人生の最終段階の医療方針、決定後も繰り返し話し合い、修正していくことが重要―厚労省検討会
2017.12.22.(金)
2015年3月に改訂された「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」について、「一度方針を決定した後も、繰り返し話し合って方針を見直していくことが重要である」「在宅でのガイドライン利用を促進する」という観点で見直す―。
こういった方針が、12月22日に開催された「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で了承されました(関連記事はこちら)。厚生労働省医政局地域医療計画課の松岡輝昌・在宅医療推進室長は「年度内(2018年3月まで)に見直したい」との考えを示しています。
人生の最終段階医療の決定プロセスガイドライン、2017年度内に改訂
「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(以下、ガイドライン)は、▽医療従事者からの適切な情報提供と説明▽患者と医療従事者との話し合い▽患者本人による決定―を基本に、「人生の最終段階における医療」の提供(患者からすれば受療)方針を定めることなどを打ち出しています(関連記事はこちら)(厚労省のサイトはこちら)。
しかし、方針を決定した場合であっても、必ずしもその方針が「当該患者が亡くなる」まで継続するものではありません。患者や家族の心境は絶えず変化する可能性があり、繰り返し、何度も何度も「最期の在り方」を▼患者本人▼家族▼医療従事者—らが話し合って、都度都度「方針の修正」が行われるべきです。松岡在宅医療推進室長は「方針は、らせん階段のように見直していくものである」旨を説明しています。
また、日本医師会の生命倫理懇談会(第15次生倫懇)は、今般、横倉義武会長に宛てて答申を行い、その中で「ガイドラインは主に病院を対象に議論され、在宅での意思決定にうまく対応していない難点がある」旨が指摘されています(日医のサイトはこちら)。
こうした点を踏まえて松岡在宅医療推進室長は、ガイドラインのさらなる充実を目指し、(1)本人、家族、医療従事者等の間で、繰り返し話し合うことの重要性(2)在宅の特性を踏まえたガイドライン活用—の主に2点の見直しを行う方針を提案。検討会で了承されています。
2018年度の診療報酬・介護報酬改定論議が中央社会保険医療協議会などで進められていますが、例えば療養病棟における【救急・在宅等支援療養病床初期加算】の見直しの中で「ガイドライン活用を要件化する」ことなどが検討されています(関連記事はこちら)。こうした背景もあり、ガイドライン見直しの時期について松岡在宅医療推進室長は「年度内(2018年3月まで)に行いたい」との見解も示しており、年明け1月開催予定の次回会合で「見直しの草案」が提示される見込みです。
「人生の最終段階を迎える人」の支え手も、最期を議論する「輪」に参加すべき
ところで検討会のメインイシューは、例えば「最期を迎えるに当たり、自分が望んでいない延命治療などが施される」といった事態が起こらないよう、「自分自身で『最期にどういった医療やケアを受けたいか』を明確にしておく」ことを、広く日本国民に普及するためにどのような方策が考えられるかを議論しています(年度内(2018年3月まで)に意見とりまとめ予定)。
これまでの議論の中で、ACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生の最終段階の医療・療養について、自分自身の意思に沿った医療・療養を受けるために、家族や医療介護関係者らとあらかじめ、かつ繰り返し話し合うこと)の普及が重要であるという統一見解が構成員の間に生まれています。
木澤義之構成員(神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科特命教授)は、ACPの作成にあたって、(1)自分が大切にしていることは何かを考える(2)自分が信頼し、いざというときに代理として自分が受ける医療・ケアについて話しあってほしい人(医療代理人)はだれかを考える(3)自分の病名や病状、予想される経過、必要な治療やケアについて医療代理人と共に、主治医に質問してみる(4)治療が不可能な病気が進行し、自分で考えたりできなくなった場合に、どのような治療を受けたいか、逆に受けたくないかを医療代理人と共に話し合って考える(5)もしもの時に、医療代理人にどこまで任せられるかを考え、伝えておく―という5つのステップを踏むことを提唱しています。
ところで、このACPは、例えば「死を意識する」年代の人では作成が望ましいことは言うまでもありません。最後に自分の望まない治療を、自分の意思に反して施されることは、尊厳にも関わる問題だからです。
一方、より若い年代の人もACPを作成しておくべきでしょうか。検討会では、この点について「普及の実効性を考えれば、普及対象を高齢者などに絞るべきではないか」(松原謙二構成員:日本医師会副会長)や「ある日突然、交通事故などで脳挫傷になる可能性もある。若い年代でも事前に準備しておくべきではないか」(齊藤克子構成員:医療法人真生会副理事長)など、さまざまな意見が出されています。しかし、これらはバラバラなわけではなく、「自分の親や家族が死を迎えたとき、その意思に反する治療が行われてはいけない。ACP作成に向けた『議論の輪』に若い年代も入るべき」という点で、検討会構成員の意見は一致していると言えます。松岡在宅医療推進室長は「人生の最終段階を迎える人はもちろん、それを支える人(いわば全国民に該当すると言えそうだ)も、ACPを知らなければいけないのではないか」とコメントしています。
この点、清水哲郎構成員(岩手保健医療大学学長)は「大学で講義をした際、『祖父が死亡したが、その前にこの講義を受けていれば違う対応ができた』との感想がいくつも出された。ACPは『自分が意思表示できなくなった時のために作成しておく』もので、より広く『支える人』向けのガイドラインなども整備してはどうか」と述べ、▼人生の最終段階を迎える人向けのACP▼支える人向けのガイドライン―の2種類を普及・啓発してはどうかと提案しています。
検討会では、今後、さらに議論を深め、年度内(2018年3月まで)に意見を取りまとめます。
【関連記事】
人生の最終段階の医療、国民にどう普及啓発するか2017年度内に意見まとめ—厚労省検討会
人生の最終段階における医療、患者の意思決定を基本に―厚労省
2018年度、医療・年金などの経費は6300億円増に抑え、29兆4972億円に—2018年度厚労省概算要求