留意することが必要です。
▽耐性菌の発現等を防ぐため、単剤投与を行わない
▽本剤によるショック、アナフィラキシーの発生を確実に予知する方法はないので、▼事前に既往歴等(とりわけ抗生物質等によるアレルギー歴)について十分な問診を行い、確認する▼投与に際しては、必ずショック等に対する救急処置の準備をする▼投与開始から終了後まで、患者を安静状態に保たせ、十分な観察を行うこと(とりわけ開始直後は注意深く観察する)―



(6)の「放射性医薬品基準ピロリン酸テクネチウム(99mTc)注射液調製用」は、現在▼心シンチグラムによる心疾患の診断▼骨シンチグラムによる骨疾患の診断―について効能効果が認められています。今般「薬理作用に基づいており、妥当と推定される」として、「心シンチグラムによる心疾患の診断」目的で骨シンチグラムと同様の用法により使用した場合、原則として当該使用事例を審査上認めることとなったものです。

支払基金では、▼心アミロイドーシス▼急性心筋梗塞等▼心シンチグラム—による診断が有用な症例に対し、「本品を冷蔵庫から取り出し、室温に戻した後、『過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液』1-9mLを加え良く振り混ぜた後、室温に5分間放置。調製されたピロリン酸テクネチウム(99mTc)注射液370-740MBqを被検者に静脈注射し、1-6時間後にシンチレーションカメラを用いた胸部撮影により心シンチグラムを得る」手法で撮影を行うことを求めています。



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