ステージIでの診断・治療で、乳・前立腺がんの9割、胃・大腸がんの8割、膵臓がんの3割が10年以上生存―2011年「10年生存率」
2024.1.26.(金)
がんの10年生存率は部位・ステージにより違いがあるが、概ね「早いステージ」でがんと診断された症例ほど生存率が高い―。
ステージIで早期発見・治療すれば、乳・前立腺がんで9割、胃・大腸がんで8割、膵臓がんでも3人1人が10年以上生存できる―。
国立がん研究センターが1月25日に公表した「院内がん登録2011年10年生存率集計」から、このような状況が明らかとなりました(国がんのサイトはこちらとこちらとこちら、院内がん登録生存率集計結果閲覧システムはこちら)(関連記事はこちら)。
早期発見・早期治療の重要性を再確認できる結果です。
2011年にがんと診断された者の「10年生存率」は全体で53.5%
国がんでは、従前から全国がんセンター協議会(全がん協)と協力して、加盟施設(国がん中央病院、がん研有明病院、岩手県立中央病院、九州がんセンターなど)等における診断治療症例について「5年生存率」を発表しています。
また2016年1月からは、がん研有明病院、岩手県立中央病院などのデータをもとにした「10年生存率」も公表しています(関連記事はこちら)。例えば、▼乳がん(女性)III期▼子宮頸・子宮体がんIII期▼甲状腺がん(乳頭濾胞がん)IV期—など、がんの種類や病期によっては「5年以降も長期的フォローアップが必要である」ため、10年生存率という指標が非常に重要です。
今般、2011年にがんの診断治療を行った341施設・36万3521例(前回集計に比べて25施設・2万2186例増)を対象に「10年生存率」を推計しました。症例数が多く、また増加している点から、結果の信頼性の高さを伺うことができます。
なお生存率については、国際的に広く用いられている「期待生存率を算出することなく、純粋に『がんのみが死因となる状況』を仮定して計算する純生存率(Net Survival、ネット・サバイバル)」が用いられています(こちら)。従前の相対生存率に比べ、ネット・サバイバルは若干低くなる傾向にあります。
全部位・全臨床病期の10年生存率は53.5%で、前回集計に比べて0.2ポイント向上しています。ただし、⺟集団が毎年異なること、年齢調整等をしていないことから、「⽣存率の経年⽐較や施設間⽐較は困難である」と国がんは注意喚起しています。中長期的な傾向を見ていく必要があります。
また、院内がん登録生存率集計結果閲覧システムで部位別(全臨床病期)の「2011年診断例における10年生存率(ネット・サバイバル)」を見ると次のような状況が分かりました。
【胃がん】(
▼全体:56.8%▼ステージI:77.6%▼ステージII:48.9%▼ステージIII:32.0%▼ステージIV:5.9%
【大腸がん】
▼全体:57.9%▼ステージI:80.4%▼ステージII:69.8%▼ステージIII:61.2%▼ステージIV:11.1%
【前立腺がん】
▼全体:85.4%▼ステージI:93.7%▼ステージII:95.4%▼ステージIII:87.3%▼ステージIV:37.4%
【肝臓がん】
▼ステージI:34.4%▼ステージII:20.6%▼ステージIII:6.9%▼ステージIV:1.1%
【非小細胞肺がん】
▼全体:31.5%▼ステージI:62.9%▼ステージII:28.7%▼ステージIII:12.8%▼ステージIV:2.3%
【女性乳がん】
▼全体:82.9%▼ステージI:94.1%▼ステージII:86.6%▼ステージIII:62.7%▼ステージIV:16.9%
【子宮頸がん】
▼全体:68.1%▼ステージI:91.6%▼ステージII:71.8%▼ステージIII:52.5%▼ステージIV:19.0%
【卵巣がん】
▼全体:53.6%▼ステージI:85.5%▼ステージII:61.8%▼ステージIII:29.2%▼ステージIV:14.6%
【膵臓がん】
▼全体:5.8%▼ステージI:31.4%▼ステージII:10.3%▼ステージIII:3.2%▼ステージIV:0.6%
ステージIで適切な診断治療が行われた場合、乳がんや前立腺がんの患者では9割超が、胃がん・大腸がんでも8割程度が、さらに難治である膵臓がんでも3人に1人は10年間以上生存しています。つまり、「がん治療後の生活」が重要となってくるのです。こうした点を踏まえ2024年度の次期診療報酬改定でも「がんとの共生」を重要テーマの1つとなります。
小児がんの治療後予後は良好で長期合併症対応が重要、AYAがんはがん種で状況異なる
さらに国がんでは、▼小児がん▼AYAがん—の10年生存率についても特別集計を行っており、例えば次のような状況が明らかにされました。
【小児がん】
▽「白血病」は5年実測生存率(死因に関係なく全ての死亡を計算に含めた生存率)88.4%、10年実測生存率86.2%(10年ネット・サバイバル:86.6%)
▽「脳腫瘍」は5年実測生存率73.5%、10年実測生存率71.5%(10年ネット・サバイバル:71.7%)
→多くのがん種で「5年」から「10年」にかけての生存率の低下はあまりみられず、治療後の予後は「良好」である
→がんサバイバーとして長期合併症などに対する調査や支援が必要である
【AYAがん】
▽「脳・脊髄腫瘍」は5年実測生存率83.5%、10 年実測生存率77.8%(10年ネット・サバイバル:78.2%)
▽「子宮頸部・子宮癌」は5年実測生存率88.6%、10年実測生存率87.2%(10年ネット・サバイバル:87.7%)
▽「白血病」は5年実測生存率72.8%、10年実測生存率70.1%(10年ネット・サバイバル:70.6%)
→がん種によって「5年」から「10年」にかけての生存率の低下の程度は様々
→がん種にあわせたフォローアップなどの対応が必要である可能性が示唆される
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