総合入院体制加算、地域医療構想の実現や病床機能分化を阻害していないか?―入院医療分科会(3)
2019.9.30.(月)
総合的かつ専門的な急性期医療提供を行う一般病院を経済的に評価する【総合入院体制加算】だが、地域医療構想の実現や病院・病床の機能分化を阻害している側面はないか―。
9月26日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、入院医療分科会)では、こういった議論も行われました(関連記事はこちらとこちら)。
【総合入院体制加算】の趣旨・目的を改めて検討することも必要では
9月26日の入院医療分科会では、2019年度調査の速報値が示され、▼一般病棟入院基本料等▼特定集中治療室管理料等▼療養病棟入院基本料▼総合入院体制加算▼抗菌薬適正使用加算▼横断的事項―の6項目を議題としました。本稿では、「総合入院体制加算」などを見てみましょう。
【総合入院体制加算】は、総合的かつ専門的な急性期医療を提供する一般病院を評価するもので、従前は▼人工心肺を用いた手術▼悪性腫瘍手術▼腹腔鏡下手術▼放射線治療(体外照射法)▼化学療法▼分娩件数―のそれぞれに実績要件(年間●件以上の実施)を設け、「満たすことが望ましい」とされていました。
しかし「緩すぎる」との指摘を受け2014年度で「実績要件をすべて満たす【総合入院体制加算1】の新設」が行われ、次いで2016年度改定では▼すべてを満たす【総合入院体制加算1】▼4項目以上を満たす【総合入院体制加算2】▼2項目以上を満たす【総合入院体制加算3】―へと細分化(および下位区分では厳格化)が行われました。
2018年時点で、▼すべてを満たす【総合入院体制加算1】は41病院▼4項目以上を満たす【総合入院体制加算2】は137病院▼2項目以上を満たす【総合入院体制加算3】は174病院―が届け出を行っています。
ところで、すべての【総合入院体制加算】届け出病院では「精神科につき24時間対応できる体制」を敷くことが求められ、さらに▼【総合入院体制加算1】では精神患者の入院受入体制を敷く(精神病床の保有や【精神病棟入院基本料】等の届け出)▼【総合入院体制加算2】では「精神科リエゾンチーム加算または認知症ケア加算1の届け出」および「精神疾患診療体制加算2などの年間算定件数20件以上」を満たす▼【総合入院体制加算3】では「精神科リエゾンチーム加算または認知症ケア加算1の届け出」あるいは「精神疾患診療体制加算2などの年間算定件数20件以上」を満たす―ことが要件となっています。精神疾患患者の合併症などに対応する体制整備を求めるものです。
この点、厚労省の特別調査では「精神病床を有しており、精神病棟入院基本料等を届出て、現に精神疾患患者の入院を受け入れる」という要件が、非常に大きなハードルになっていることが分かりました。
こうした調査結果を受けて入院医療分科会では、「機能分化や地域医療構想の実現」と「総合入院体制加算の在り方」を含めた、非常に大きなテーマに関する議論が行われました。
例えば山本修一分科会長代理(千葉大学医学部附属病院長)は、「身体合併症を持つ精神疾患患者の増加や、高齢の精神・身体の複合的な疾患を持つ患者の増加を踏まえ、一般病棟と精神病床の双方を整備することが重要である。一方、精神病床の整備は経営的にも病院に大きな負荷となるため、経済的な評価(診療報酬)もなされている」と述べ、総合入院体制加算の要件には、妥当性・正当性があるとの考えを示しました。
一方で、神野正博委員(全日本病院協会副会長)は「地域医療構想の実現を目指し、地域で医療機能の分化が進められる中で、『総合的な体制』を評価する【総合入院体制加算】の要件は、時代に逆行しているような気がしてならない」と指摘。
尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)や牧野憲一委員(日本病院会常任理事)、石川広巳委員(日本医師会常任理事)も、「機能分化・地域医療構想の推進」と【総合入院体制加算】の要件との関係については、「詳しく分析・検証していく必要がある」との考えを示しており、今後、入院医療分科会や中央社会保険医療協議会・総会でどういった議論が行われるのか注目する必要があります。
【総合入院体制加算】の趣旨・目的に遡った議論が行われ、仮に「【総合入院体制加算】が地域医療構想を阻害している」という結論が導かれれば、大きな組み換えが行われる可能性も否定はできません。
療養病棟の【在宅復帰機能強化加算】をどう考えるか
また(2)の療養病棟については、「経過措置型の療養病棟において、現状維持と考えるところが増加している」ことが分かりました。
しかし、この点について池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「意識の高い経過措置型は、すでに療養病棟の1・2に移行を進めており、移行に躊躇している経過措置型が前面に出てきている見かけ上の数字である」と見通しています。
さらに池端委員は「2018年度の診療報酬改定では、急性期一般病棟1(旧7対1)の『在宅復帰・病床機能連携率』の計算対象について、【在宅復帰機能強化加算】を取得していない療養病棟も含まれることとなった。これでは、機能強化に努めてきた療養病棟が報われない。検討しなおすべき」旨を提案。
これに対し、牧野委員は「急性期病棟側からすれば、転院先の確保が容易になり、在院日数の短縮や機能分化に資する改定内容と言える」と反論。
入院医療分科会で結論を出すテーマではなく、中医協・総会でどういう方向に議論が進むのか、この点も注目されます。
各種の入院基本料等加算、取得に向けたハードルはどこにあるのかを分析
このほか2019年度特別調査結果からは、次のような状況が浮上しています。今後、入院医療分科会において急ピッチで技術的課題の整理・分析が進められます。各種の入院基本料等加算について、ハードルとなっている要件が浮上していますが、単純に「ハードルを下げるための要件見直し」を検討するわけではなく、「ハードルが妥当か否か」「ハードルが高すぎる場合には、どのようにバーを下げるか」という緻密な議論が行われます。
▽一般病棟を届け出る医療機関の約5割が【抗菌薬適正使用支援加算】(抗菌薬適正使用支援チームを組織し、抗菌薬の適正使用を推進する医療機関を評価)を届け出ており、専従職員の8割は看護師である
▽抗菌薬適正使用支援チームの5割は、周辺地域の医療機関からの相談に応じた実績がない
▽【認知症ケア加算1】のハードルとして「認知症ケアチームの要件である精神科または神経内科経験5年以上の専任の常勤医師を確保できないため」をあげる声が多い
▽【退院前訪問指導料】は1-2割程度の施設で算定されているが、【退院後訪問指導料】の算定は著しく少ない
▽【総合評価加算】のハードルとして、「総合的な機能評価に係る適切な研修を修了した医師または歯科医師がいない」をあげる声が多い
▽【排尿自立指導料】のハードルとして、一般病棟では「算定対象患者がいない」を、療養病棟では「経験を有する医師の確保が困難」をあげる声が多い
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