薬事承認段階から経済性を考慮し、承認から薬価収載までを一体的に行うべき―日医総研
2016.8.30.(火)
オプジーボなど超高額薬剤の薬価のあり方について、中央社会保険医療協議会で議論が進められています。そうした中、日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)はこのほど、「薬価算定方式の現状と課題」というワーキングペーパーを公表しました。
日医総研では、「薬事承認の段階から経済性を確認しつつ、薬事承認から保険収載(薬価算定)までを一体的に行うべき」と提言しています(日医総研のサイトはこちら)。
現行の薬価制度には課題が多い、抜本的な見直しが必要
超高額薬剤の薬価のあり方、とりわけ「オプジーボについて期中の薬価引き下げを行うのか」が注目されていますが、中医協では診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)が「超高額薬剤だけではなく、薬価制度全般を抜本的に見直す必要がある」と強く主張しています。
では、現在の薬価制度にはどのような問題・課題があるのでしょうか。日医総研は、この点について次のように列挙しています。
▽新薬について、原則として「薬事承認から60日以内(遅くとも90日以内)に保険収載する」ことになっている(事実上、承認されれば自動的に保険収載される)
▽薬事承認時点では経済性について議論されず、保険収載希望時に初めてメーカーからコストデータなどが提示される
▽現在の薬価制度のベースとなっている1982年の「新医薬品の薬価算定に関する懇談会報告」では、新薬の薬価算定は類似薬効比較方式(もっとも類似している医薬品と基本的に同薬価とする)を基本とするとしているが、過去5年間を見ると、新薬の4分の1は原価計算方式(類似薬がない場合に、製造原価などを積み上げて薬価を設定する)となっている
▽新薬の収載は、薬価改定年度(改定直後)に多く、次の改定まで2年近く薬価を維持することができる
▽薬価を設定する薬価算定組織は非公開で、どのように有用性を評価して加算付与の是非を決めているのかなどが不明である
▽内外価格差を是正するために「外国平均価格調整」が導入されているが、外国価格にはバラつきが大きく、調整によって薬価が2倍に押し上げられるケースもある(関連記事はこちら)
▽原価計算方式で考慮される「営業利益率」は、上場製薬メーカー30社程度の平均が上限となるが、各社で利益率には大きなバラつきがある
▽新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出等加算:ドラッグ・ラグを解消するため、一定の新薬について、薬価を下支えする仕組み)について、新薬の多くが対象となっており、また「費用の前払い」になってしまっている
日医総研はこうした点を改善するために、薬価制度を次のように見直してはどうかと提案しています。
(1)薬事承認の段階から経済性を確認しつつ、薬事承認から薬価算定までを一体的に行うべき
(2)新薬創出のイノベーションは、診療報酬(新薬創出等加算など)ではなく、一般財源(新薬創出支援補助金など)で対応すべき
(3)新薬の薬価を多少低く抑え、後に精算する仕組みなどを検討すべき(巨額再算定などの突然の大幅なルール変更はメーカーの予見可能性を阻害するため)
このうち(1)では、薬価算定組織に対して「医療保険財政への影響」「保険集最後の適用拡大」などを考慮することも求めています。ただし、薬価算定組織は薬価基準制度というルールを外れて薬価を算定することはできません。そのため、例えば「医療保険財政への影響が大きすぎるので、薬価を低く抑えるという判断が可能」な仕組みの変更などが前もって必要になります。
また日医総研は、このほかにも「薬剤費全体を把握する仕組み」の早急な構築が必要とも提案しています。例えば社会医療診療行為別統計では、各診療行為を把握することができますが、薬剤が包括される部分(DPCなど)について、その内容(薬剤費がどの程度なのかなど)を詳細に把握できません。こうした点を踏まえた提案と言えます。
中医協では2018年度に向けて薬価基準の見直しも検討していくことになります。その際、こうした提言について、他の診療側委員や、支払側委員、公益代表、さらにメーカーを代表する専門委員がどのように受け止めるのか注目されます。
なお8月24日の中医協・薬価専門部会では、厚労省から超高額薬剤の保険収載するに当たって、(a)薬事承認(有効性や安全性の審査)(b)最適使用推進ガイドライン(c)経済性の観点―の3つを考慮していく考えが示されました。日医総研の提言は、これを一般の医療用医薬品にも拡大する方向を目指すものと言えそうです。
超高額薬剤、最適使用GLから外れた患者はどうなるのか
ところで冒頭に述べた「超高額薬剤の薬価のあり方」については、当面、(a)事実上、オプジーボを対象として緊急の薬価見直しを行うか(b)最適使用推進ガイドラインを保険診療上の留意事項通知に記載する―という2点について急ぎ検討することになっています。
(b)の最適使用推進ガイドラインとは、新規の作用機序を持つ医薬品(類薬を含む)を対象として▽その医薬品の使用が最適と考えられる患者の選択基準▽その医薬品を適切に使用できる医師・医療機関などの要件―を規定するものです。厚労省は、2016年度は「オプジーボ」と「レパーサ」(高コレステロール血症用薬)とその類薬を対象とする考えです。
この点について日医総研は、「ガイドラインによって対象患者が限定された場合、対象外となった患者がその医薬品を使用するに当たっては、『保険外併用療養』(当該医薬品の費用のみ自費、他の診療部分は医療保険給付を受けられる)になるのか、『自由診療』(当該医薬品はもちろん、他の診療部分も自費)になるのか、を慎重に議論する必要がある」とも指摘しています。
仮に後者の自由診療となった場合には、特に経済的弱者にとってオプジーボなどへのアクセスが阻害されることになります。一方、前者の「保険外併用療養」とする場合には、どのような仕組みで認めるのか、制度設計の議論も必要となるでしょう。
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