今後の地域包括ケア病棟、multimorbidity患者を病棟で受け入れ、かつ在宅医療提供の拠点となることが必要―地ケア病棟協・仲井会長
2022.9.21.(水)
2022年度の診療報酬改定内容などを踏まえれば、今後、地域包括ケア病棟には、総合診療や老年医学のマインドを持つ医師と共に▼急性期後や在宅療養中のmultimorbidity患者を病棟で受け入れ、在宅復帰を目指す機能▼在宅療養するmultimorbidity患者への在宅医療の拠点的機能—を併せ持つことが求められる—。
地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長は、9月20日にオンライン記者会見でこうした考えを強調しました。
あわせて、地域包括ケア病棟の新型コロナウイルス感染症対応の状況を踏まえて、診療報酬上の特例を継続・充実に関する要望を厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長に提出したことも明らかにしています。
療養病棟の地域包括ケア病棟等、65%が「救急告示×などにより減算」の対象になりかねず
Gem Medでも報じているとおり、2022年度診療報酬改定では地域包括ケア病棟入院料・地域包括ケア入院医療管理料(以下、地域包括ケア病棟等)について、大きな見直しが行われました。(1)急性期後患者の受け入れ機能への偏りを是正(2)在宅患者受け入れ機能の推進(3)在宅復帰機能の推進―の3つの柱が立てられ、当初より地域包括ケア病棟等に求められる3機能(急性期後患者(post acute患者)の受け入れ、自宅等で急性増悪した患者(sub acute患者)の受け入れ、在宅復帰支援)をバランスよく果たすことを求めるものと言えます。とりわけ「自宅等で急性増悪した患者(sub acute患者)の受け入れ」機能の強化を目指している点が注目されます。
(1)急性期後患者の受け入れ機能への偏りを是正
▽地域包括ケア2・4における「自院の一般病棟から転棟した患者割合」が高い場合の減算について、▼対象病棟の拡大(許可病床200床以上病院の地域保活ケア2・4を対象にする)▼クリアできない場合の減算幅「マイナス10%」を「マイナス15%」に厳格化―する
(2)在宅患者受け入れ機能の推進
(a)在宅患者受け入れ実績要件の厳格化
▼地域包括ケア1・3の基準を厳格化
▼地域包括ケア2・4でも基準を設け、クリアできない場合は入院料を10%減算する
(b)在宅患者受け入れを促進する工夫を行う
▼「一般病床の地域包括ケア病棟等」について
(i)「2次救急医療機関」「救急告示病院」のいずれかであること、また一定規模未満の場合には「救急外来の保有」「24時間救急医療提供」のいずれかを要件化する
(ii)急性期病棟からの患者受け入れを評価する【急性期患者支援病床初期加算】を減点などする(例えば、自院の一般病棟からの転棟患者では150点から50点に減算するなど)
(iii)増悪した在宅患者の受け入れを評価する【在宅患者支援病床初期加算】を大幅増点(例えば、老健施設からの入棟については300点から500点に増点するなど)
▼「療養病床の地域包括ケア病棟等」では入院料を5%減算するが、▼自宅等からの入院患者受け入れ割合が一定以上▼自宅からの緊急入院患者の受け入れが一定数以上▼救急医療体制を整備―する場合には減算を行わない
(3)在宅復帰機能の推進
(i)在宅復帰率要件の厳格化
▼地域包括ケア1・2の在宅復帰率要件を、現在の「70%以上」から「72.5%以上」に厳格化
▼地域包括ケア3・4に在宅復帰率要件を新設(70%以上)し、クリアできないで場合には入院料を10%減算する
(ii)入退院支援加算1取得を100床以上病院の地域包括ケア1・2において義務化し、クリアできない場合には入院料を10%減算する
地域包括ケア病棟協会では、こうした改定の影響などを調査(本年(2022年)6-7月にアンケート実施、会員を含め地域包括ケア病棟等を有する470病院が回答)。そこから例えば次のような状況が浮かんできています(協会のサイトはこちら)。
【減算規定等について】
▽「一般病床の地域包括ケア病棟等」では、「2次救急医療機関」「救急告示病院」のいずれかであること、また一定規模未満の場合には「救急外来の保有」「24時間救急医療提供」のいずれかを要件化する点について、200床以上病院ではすべてクリアできそうだが、199床病院では85%程度しかクリアできず、とりわけ「ポストアキュート連携型」「地域密着型」ではクリアが厳しい
▽「療養病床の地域包括ケア病棟等」のうち、▼自宅等からの入院患者受け入れ割合が一定以上▼自宅からの緊急入院患者の受け入れが一定数以上▼救急医療体制を整備―のいずれかを満たせば5%減算が行われないが、これをクリアできるのが36.4%にとどまる(逆に言えば63.6%は減算になりかねない)
▽200床以上病院における地域包括ケア2・4では、「自院の一般病棟から転棟した患者割合」が60%以上の場合に15%の減算が行われるが、減算回避可能なところは81.9%にとどまる(逆に言えば18.1%では15%減算になりかねない)
【今後の方向性】
▽来年(2023年)3月までに「在宅復帰機能」の強化を目指している病院が2割弱ある
▽地域包括ケア病棟等を、▼急性期ケアミクス型▼ポストアキュート連携型▼地域密着型—に区分(定義は下図参照)すると、ポストアキュート連携型が減少し、地域密着型が増加していく
「減算」ルールが一定程度で発動すると見込まれ、仲井会長は「地域包括ケア病棟協会では、優れた取り組みを行っている病院の好事例を紹介しており、それらを参考に対策を練ってほしい」とコメントしています。
また、今後の方向性については「sub acute患者」、つまり在宅療養患者が増悪した場合の受け入れ機能が極めて重要になります。上述のように地域包括ケア病棟等において「sub acute患者の受け入れ」促進方向が示されるとともに、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度から心電図モニター管理が削除されるなどしたことを受け、急性期一般1―4でsub acute患者(とりわけ内科系虚弱のmultimorbidity患者)の受け入れが難しくなってくると予想されるためです。
multimorbidity患者とは、複数の慢性疾患(たとえばCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、糖尿病、高血圧症、悪性疾患、脳血管障害など)が併存し、中心となる疾患を特定できない状態にある患者をさします。高齢化の進行とともにmultimorbidity患者の増加が見込まれ、急性増悪した場合に「急性期一般1―4でなく、地域包括ケア病棟等でダイレクトに受け入れる」ことが重要になってくると考えられるのです。地域包括ケア病棟等へのダイレクト入院により「急性期→地域包括ケア病棟等への転棟・転院」に伴うコスト(入院時情報の再収集、申し送りや担送など)・リスク(患者-医療者関係の再構築、診療や看護の継続性の低下、療養環境の変化など)を低減できるメリットもあり、「地域包括ケア病棟等における医療の質向上」にもつながります。
仲井会長は、今後、地域包括ケア病棟等には、総合診療や老年医学のマインドを持つ医師と共に▼急性期後や在宅療養中のmultimorbidity患者を病棟で受け入れ、在宅復帰を目指す機能▼在宅療養するmultimorbidity患者への在宅医療の拠点的機能—を併せ持つことが求められると強く訴えています。
地域包括ケア病棟等もコロナ対応に協力、診療報酬臨時特例などの継続を要望
また、地域包括ケア病棟等におけるコロナ感染症対応を見ると、85%程度で「陽性患者」「疑い患者」「回復患者」のいずれかを受け入れているなど積極的な姿勢が伺えます。
この点を踏まえて仲井会長は、「地域包括ケア病棟の施設基準について、コロナ感染症が引き続き医療提供体制に影響を与えている間は、診療報酬上の臨時的な取り扱いを継続してほしい」と厚労省の眞鍋医療課長に要望しました。例えば、コロナ患者受け入れ等によって看護必要度や在宅復帰率などの基準値をクリアできなくなったとしても、「直ちに施設基準の変更届け出をしなくともよい」などの特例継続を求めるものです(協会のサイトはこちら)。
また、上述のような厳しい改定内容をクリアした場合であっても、コロナ感染症の影響により「再び施設基準を満たせなくなる」ような地域包括ケア病棟等も出てくることが予想されます。例えば「急性期病棟でコロナ患者を受け入れる」→「コロナ対応をベッドを受け入れるために、回復した患者を自院の地域包括ケア病棟等に転棟させる」→「地域包括ケア病棟等において『自院からの急性期後患者割合』が上昇してしまい、減算対象になってしまうケースが多数生じることも考えられます。
こうした点を考慮し仲井会長は、「一度、地域包括ケア病棟等の新基準をクリアした場合(経過措置終了後、本年(2022年)10月1日以降に新施設基準の届け出を行った場合)には、その後にコロナ感染症の影響で新基準を下回る場合でも、診療報酬上の臨時特例を活用し、地域包括ケア病棟等の施設基準を維持できるような工夫を行ってほしい」との要望も行っています。
例えば、2020年8月31日付の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その26)」では、「診療実績の計算から、コロナ患者受け入れ期間を除外し、過去の実績を計算に含めて良い」旨の特例が設けられています(関連記事はこちら)。こうした特例の活用などを明確化することを仲井会長は求めています。
今後の厚労省の対応に注目が集まります。
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