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「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」を分離して進めてはどうか―入院医療分科会(1)

2019.9.26.(木)

 旧7対1に相当する【急性期一般1】から、【急性期一般2・3】への移行が進んでいない。この背景には「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」とを同時に進めていることがあるのではないか―。

 また経営効率を考えれば【急性期一般2・3】移行が望ましいにもかかわらず進んでいない背景には、「10対1看護配置では医療の質を維持できない」と病院側が考えているためではないか―。

 9月26日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、入院医療分科会)で、こういった議論が行われました(関連記事はこちら)。

9月26日に開催された、「令和元年度 第8回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」

 

「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」という2つの変化に躊躇

入院医療分科会では、2020年度の診療報酬改定に向けて「入院医療に関する技術的課題についての調査・分析」を行っています。2018年度の前回改定の効果・影響について、2018年度(効果等が早期に現れる項目の調査)・2019年度(効果等が現れるまでに時間のかかる項目の調査)の2度に分けて特別調査を実施し、そのデータに基づいた議論を行うものです。

9月26日の入院医療分科会では、2019年度調査の速報値が示され、▼一般病棟入院基本料等▼特定集中治療室管理料等▼療養病棟入院基本料▼総合入院体制加算▼抗菌薬適正使用加算▼横断的事項―の6項目を議題としました。本稿では、「一般病棟入院基本料等」に焦点を合わせ、他の項目については別稿でお伝えします。

一般病棟入院基本料については、2018年度の前回改定で大きな報酬体系の見直しが行われました。従前の7対1と10対1を再編統合し、看護配置等をベースとする「基本部分」と、重症患者受け入れ状況等をベースとする「実績評価部分」とを組み合わせた7種類の【急性期一般病棟入院基本料】(急性期一般病棟入院料1-7)としたのです。


 
従前、7対1と10対1との間に大きな点数上の開きがあり、「高齢化等で地域の患者構成が変化してきており、7対1から移行を検討しているが、10対1へ移行したのでは経営的に厳しくなってしまう」との医療現場の悩みを受け、7対1と10対1との間に▼急性期一般入院料2▼急性期一般入院料3-を設け、そこへの移行を期待したものです。

ただし、入院医療分科会の特別調査結果を眺めると、「7対1から急性期一般2・3へ移行」した病院はごく僅かで、2018年度調査では▼急性期一般2への移行は2.6%▼急性期一般3への移行は0.5%―、今回の2019年度調査では▼急性期一般2への移行は3.2%▼急性期一般3への移行は0.2%―にとどまっています。

 
移行が進まない背景として、特別調査からは▼7対1看護職員配置が必要な入院患者が多い(医療需要がある)▼施設基準を満たしており、特に転換の必要性を認めない▼他の病棟等と比較して経営が安定する―ことなどがあがっていますが、9月26日の入院医療分科会では別の角度からの分析・議論が行われました。

神野正博委員(全日本病院協会副会長)は、「旧7対1に相当する【急性期一般1】の削減(【急性期一般2・3】への移行)と「看護必要度IIの導入によるデータの精緻化」とを一度に実施しようとしていることに問題があるのではないか、との考えを示しました。

急性期一般病棟入院基本料における「重症患者の受け入れ状況」は、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)に基づいて評価します(看護必要度を満たす患者割合の基準値を定め、基準値を上回ることを施設基準の1つとしている)。

看護必要度については、2018年度改定でさまざまな見直しが行われましたが、その1つに▼従前からの評価票を用いた手法を看護必要度Iとする▼DPCデータのEF統合ファイルを用いた手法を看護必要度IIとする―というものがあります。両者は完全に一致しないため、【急性期一般1】の重症患者割合の基準値は、看護必要度Iでは30%以上、看護必要度IIでは25%に設定されています。

この点、【急性期一般1】では、病院側が看護必要度IとIIのいずれを採用するかを決定できますが、【急性期一般2】【急性期一般3】では、必ず「看護必要度II」で評価を行うことが求められるのです。


 
神野委員は、「病院も社会全般と同様に変化を嫌う。7対1から【急性期一般2・3】への移行には、『入院料の変化』(当然、診療報酬点数等も変化する)と『看護必要度の変化』という2つの変化を伴うため、躊躇している病院が多いのではないか」と見通し、「例えば、看護必要度データの精緻化には一旦目をつぶり、【急性期一般2・3】でも看護必要度IとIIの選択を認める。あるいは、【急性期一般1】でも看護必要度IIの選択を必須とする」などの見直しを提案しています。

急性期2・3のほうが経営効率が良いことは明らかだが、それを選択しない理由がある

 
一方、牧野憲一委員(日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)は、「看護配置(【急性期一般1】は7対1、【急性期一般2・3】は10対1)と診療報酬点数(【急性期一般1】は1591点、【急性期一般2】は1561点、【急性期一般3】は1491点、いずれも1日につき)とを勘案すれば、経営的には【急性期一般2・3】のほうが効率的である(利益率が高い)ことは一目瞭然である。にもかかわらず【急性期一般2・3】への移行が進まないのは、『患者の状態や医療内容に鑑みて、7対1相当の看護配置が必要である』と病院が考えている証左であろう(看護配置を7対1のままに【急性期一般2・3】へ移行すれば、当然、コストは変わらず収益のみが減るため、【急性期一般1】を維持せざるを得ない)」と指摘。病棟の実情(患者の状態、医療提供体制)に合った看護配置と点数設定を検討する必要があるとの考えを示しています。

  
また「看護必要度II」の選択に関しては、「重症患者割合の把握に時間と手間がかかる」ことがハードルになっているのではないか、とも牧野委員は指摘しました。看護必要度Iであれば、評価票を集計し、リアルタイムで「今日の●●病棟の重症患者割合は●%である」と把握できます。一方、看護必要度IIでは、同様の集計には若干の手間がかかる(EFファイルへの入力等を毎日行わない病院であれば、極論すればDPCデータ提出をする3か月後まで自院の重症患者割合を把握できないことになる)ことから、「常に30%以上(看護必要度I)・25%以上(看護必要度II)をクリアできているか確認するために、看護必要度Iと看護必要度IIの双方を選択している病院がある」と牧野委員は見通します。

ただし、看護必要度IIを選択する病院は増えてきており、【急性期一般1】では2018年度調査では19.3%でしたが、2019年度調査では29.8%に増加(10.5ポイント増)、また【特定機能病院7対1】では2018年度調査では26.5%でしたが、2019年度調査では46.2%に増加(19.7ポイント増)しています。看護必要度IIでは「病棟看護師の負担が大きく軽減される」ため、働き方改革にも大きく資すると考えられます。データ評価体制などを進めたうえで、看護必要度IIの採用を多くの病院で検討することが期待されます。

 
このほか、「急性期一般1と急性期一般2・3との行き来について、より自由度を増してはどうか」(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)、「中小規模病院では、看護必要度II選択の準備が進んでいないため、看護必要度IIが義務となる【急性期一般2・3】への移行も進んでいないという面もある。もう少し時間を置き、中小病院の準備が進めば、徐々に状況はかわっていくと考える」(石川広巳委員:日本医師会常任理事)という声も出ています。

具体的な制度設計は中央社会保険医療協議会・総会で行われますが、そこでの議論に向けて重要な視点が浮上したと考えられそうです。

 
 
 

 

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