2015年度介護報酬改定で、看多機など除く多くの介護サービス類型で経営悪化―介護給付費分科会(1)
2016.12.28.(水)
2015年度の介護報酬改定の前後で、多くの介護サービス類型の経営状況は悪化しているが、定期巡回・随時対応型訪問介護看護や看護小規模多機能型居宅介護(旧、複合型サービス)など「テコ入れ」を行ったサービス類型では、その効果が現れ経営状況が好転している―。
28日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会に厚生労働省が報告した2016年度の「介護事業経営概況調査」結果から、こういった状況が明らかになりました(厚労省のサイトはこちらとこちら)。
ただし調査対象が限定されているため、詳細な状況は来年度(2017年度)に行われる「介護事業経営実態調査」の結果を待つ必要があります。
概況調査では改定前後の定点観測が可能に
介護事業経営概況調査(概況調査)と介護事業経営実態調査(実態調査)は、いずれの介護サービス類型ごとに施設・事業所の経営状況を調べるものです。従前、概況調査は改定後1年目の1年分を、実態調査は改定後2年目の1か月分を対象としていましたが、「単月調査では季節変動などの影響を受けやすい」「改定前後の状況を定点(同一施設・事業所)で把握するべき」との指摘を受け、▼概況調査は前回改定前後の2年分▼実態調査は前回改定後2年目の1年分―を調査対象とするなどの見直しが行われました(関連記事はこちらとこちら)。
28日に報告された概況調査では、「2015年度介護報酬改定前後の2年分」(2014年度と2015年度)の経営状況が定点で把握されています。
調査結果からは、▼多くのサービス類型で収支差率が悪化している▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護や看護小規模多機能型居宅介護などでは収支差率が好転している―ことが分かりました。
【施設サービスの収支差率の変化】(いずれも税引前)
▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):2014年度・3.0%→15年度・2.5%(マイナス0.5ポイント)
▼介護老人保健施設:2014年度・3.9%→15年度・3.2%(マイナス0.7ポイント)
▼介護療養型医療施設:2014年度・6.1%→15年度・3.7%(マイナス2.4ポイント)
【居宅サービスの収支差率の変化】(いずれも税引前)
▼訪問介護:2014年度・7.4%→15年度・5.5%(マイナス1.9ポイント)
▼訪問入浴介護:2014年度・2.9%→15年度・2.7%(マイナス0.2ポイント)
▼訪問看護:2014年度・3.5%→15年度・3.0%(マイナス0.5ポイント)
▼訪問リハビリ:2014年度・6.9%→15年度・4.3%(マイナス2.6ポイント)
▼通所介護(デイサービス):2014年度・7.7%→15年度・6.3%(マイナス1.4ポイント)
▼通所リハビリ(デイケア):2014年度・6.5%→15年度・4.6%(マイナス1.9ポイント)
▼短期入所生活介護(ショートステイ):2014年度・5.9%→15年度・3.2%(マイナス2.7ポイント)
▼特定施設入居者生活介護:2014年度・5.9%→15年度・4.1%(マイナス1.8ポイント)
▼福祉用具貸与:2014年度・0.4%→15年度・3.7%(プラス3.3ポイント)
▼居宅介護支援(ケアマネ):2014年度・マイナス3.5%→15年度・マイナス1.8%(プラス1.7ポイント)
【地域密着型サービスの収支差率の変化】(いずれも税引前)
▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護:2014年度・マイナス1.7%※→15年度・6.8%※(プラス8.5ポイント)
▼夜間対応型訪問介護:2014年度・7.1%※→15年度・3.6%※(マイナス3.5ポイント)
▼認知症対応型通所介護(認デイ):2014年度・6.9%→15年度・6.0%(マイナス0.9ポイント)
▼小規模多機能型居宅介護:2014年度・5.2%→15年度・5.4%(プラス0.2ポイント)
▼認知症対応型共同生活介護(グループホーム):2014年度・6.2%→15年度・3.8%(マイナス2.4ポイント)
▼地域密着型特定施設入居者生活介護:2014年度・5.6%※→15年度・5.2%※(マイナス0.4ポイント)
▼地域密着型介護老人福祉施設:2014年度・2.2%→15年度・1.6%(マイナス0.6ポイント)
▼看護小規模多機能型居宅介護:2014年度・1.4%※→15年度・6.3%※(プラス4.9ポイント)
※はサンプル数が少ないため、集計値に個々の事業所のデータが大きく影響しているため、厚労省は「参考値」と扱っている
2015年度介護報酬改定は、全体で2.27%のマイナス改定(在宅マイナス1.42%、施設マイナス0.85%)となりました。厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は「全体として収支率が悪化している要因の1つとしてマイナス改定の影響があると考えられる。ただし、影響が大きいかどうかは定かではない」とコメントしています。例えば、福祉用具貸与では、2015年度改定で特段のプラス項目はありませんでしたが、収支差率はプラス3.3ポイントと改善しています。ここでは事業所における「コスト削減」や「高単価での貸与(現在は公定価格が定められていない)」などが色濃く現れていると見ることができます。
また地域包括ケアシステムの要になると期待される定期巡回・随時対応型訪問介護看護や看護小規模多機能型居宅介護などでは、区分支給限度基準額の外に位置づけられる「総合マネジメント体制強化加算」(1か月当たり1000単位)を設定するなどし、サービスの拡充を狙った報酬改定が行われました。この効果が「収支差率の好転」として現れていると見ることができます。
ただし、※にも記したとおり、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などは有効回答数が少ないため、バラつきが大きいため詳細な分析は難しく、実態調査結果を待つ必要があります。
施設整備などのための借入金、現在は収益で返済が可能な状況だが
今回の概況調査では、施設サービスや特定施設入居者生活介護などを対象として「長期借入金返済支出」を新たに把握しています。多くの施設などでは、建物建設などの費用を金融機関から借り入れ、その返済を行っています。今回の概況調査では「手元に残る収益で、借入金の返済が可能な状況になっているかどうか」を調べるために、「長期借入金返済支出」を新たに把握しているのです。
厚労省老健局老人保健課では、手元に残った収益【税引後の収益と減価償却費の合計、社会福祉法人ではここから国庫補助金等特別積立金取崩額を控除】から、借入金の返済分【設備資金借入金元金償却金支出と長期運営資金借入金元金償還金支出】を差し引いたものが、プラスとなっているかどうか(プラスとなっていれば返済をしても概ね黒字が出ている)を分析。その結果、すべてのサービスでプラスになっていることが判明したため、現状では「収益分で借入金の返済が可能である」と見ています。
この点に関連して東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、従前は収支差率が高く、それをベースにした借入金の返済計画を立てていたことを指摘した上で、「このままでは借金返済のギリギリになってしまう。次期介護報酬改定に向けて財源を確保してほしい」と厚労省に要望しました。
また分科会の前に開かれた「介護事業経営調査委員会」では、千葉正展委員(福祉医療機構経営サポートセンターリサーチグループ グループリーダー)から「社会福祉法人では借入金の返済でギリギリのところが多いのではないか。高齢化が進展する中で、設備投資などの拡大再生産にブレーキがかからないか慎重に見ていく必要がある」と指摘。さらに2020年開催予定の東京オリンピックなどにより建設費が高騰している状況に耐えられるのだろうかとの懸念も示しています。
給与費割合が多くのサービス類型で上昇、経営圧迫の大きな要因
概況調査結果からは、次のように「2014年度から2016年度にかけて、多くのサービス類型で『収入に対する給与費割合』が増加している」状況も明らかになりました。
【施設サービスの給与費割合の変化】
▼介護老人福祉施設:2014年度・62.6%→15年度・63.8%(プラス1.2ポイント)
▼介護老人保健施設:2014年度・58.5%→15年度・59.6%(プラス1.1ポイント)
▼介護療養型医療施設:2014年度・56.9%→15年度・58.8%(プラス1.9ポイント)
【居宅サービスの給与費割合の変化】
▼訪問介護:2014年度・73.3%→15年度・75.2%(プラス1.9ポイント)
▼訪問入浴介護:2014年度・70.6%→15年度・72.0%(プラス1.4ポイント)
▼訪問看護:2014年度・78.7%→15年度・79.3%(プラス0.6ポイント)
▼訪問リハビリ:2014年度・62.2%→15年度・63.5%(プラス1.3ポイント)
▼通所介護(デイサービス):2014年度・61.0%→15年度・62.4%(プラス1.4ポイント)
▼通所リハビリ(デイケア):2014年度・62.3%→15年度・64.3%(プラス2.0ポイント)
▼短期入所生活介護(ショートステイ):2014年度・60.6%→15年度・63.9%(プラス3.3ポイント)
▼特定施設入居者生活介護:2014年度・43.2%→15年度・44.4%(プラス1.2ポイント)
▼福祉用具貸与:2014年度・35.7%→15年度・34.8%(マイナス0.9ポイント)
▼居宅介護支援(ケアマネ):2014年度・86.5%→15年度・85.6%(マイナス0.9ポイント)
【地域密着型サービスの給与費割合の変化】
▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護:2014年度・88.8%→15年度・82.1%※(マイナス6.7ポイント)
▼夜間対応型訪問介護:2014年度・78.3%※→15年度・81.5%(プラス3.2ポイント)
▼認知症対応型通所介護(認デイ):2014年度・66.3%→15年度・67.4%(プラス1.1ポイント)
▼小規模多機能型居宅介護:2014年度・65.8%→15年度・66.8%(プラス1.0ポイント)
▼認知症対応型共同生活介護(グループホーム):2014年度・61.7%→15年度・64.0%(プラス2.3ポイント)
▼地域密着型特定施設入居者生活介護:2014年度・53.1%→15年度・53.9%(プラス0.8ポイント)
▼地域密着型介護老人福祉施設:2014年度・62.1%→15年度・63.5%(プラス1.4ポイント)
▼看護小規模多機能型居宅介護:2014年度・71.3%→15年度・68.2%(マイナス3.1ポイント)
介護人材不足に伴う人件費水準の高騰や、2015年度報酬改定における介護職員処遇改善加算の区分I新設などの影響が複合的に関係して給与費割合増につながっていると考えられます。なお、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など一部では給与費割合が減少していますが、鈴木老人保健課長は「収支差率が改善したサービスでは、相対的に給与費割合が低くなっている」と分析しています。
この点について武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)や伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は「人件費について分布状況などを示してほしい」と要望しています。
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