来年度(2023年度)予算案、サイバー攻撃対策などの医療DX推進、地域医療構想の実現などを重要な柱に据える―厚労省
2023.1.2.(月)
来年度(2023年度)予算案が昨年12月23日に閣議決定されました。政府全体の歳出は114兆3812億円となり、前年度当初予算(後の補正予算を含まない)に比べて6兆7848億円・6.3%もの増加となります。
このうち厚生労働省所管分の一般会計は33兆1686億円(前年度当初予算(子ども家庭庁分除く)と比べて5382億円・1.6%増)、うち社会保障関係費は32兆8514億円(同じく5503億円・1.7%増)となりました(厚労省のサイトはこちら(概要)とこちら(主要事項)、財務省のサイトはこちら(2023年度予算案のポイント))(事前大臣合意の記事はこちら)。
サイバー攻撃対策、電子カルテ標準化など医療DXを強力に推進
来年度(2023年度)予算案の柱は、(1)コロナ禍からの経済社会活動の回復を支える保健・医療・介護の構築(2)成⻑と分配の好循環に向けた「人への投資」(3)安心できる暮らしと包摂社会の実現—の3本です。Gem Medでは、主に(1)の保健・医療・介護の構築に焦点を合わせます。
まず「新型コロナウイルス感染症対策の着実な実⾏、次の感染症危機に備えるための対応能⼒の強化」として、来年度(2023年度)当初予算で97億円、2022年度の補正予算で3兆3584億円が計上されています。例えば、▼コロナ感染者等が発⽣した介護事業所等のサービス継続支援▼抗インフルエンザウイルス薬の備蓄▼保健所・地方衛⽣研究所の体制・機能強化▼薬剤耐性対策の推進▼アジア地域における臨床研究・治験ネットワーク等の充実—などが行われます。従前と同様に「当初予算・補正予算全体を通じて、切れ目のない施策を講じる」ことが意識されています(2020年度以降、同様の考え)。
コロナ対策の中で、我が国の医療・介護制度には様々な課題点・問題点があることが如実となりました。その1つが「ICT導入の遅れ」です。「現時点で、どの病院に何床の空きベッドがあるのか」を把握することすら困難であり、これは「救急患者のたらい回し」としても問題視されてきました。また、最近では、我が国の病院がサイバー攻撃の対象となり、診療停止に追い込まれる事態も生じています。そこで来年度(2023年度)予算案では「医療介護DXの推進、科学技術⼒向上・イノベーションの実現」を最重要項目の1つに掲げており、具体的には次のような事項が盛り込まれました。
▽医療・介護分野におけるDX、医療のサイバーセキュリティ対策の推進:19億円(+2022年度補正予算に509億円)
▼電子カルテの標準化の推進(関連記事はこちら)
▼医療分野におけるDXを踏まえたサイバーセキュリティ対策の推進(関連記事はこちら)
▼科学的介護データ提供⽤データベースの機能拡充
また、コロナ禍で強く認識されたのが「医療機能の分化、連携の強化の遅れ」です。このため▼急性期・高度急性期機能が分散(マンパワーも分散)し、重症患者の受け入れが十分に行えなかった▼急性期-回復期・慢性期との連携がうまく進まず、回復患者の転院が遅れ、新規患者の受け入れを制限せざるを得なかった▼通常診療とコロナ診療との両立が十分になしえなかった—など、さまざまな問題が生じました。
このため厚労省は「地域医療構想の推進」に取り組んでいますが、「医師偏在の解消」「医師働き方改革」とセットで進めることが必要となります(いわゆる三位一体の改革、関連記事はこちら)。来年度(2023年度)予算案では、この点について次のような事項・金額を計上しています。
▽地域医療構想、医師偏在対策、医療従事者の働き方改革の推進等:896億円
▼地域医療介護総合確保基⾦等による地域医療構想の推進(関連記事はこちら)
▼総合診療医の養成支援
▼地域枠の医師や⼥性医師等のキャリア形成支援(関連記事はこちら)
▼医療従事者の働き方改革の推進(関連記事はこちら)
▽救急・災害医療体制等の充実:98億円(+2022年度補正予算に50億円、デジタル庁計上分含む、関連記事はこちら)
▼ドクターヘリ・ドクターカーの活⽤による救急医療体制の強化
▼DMAT・DPAT体制の整備・強化
▼医療コンテナの活⽤・訓練の実施(
▽地域包括ケアシステムの構築、⾃⽴支援・重度化防⽌の推進:852億円(+2022年度補正予算に70億円、関連記事はこちらとこちら)
▼地域医療介護総合確保基⾦による介護の受け皿整備・介護⼈材の確保
▼保険者機能強化推進交付⾦等による保険者インセンティブの推進
▼地域づくりの加速化のための市町村に対する伴走的支援等の実施
▼介護施設等の防災・減災対策の推進
▽認知症施策推進⼤綱に基づく施策の推進:128億円(関連記事はこちら)
▼認知症疾患医療センターの運営や、認知症の⼈やその家族の支援ニーズと認知症サポーターを中⼼とした支援をつなぐ仕組み(チームオレンジ)の整備
▼認知症性疾患の病態解明に資する研究の推進 等
このほか、医療・介護に関連の深い項目として、次のような事項・金額が計上されています。
▽医薬品・医療機器等の実用化促進、安定供給、安全・信頼性の確保:8億7000万円(+2022年度補正予算で553億円)
▼希少疾病⽤医薬品の指定の推進
▼リアルワールドデータの薬事活⽤の推進
▼後発医薬品の信頼確保のための体制・取組の強化
▼プログラム医療機器の実⽤化の促進
▼医薬品の供給情報の調査体制の強化
▽科学技術⼒向上・イノベーションの実現:610億円(+2022年度補正予算に136億円、デジタル庁計上分含む)
▼がん・難病の全ゲノム解析等の推進
▼クリニカル・イノベーション・ネットワーク構想の推進
▼バイオ医薬品の製造・開発を担う⼈材の育成とバイオシミラーの普及
▼⽇本医療研究開発機構(AMED)における研究・厚⽣労働科学研究の推進
▽がん対策、循環器病対策等の推進:404億円
▼がんとの共⽣に向けた相談支援の強化(関連記事はこちら)
▼脳卒中・⼼臓病等患者の包括的支援体制構築のためのモデル事業の実施
▼アレルギー疾患、慢性腎臓病(CKD)対策の推進
▽難病・小児慢性特定疾病対策等の推進:1633億円(デジタル庁計上分含む)
▼難病・小児慢性特定疾病対策の着実な推進(関連記事はこちら)
▼移植医療対策の推進
▽健康寿命延伸に向けた予防・健康づくりの推進:24億円
▼高齢者の保健事業と介護予防の⼀体的な実施の推進
▼糖尿病性腎症の重症化予防事業を含む保健事業等への支援
▼⼥性の健康に関する普及啓発
▼HPVワクチンの相談支援体制・医療体制の強化
▽看護、介護、障害福祉の現場で働く方々の処遇改善の引き続きの実施:855億円(関連記事はこちらとこちら
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