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年齢問わず、全世代が「支え手」でも「受益者」でもある社会保障に―高齢社会対策大綱

2018.2.20.(火)

 高齢期になっても健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、個人間の健康格差をもたらす地域・社会的要因にも留意しつつ、▼地域包括ケアシステムの推進▼健康づくりの総合的推進▼持続可能な高齢者医療制度、介護保険制度の構築▼介護サービスの充実―などを進めていく—。

 安倍晋三内閣は2月16日に新たな「高齢社会対策大綱」を決定し、このような方針を打ち出しました。

高齢社会対策の指針、高齢者の現状など踏まえて新たに策定

 政府には、「推進すべき高齢社会対策の指針として、基本的かつ総合的な高齢社会対策の大綱を定める」ことが義務付けられています(高齢社会対策基本法第6条)。今般、▼高齢者自身の精神的・身体的状況の変化▼高齢者を取り巻く社会状況の変化▼AI(人工知能)やICT(情報通信技術)などの技術革新―などを踏まえ、およそ5年半ぶりに「高齢社会対策大綱」が定められました。

 新たな大綱では、まず高齢者自身の精神的・身体的状況の変化として、「体力的年齢が若くなっている」「就業・地域活動など、社会との関わりを持つ意欲が高くなっている」点を掲げ、「65歳以上を一律に高齢者と見ることは現実的でない」「『高齢者を支える』発想だけでなく、能力発揮を可能にする社会環境を整える」ことが必要と強調しています。

 このため、例えば▼年齢にかかわりなく希望に応じて働き続けることができるよう雇用・就業環境の整備を図る▼65歳より後に公的年金の受給を開始する繰下げ制度を周知するとともに、「70歳以降の受給開始を選択可能とする」など、制度改善に向けた検討を行う—ことを打ち出しています。

 元気な高齢者に、社会保障制度等の「支え手」になってほしいとの考えが見て取れます。

健康・福祉分野の施策、持続可能な高齢者医療制度の運営など7つの柱

高齢社会対策大綱では、「健康寿命の延伸」や「介護職員数の増加」などで具体的な数値目標を掲げている

高齢社会対策大綱では、「健康寿命の延伸」や「介護職員数の増加」などで具体的な数値目標を掲げている

 
 とはいえ、高齢になれば医療・介護等の必要性は、若い時期よりも高まります。そのため大綱では、「高齢期に健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、長寿を全うできるよう、個人間の健康格差をもたらす地域・社会的要因にも留意しつつ、生涯にわたる健康づくりを総合的に推進する」考えも明確にしています。

 具体的には、健康・福祉分野で進める基本的施策として、次の7本の柱が建てられました。

(1)健康づくりの総合的推進
(2)持続可能な介護保険制度の運営
(3)介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現)
(4)持続可能な高齢者医療制度の運営
(5)認知症高齢者支援施策の推進
(6)人生の最終段階における医療の在り方
(7)住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの推進

 まず(1)の「健康づくりの総合的推進」では、健康寿命を延伸(2013年の男性71.19歳・女性74.21歳から、2020年に「1歳以上延伸」、2025年に「2歳以上延伸」の数値目標)するために「特定健康診査・特定保健指導の着実な実施」「データヘルス計画に沿った予防健康づくり」「糖尿病を始めとする生活習慣病の重症化予防の先進事例の横展開」など、若年世代から高齢期を見据えた取り組みを行うことを明確にしている点に注目が集まります。

 厚生労働省は、レセプト情報や健診データなどを集積・分析して、医療・介護等施策に反映させるデータヘルス改革を推進しています。例えば「40代のころに、特定健診で●●と判定された人は、高齢期になると■■疾病に罹患しやすく、◆◆介護サービスを必要とする傾向が高い」といった知見が明確になれば、「40代のころに○○の健康指導を徹底し、生活習慣を改善することで、■■疾病のリスクなどを軽減できる」という効果的な施策に結びつけることができるかもしれません。

 また(2)の「介護保険制度」については、地域包括ケアシステムの構築により「持続可能な制度としての更なる充実」を図ることが打ち出されました。地域包括ケアシステムは、医療・介護ニーズが高くなっても、可能な限り住み慣れた地域での生活を続けられるような仕組みが求められており、▼住まい▼医療▼介護▼予防▼生活支援―を、地域の実情に応じて総合的・一体的に提供する仕組みです。あらゆる介護場面で介護保険制度を活用するとなれば、費用がかさみ、保険料などの高騰に跳ね返るため「制度の持続可能性」が失われてしまいます。今回の大綱からは、「介護保険サービス」から「市町村の行う総合事業」への移管を、今後も進めていく方針が見えてきます(要支援者への訪問・通所介護は、介護保険から総合事業へ移管されており、現在「軽度者への生活援助」を移管すべきか否かが議論されている)。

 (3)の「介護サービスの充実」は、要介護高齢者のQOLを高めることはもちろん、「家族介護のために仕事を辞めなければならない」という介護離職を減らすことにもつながります(安倍内閣は介護離職ゼロを打ち出している)。

 具体的な取り組み内容に目を移すと、▼必要な介護サービスの確保(介護職員の処遇改善等による人材確保、訪問・通所介護等の在宅サービスの充実、認知症高齢者グループホームや特別養護老人ホーム等の整備など)▼介護サービスの質の向上(事業者情報の公開、ICT推進による介護職員の負担軽減、特養ホームの個室ユニット化などによる高齢者の尊厳保持など)▼地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護の提供(医療・介護関係者の連携推進など)▼介護と仕事の両立支援(介護休業を取得しやすく職場復帰しやすい環境、介護をしながら働き続けやすい環境の整備など)―が打ち出されました。

 さらに、次のような数値目標も掲げられています。

▼介護基盤の整備拡大:
2020年代初頭までに50万人分(サービス付き高齢者向け住宅による約2万人分を含む)

▼介護職員数:
2015年度には183.1万人だが、2020年代初頭までに26.2%増の231万人を確保する

▼介護人材と競合他産業との賃金差:
2016年には介護職員(月額26.7万円)と対人サービス産業(同27.2万円)とで5000円の賃金差があるが、これを2020年代初頭までに解消する

▼介護施設・サービスを利用できないことを理由とする「介護離職者」:
2012年には10.1万人が離職せざるを得ない状況であったが、これを2020年代初頭までに解消する

 なお、介護人材の賃金については、来年(2019年)10月の消費税率引き上げ(8%→10%)に伴う税収増を活用して、公費1000億円規模の改善が予定されています(関連記事はこちら)。

 また(4)の「高齢者医療制度」については、持続可能な仕組みとするために、▼後期高齢者支援金に対する全面総報酬割の導入(段階的に進行中)▼70歳以上の高額療養費の上限額等の段階的な見直し▼75歳以上の後期高齢者の窓口負担(原則1割、現役並み所得者は3割)見直し―などを打ち出しています。

 もっとも、制度の見直しは、増加する高齢者医療費について「誰がどの程度負担するのか」を変更するにとどまり、少子化・高齢化が進行すれば、いずれ制度が破たんしてしまいます。さらに高齢者医療制度の破たんは、我が国の公的医療保険制度そのものの破たんを意味します。このため(1)の「健康寿命の延伸」などが、高齢者医療費の増加を抑えるために極めて重要となってくるのです(介護費も同様)。

 なお、健康寿命の延伸にも限界があり、将来的には「保険給付範囲の見直し(軽度医療は保険給付の対象外とする)」なども検討することが必要になってくるでしょう。

 さらに(5)の「認知症」に関しては、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(2015年1月策定、2017年7月改定)などを踏まえて、▼認知症が疑われる人の相談などを受け付ける「認知症初期集中支援チーム」の設置▼認知症の鑑別診断などを行う「認知症疾患医療センター」の整備▼認知症の人の介護者への支援―などを推進する方針を示しています。なお、認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域で認知症の人や家族に対してできる範囲での手助けをする【認知症サポーター】は、2016年度末で880万人が登録されていますが、大綱では「2020年度末に1200万人に増加させる」との目標値を示しています(関連記事はこちら)。

 (6)では、人生の最終段階で「自分の望まない医療」を受けることにならないよう、▼患者の相談に適切に対応できる人材の育成等による体制整備▼国民向けの情報提供・普及啓発の推進—を行う考えを明確にしています。厚労省は「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定(近く改訂)しており、国民一人ひとりが、家族や医療等関係者と「自分が人生の最終段階にどのような医療を受けたいか」を繰り返し話し合うことが今後、ますます重要になるでしょう(関連記事はこちら)。

介護者の負担軽減するロボット開発など進めて市場規模を20倍に

 なお、大綱では上記(1)などに関連し、次のような調査研究を推進する方針も示しています。

▼高齢期にかかりやすい認知症などの疾患や、高齢期の主要な死因となるがんなどの疾患について、病態・発症機序などの研究と、ゲノム科学などの先端科学技術を活用した新技術・新薬の研究開発を推進する

▼高齢者のQOL向上や介護者の負担軽減を実現する介護ロボットの開発などを促進する(ロボット介護機器の市場規模は、2015年には24.4億円であるが、2020年には20.5倍の約500億円に拡大する、との目標値を設定)

▼在宅でも操作しやすい医療機器や、身体機能の補完・回復などにつながるリハビリ機器などの研究開発・実用化を推進する

 例えば、「◇◇という遺伝子を持つ人が、△△という生活習慣を持つと、がんに罹患しやすい」などといった情報が事前に分かれば、現在よりも効果的に生活習慣改善に向けた指導を行うことができ(一般的に「喫煙は肺がんリスクが高い」と指導するよりも、具体的な指導を行うことで効果が期待できる)、(1)の健康寿命延伸や、(4)の高齢者医療制度の持続可能性確保につなげることが期待されます。
 
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