死亡診断、法医学教育を受けた看護師が診察し、ICT機器を用いて医師に報告する手法も可能—厚労省
2017.9.25.(月)
ICT技術を用いることで「直接対面での死後診察に代替できる」程度の情報が得られる場合には、遠隔での死亡診断が可能であるが、その際には「死亡前14日以内の直接対面での診察において、進行した悪性腫瘍などで『早晩の死亡』が予測されている」ことや、「法医学教育などを受けた看護師が、死の三兆候の確認など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できる」体制が敷かれていることなどを満たす必要がある—。
厚生労働省は9月12日に、通知「情報通信機器(ICT)を用いた死亡診断等の取扱いについて」を発出。直接対面での死後診察によらずに死亡診断を行い、死亡診断書を交付するにあたっての「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」を明らかにしています(厚労省のサイトはこちら)。
死亡前14日以内の「直接対面診療」などが前提条件に
高齢化の進展により、いわゆる「多死時代」を迎えます。あわせて在宅医療が推進される中では、医師がすべての在宅患者の死亡を直接対面で診断することが難しくなると指摘され、政府の規制改革会議では「看護師による確認で、医師が死後24時間経過後も死後診察なしで死亡診断書を交付できるようにすべき」と指示しています。
厚労省はこの指示を受けて運用・手順について研究。今般、ガイドラインをまとめるにいたりました。
ガイドラインではまず、「直接の対面診療による場合に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療は直ちに医師法第20条などに抵触しない」との考え方が、死亡診断書交付時にも適用されることを確認(関連記事はこちら)。その上で、ICTを活用した死亡診断を行う場合の留意点を整理しています。そこでは「直接対面での死後診察と同程度に死亡診断書の内容の正確性が保障される」のみならず、「遺族と円滑にコミュニケーションを図ることができる」などの条件を満たさなければならないと強調しています。
昨年(2016年)6月2日に閣議決定された規制改革実施計画では、ICTを活用した死亡診断などを行うためには、次の5要件をすべて満たすこととされました。安易な死亡診断は、死者の尊厳を冒涜するとともに、事件の隠ぺいなどにもつながってしまうからです。
(a)医師による直接対面での診療の経過から早晩死亡することが予測されていること
(b)終末期の対応について事前の取決めがあるなど、医師と看護師と十分な連携が取れており、患者や家族の同意があること
(c)医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難でること
(d)法医学などの一定の教育を受けた看護師が、死の三兆候の確認を含め医師と予め決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること
(e)看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置などのICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できること
今般のガイドラインでは、各要件について詳細な解説も行われました。
まず(a)の「早晩死亡することが予測される」とは、▼死亡の原因となりうる疾患(進行がんなど)に罹患している▼その疾患や続発する合併症により死亡が予測されている▼突然死(発症後24時間以内の病死)ではない▼生前の最終診察時に、医師が早晩死亡する可能性が高いと判断し、その事実を看護師・患者・家族に説明している—ことをすべて満たすことを言います。また生前の直接対面での診療は「死亡14日前以内」に実施されていなければなりません。
また(b)では、▼「終末期に積極的な治療・延命措置を行わない」ことなどについて、同意書を用いて医師・看護師・患者・家族間で共通認識が得られている▼常時看護師から医師に電話連絡できる体制が整っている—という両要件を満たすが必要です。もっとも、患者の認知機能が著しく低下しているケースも考えられることから、この場合には「家族の同意のみ」でも差し支えありません。
(c)の医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況とは、「正当な理由のため、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要すると見込まれる状況」を言います。例えば、月・水のみ旅客船が航行する医師が常駐していない離島で、患者が木曜日に死亡した場合や、老人ホームでの最期を希望する患者に訪問診療を提供している患者が土曜日に亡くなったが、当該医師は土日には病院の救急部に詰めているような場合などが考えられます。
さらに(d)の「法医学などに関する一定の教育」とは、▼法医学などの講義(死因究明・死因統計制度、死因論、内因性急死、外因死(損傷・中毒・窒息論、異常環境死、虐待死)を含む)▼法医学に関する実地研修(2体以上の死体検案または解剖に立ち会い、必要な所見を遠隔にいる医師に報告できるよう修練する)▼看護に関する講義・演習(関係法令・制度、機器を用いたシミュレーション、死亡前から死亡後に至る患者・家族との接し方を含む)―のプログラムで構成されていることが必要です。
また教育対象は、▼看護師実務経験5年以上で、その間に3例以上の患者死亡に立ち会った経験を持つ▼看護師実務経験のうち、訪問看護や介護保険施設などで3年以上の実務経験を有し、その間に患者5名に対しターミナルケアを行った経験をもつ—の両要件を満たす看護師に限定されます。
最後に(e)では、具体的に▼リアルタイムの双方向コミュニケーション(LTE、あるいは相当する動作環境、映像と音声によるリアルタイムの双方向コミュニケーションが可能な端末)▼文書・画像の送受信-が可能な体制を敷き、(1)心停止(2)呼吸停止(3)対光反射の消失―の3兆候を5分以上の間隔をあけて2回以上、医師が確認することが求められます。
患者、家族に「ICT用いた死亡診断」の意義などを理解してもらうことが重要
なお、ICTを活用して死亡診断を行うにあたっては、次のような手順を踏むことが必要です。
▼看護師が法医学などに関する教育受け、必要な機器・物品(聴診器、携帯型心電図、アルコール体温計、ペンライト、カメラ、リアルタイムの双方向コミュニケーション可能環境など)を医師と相談して準備する
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▼本人、家族に「ICTを活用した死亡診断」の意義を説明し、理解を得た上で、同意書による同意を得る
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▼看護師は、医師の指示の下、遺体の観察や写真撮影を行い、死亡診断の実施日・場所、遠隔死亡診断を実施した医師、医師に報告した看護師、疾患名、病歴経過、死亡に至る経過、3兆候の確認状況(2回)、外表検査(体に損傷やうっ血がないかなど)を記載し、写真とともに電子メールなどで医師に報告する
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▼医師は、看護師からの報告を踏まえ、遠隔において死亡診断を行う。その際、医師が死亡の事実確認や異状なしとの判断ができない場合には、ICTを利用した死亡診断を中止しなければならない
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▼看護師は、医師から死亡診断書に記載すべき内容についての説明を受け、死亡診断書を代筆する方法で補助できる。この際には「ICTを利用した死亡診断を行った旨」「代筆した看護師の氏名」を死亡診断書に記載する(医師は、看護師が代筆した死亡診断書に誤りがないかなどを確認しなければならない)
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▼死亡診断書には、医師の氏名を看護師が記入し、看護師が医師から予め預かっていた印鑑を押印する
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▼医師がICT機器を活用して遺族に対して死亡についての説明を行い、看護師が遺族に死亡診断書を手交する
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▼死亡診断書は、▽正本を家族に交付▽写しを3部以上作成し、1通を遺族控え、1通を医師控え、1通を看護師控え—とする
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混合介護のルール明確化、支払基金のレセプト審査一元化・支部の集約化を進めよ—規制改革会議
AIを活用したがん治療や、オンライン遠隔診療など「医療・介護革命」を進めよ—自民党
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