特別の医療安全規定が必要な高難度医療技術、主に外保連試案の難易度E―日本医学会
2016.11.15.(火)
外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の技術難易度Eの手術・処置などを「高難度医療技術」に位置づけ、これらを医療機関に導入する場合には、学会などで定められたガイドラインによる▼術者の技量の基準▼指導体制の在り方の基準▼施設基準や実施基準―などを満たしていることを確認するほか、手術部門・集中治療室・麻酔科医師・看護部門・医療安全部門などとの連携を十分にとることが必要である―。
日本医学会の「高難度新規医療技術の導入プロセスにかかる診療ガイドライン等の評価・向上に関する研究班」が10日、このような内容の「高難度新規医療技術の導入に当たっての医療安全に関する基本的な考え方」をまとめました(日本医学会のサイトはこちら)。
特定機能病院・臨床研究中核病院はこの考え方に沿った体制などを整備することが必要となり、一般病院においても、高難度新規医療技術の導入にあたっては、この考え方に沿った必要な措置を図る努力義務があります。
目次
大学病院での医療事故を受け、特定機能病院などで医療安全管理体制を強化
東京女子医科大学病院と群馬大学附属病院の2つの特定機能病院で重大な医療事故が発生し、そこでは病院のガバナンスに問題点があることが分かったことから、塩崎恭久厚生労働大臣は、特定機能病院の承認要件を見直すことを決定。厚生労働省の「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」では、塩崎厚労相案をベースに見直し要件をまとめ、医療法施行規則(省令)の見直しが今年(2016年)6月に行われました。
そこでは、特定機能病院の承認要件について、▼医療安全管理責任者の配置▼医療安全管理部門(専従の医師、薬剤師、看護師を配置)の設置▼監査委員会(3名以上で、委員長と委員の過半数は「病院と利害関係のない者」から選任)の設置―などのほか、「高難度新規医療技術・未承認医薬品を用いた医療提供の適否などを決定する部門を設置し、これらの医療提供を行う場合に遵守すべき事項などを定めた規定を作成する」こととされています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
高難度新規医療技術とは、「当該病院で実施したことのない医療技術(軽度な術式変更などを除く)」(新規性)で「実施によって患者の死亡その他の重大な影響が想定されるもの」(高難度)をさし、厚労省は、関係学会による高難度新規医療技術の導入に関する基本的な考え方を示すこととしていました(関連記事はこちら)。今般、日本医学会の研究班で基本的な考え方がまとめられたものです。
外保連試案の難易度Eや、一部の難易度Dが高難度医療技術に該当
まず「高難度新規医療技術」の範囲について、研究班では「医療機関ごとに異なる」ことを確認した上で、一般的な基準を模索。その結果、外保連試案における手術・手技の技術難易度に注目と、次のような考え方を示しました。
▼技術難易度E(例えば深在性血管腫摘出術・露出部・直径6cm以上や冠動脈バイパス手術(再手術)、左室形成術など)は、特殊技術を有する専門医が行うものとされており、当該技術の実施にあたって患者への影響が明らかに限定的であるといった場合を除き、原則として、高難度医療技術に該当する
▼技術難易度D(例えば大動脈弁形成術や胸腹裂孔ヘルニア手術など)は、原則として相当しないと考えられるが、これに該当する医療技術のうち、特に難度が高いと判断される技術は高難度医療技術に該当する
また外保連試案に掲載されていない、あるいは保険収載されていない医療技術については、広く一般に普及していない医療技術であるため、当該医療機関において個別かつ慎重に判断することが必要としたほか、高難度医療技術に該当する術式のリストアップなどを行うよう関係学会に求めています。
なお、前述のように改正医療法施行規則では、高難度新規医療技術に該当するかについて「当該病院で実施したことのない医療技術(軽微な術式変更等を除く)」(新規性)とされています。この点について研究班は、▼対象疾患▼予想される結果▼合併症の頻度と内容―が想定される範囲で大きく相違がないと判断された場合や、緊急で通常と異なる手術が行われる場合などには、「新規性」が排除されるとの見解を示しています。もっとも、当該医療機関として過去に経験のある高難度医療技術であっても、当該医療技術に精通した医師が不在になった場合は、改めて当該医療の提供の適否を評価することが望ましいとも付言しています。
高難度医療技術を導入する病院では、学会のGL遵守状況などの事前確認が必須
こうした高難度新規医療技術を導入する場合、医療機関では次のような体制整備などを図るべきとしています。
【術者の技量】
▼学会などが定めた指針・ガイドラインなどに「術者の技量に関する基準」がある場合、これらの基準に適合している者が実施者に含まれることを確認する【必須】
▼学会なおで、特定のトレーニングコースや資格を設けている場合は、その研修の修了・資格の取得が望ましい
▼術者の技量に関する基準がない場合には、当該技術を対象とする基本領域学会の専門的資格(専門医など)を有しており、当該技術に関連する手術に関する経験を有する者が、術者の中に含まれることが必要【必須】
【指導体制】
▼学会など定めた指針・ガイドラインなどに「指導体制の在り方に関する基準」がある場合、それらに適合していることを確認する【必須】
▼「導入前に,術者などを含めた医療チームとして,当該医療の提供に経験のある医療機関へ視察にいく」「医療提供時に、当該技術に経験豊富な者を招聘しその指導下に行う」ことが望ましい
【医療安全】
▼学会などが定めた指針・ガイドラインなどに「施設基準」「実施基準」などがある場合、それらの基準に適合していることを確認する【必須】
▼手術部門、集中治療室、麻酔科医師、看護部門などの院内関係者の間で提供前に十分な連携を取る【必須】
▼高難度新規医療技術の適否を決定する担当部門は、必要に応じて医療安全部門にも提供前に連絡をすることが望ましい
▼導入後5症例程度は、手術記録、診療録などの記載内容を担当部門に報告する(報告症例数は、高難度新規医療技術評価委員会の意見を踏まえ、事前に設定しておく)【必須】
一般のインフォームドコンセントに加えて、多職種による説明が望ましい
高難度新規医療技術では、患者のリスクも大きくなるため、十分なインフォームドコンセントが必要です。この点について研究班は、インフォームドコンセントの一般原則に加えて、次のような対応をとることが望ましいとしています。
▼高難度医療技術を提供する医師、または主治医が、異なる職種の医療者の同席のもと、医療の提供を受ける者に対する説明を行う
▼高難度新規医療技術を提供する際の説明は文書で行い、そこには▽実施する医療機関における過去の実績▽当該医療を提供するにあたって設備・体制の整備状況▽術者の専門的資格およびこれまでの経験▽当該医療の有効性、合併症の重篤性および発生の可能性などの安全性―を含める
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