在宅療養の継続、「傷病」「要介護度」「同居家族の有無」が複雑に関与―日医総研
2018.2.16.(金)
在宅療養を継続できるか否かは、「傷病の種類」「要介護度」「同居家族の有無」などによって大きく異なっているが、家族との同居によって、さまざまな傷病において比較的要介護が高くなっても在宅療養の継続が可能になる―。
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は2月6日にワーキングペーパー「自宅療養の継続が困難になった事例の分析 第2回 診療所の在宅医療機能調査の結果から」を公表。そこからこのような状況が見えてきました(日医総研のサイトはこちら)。
目次
在宅療養が困難になった原因傷病や同居者の有無などを分析
いわゆる団塊の世代が2025年に全員75歳以上の後期高齢者になるため、今後、医療・介護ニーズが急速に高まっていくと予想されます。このため、医療・介護ニーズが高くなっても、可能な限り住み慣れた地域での生活を続けられるような仕組みが求められており、▼住まい▼医療▼介護▼予防▼生活支援―を、地域の実情に応じて総合的・一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の構築が急ピッチで進められています。
ところで、在宅療養を継続できるか否かは、サービス提供体制がどれだけ整備されているかだけではなく、(1)傷病の状況(2)要介護度(3)一人暮らし(独居)か、家族と同居しているか—など、複雑な要素が関係します。
日医総研では、地域包括ケアシステムの重要な要素となる「在宅医療」の在り方を考えるために、昨年(2017年)5-6月に「第2回 診療所の在宅医療機能調査」を実施。今般、調査結果の中から、在宅医療を提供する診療所の医師が経験した「自宅での長期療養が困難となった事例」(独居485件・同居571件)について、(1)傷病の状況(2)要介護度(3)独居か同居か―といった視点で分析を行っています。
独居患者は認知症や筋・骨格系疾患で在宅療養困難に
まず、(1)の「傷病の状況」を見ると、生活機能低下の原因となったものとして、次の11の傷病群が多いことが分かりました(複数傷病がある場合は両方をカウント)。
▼認知症(独居患者の32.0%、同居患者の28.4%が該当)
▽認知症▽アルツハイマー病▽レビー小体型認知症▽認知症の進行▽アミロイドアンギオパチーによる血管性認知症▽脳血管性認知症―など
▼脳・脳血管疾患(独居患者の15.5%、同居患者の24.0%が該当)
▽脳梗塞後遺症▽脳梗塞▽脳出血後遺症▽脳出血(右片麻痺)▽陳旧性脳梗塞▽くも膜下出血後遺症寝たきり▽アルコール性脳障害―など
▼筋・骨格系疾患(独居患者の16.9%、同居患者の18.0%が該当)
▽変形性膝関節症▽下肢廃用症候群▽大腿骨骨折▽骨粗鬆症▽自宅で転倒し肘関節骨折▽フレイル―など
▼がん(独居患者の15.9%、同居患者の13.7%が該当)
▽肺癌ターミナル▽腹部リンパ節転移▽腹膜転移▽乳がんの骨転移▽卵巣がんリンパ節骨盤内転移▽がん胃切除▽急性白血病―など
▼機能低下(独居患者の12.2%、同居患者の15.9%が該当)
▽下肢筋力低下により通院困難▽廃用症候群が進行▽サルコペニア(一次性)▽下肢筋力低下による外出歩行困難▽脳梗塞による歩行障害▽認知症で徐々にフレイル状態片麻痺▽嚥下機能障害▽癌の進行からの栄養失調・筋力低下▽転倒による腰椎圧迫骨折にてADL低下――など
▼呼吸器系疾患(独居患者の14.6%、同居患者の12.8%が該当)
▽呼吸障害▽呼吸困難▽肺炎▽COPD▽筋強直性ジストロフィーこれに伴う呼吸不全肺気腫▽HOT療法▽在宅人工呼吸療法中(NPPV)▽気管支喘息―など
▼心疾患(独居患者の11.1%、同居患者の9.6%が該当)
▽心不全▽心臓弁膜症▽慢性心不全▽大動脈弁狭窄にて時に心不全▽心房細動▽うっ血性心不全(高血圧症)
▼消化器系・腹部疾患(独居患者の11.8%、同居患者の8.2%が該当)
▽腹水▽直腸術後ストーマ造設▽S状結腸穿孔にて人工肛門造設▽腎障害▽C型肝硬変▽便秘症▽固形物摂取不能▽腎性貧血▽腸閉塞をおこし保存的に加療したがADLが著しく低下▽胆石▽多臓器不良―など
▼特定疾患(難病)(独居患者の5.2%、同居患者の8.2%が該当)
▽パーキンソン症候群▽認知症を伴うパーキンソン病▽筋萎縮性側索硬化症(またはALS)▽リウマチ▽ミトコンドリア病▽多発性硬化症▽多系統萎縮症▽進行性核上性麻痺(脳の難病)▽ハンチントン無踏病▽球脊髄性筋萎縮症▽慢性関節リウマチ▽網膜色素変性症▽ギラン・バレー症候群
▼糖尿病(独居患者の5.6%、同居患者の3.0%が該当)
▽糖尿病▽2型糖尿病▽糖尿病の合併症による緑内障(失明)
▼精神疾患(独居患者の2.1%、同居患者の1.9%が該当)
▽統合失調症▽うつ状態▽うつ病▽抑うつ▽うつ病による食思不振▽妄想▽アルコール依存症
このように、在宅療養を続けられなくなる傷病には同居家族の有無によって若干の違いがありますが、「認知症」が最大要因であることが分かります。
傷病や同居者の有無によって要介護度にばらつき
次に(2)の要介護度を、(3)の「独居か、同居か」とクロスして分析すると、「在宅療養の継続が可能となるのは、独居では要介護3までが多いが、同居では要介護4・5の重度者でも多い」ことが分かりました。いわゆる「在宅限界」が同居で高いことを再確認できます。
ここに(1)の「傷病」を加えて分析すると、次のような違いがあります。
▼「認知症」「脳・脳血管疾患」「機能低下」については、独居では要介護3が3割程度と最も多いが、同居では要介護5が最も多い(3-5割程度)
▼「消化器系・腹部疾患」については、独居では要介護3がやや多い(2割程度)が、同居では要介護5が3割弱を占める
▼「呼吸器系疾患」については、独居では要介護3がやや多く(25%程度)、同居では要介護5が多いものの2割程度にとどまる
▼「特定疾患(難病)」では、独居・同居の双方で要介護度が高い在宅療養患者が多く、要介護5の割合は、独居で36.0%、同居で51.1%に達する
▼「がん」については、独居では要介護2が最も多く、同居では要介護度による差が小さい
▼「糖尿病」については、独居では、要介護4までなだらかに分布し、要介護5はゼロとなる。同居では要介護3と5が3割程度と多い
こうしたデータも活用して、地域の在宅高齢者の「傷病」「要介護度」「同居家族の有無」を勘案することで、適切な在宅医療・介護のサービス量を把握することが可能になるでしょう。
在宅療養困難のキーワードに「食」や「転倒」
さらに「在宅療養が困難になった理由」に含まれたキーワードについて、「疾患」「状態」「日常生活」「介護者」などに分類してみると、次のようなキーワードが浮上してきました。
▼疾患:「認知症」「肺炎」
▼状態:「入院」「転倒」
▼日常生活:「食」
▼介護者:「介護が必要となった」「家族による介護が困難」「介護をしていた家族が亡くなった」
「認知症」、「転倒」、「食」への不安、「家族介護者の不在」などといった要素が、在宅限界を低くする大きな要因であることが分かります。逆に言えば、こうした要素を地域包括ケアシステムの中でカバーできれば、在宅限界を高められることにつながるでしょう。例えば「食」については、安価な配食サービスを整備すること、「転倒」については、脚力の強化を介護予防の中で展開していくことなどが思いつきます。
独居患者は訪問介護、同居患者は短期入所などを多く利用
患者が利用していた介護サービスは、独居・同居にかかわらず「訪問看護」が多く挙げられています(独居患者の57.5%、同居患者の61.5%)。
また、独居患者では「訪問介護」を利用するケースが多く(独居患者48.5%、同居患者36.1%)、訪問看護と訪問介護が、独居の高齢者らの在宅療養を支える重要なサービスであることがわかります。身体介護はもちろん、独居高齢者の生活を支える「生活援助サービス」が重要な役割を果たしている可能性もあります。
一方、同居患者では「短期入所」の利用が多く(同居患者32.7%、独居患者16.9%)、日医総研は「同居する介護者のレスパイトが、患者の在宅療養を継続させる上で重要である」と指摘しています。
ただし、日医総研では「在宅の限界点とは何か、実は明らかにはなっていない」とも指摘。地域包括ケアシステムの構築に向けて、さらに詳細な調査・分析が期待されます。
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