post acute機能に偏る地域包括ケア病棟等の評価をどう考えるか、DPCとNDB等との連結解析を推進―中医協総会(1)
2021.12.10.(金)
「自院の急性期病棟からの転棟患者」(いわばpost acute患者)の受け入れに極端に偏っている地域包括ケア病棟等では、入棟患者の状態が比較的安定しており、医療資源投入量(つまりコスト)も少ない。こうした点を踏まえて「post acute患者受け入れに偏る地域包括ケア病棟等」の入院料を引き下げるべきか。それとも「入棟患者構成の偏りは病院・地域特性に大きく左右され、また『自宅等からの入院棟患者』(いわばsub acute患者)受け入れ状況に着目した点数差が既に設けている」点を踏まえて、「post acute患者受け入れに偏る地域包括ケア病棟等」の入院料を引き下げは避けるべきか―。
DPCデータとNDBデータ・介護DBデータとの連結分析を進めるためには、「このレセプトとこのデータとが同一人物のものである」との紐づけを高精度で行う必要がある(ただし誰のものかは分からない)。このためDPCにおいても「個人単位の被保険者番号」データ収集を始めることとしてはどうか―。
12月10日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論が行われました。
なお、同日には2022年度の診療報酬改定「率」設定に向けた中医協意見が取りまとめられています。支払側から「プラス改定にする状況にない」との意見が、診療側から「プラス改定とせよ」との意見が出されていることを踏まえ、後藤茂之厚生労大臣に対して「中医協議論を踏まえた対応を行ってほしい」との考えを伝えています。後藤厚労相は、この意見も踏まえて年末に行われる鈴木俊一財務大臣との改定率決定折衝に臨むことになります。
目次
「post acute患者受け入れに偏る」地域包括ケア病棟等の入院料を引き下げるべきか
2022年度の次期診療報酬改定に向けた論議がますます熱を帯びてきています。12月10日の中医協総会では▼歯科医療▼入院医療▼個別事項(技術的事項)▼選定療養費の見直し―などを議題としました。本稿では「入院医療」に焦点を合わせ、他の事項は別稿で報じることとします。
今回の「入院医療」論議では、(1)地域包括ケア病棟入院料・地域包括ケア入院医療管理料(以下、地域包括ケア病棟等)(2)医療資源の少ない地域の診療報酬特例(3)データ の利活用—の3点を議題としました。
まず(1)の地域包括ケア病棟入院料等に関しては、これまでに次のような論点が浮上しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
(a)「急性期後(post acute)受け入れ機能」「在宅患者等が急変した場合(sub acute)受け入れ機能」「在宅復帰機能」の3機能のうち一部しか果たさない(例えば大病院に設置される地域包括ケア病棟等では自院の急性期病棟からの患者しか受け入れないなど)病棟の評価をどう考えていくか(こうした病院では「経営効率が良い」といったデータも確認されている)
(b)「一般病床の地域包括ケア病棟等」と「療養病床の地域包括ケア病棟」との差(例えば救急搬送患者受け入れは、前者を持つ病院の方が圧倒的に多いなど)をどう考えていくか
(c)在宅患者対応に力を入れる地域包括ケア病棟1・3の実績要件を見ると「クリアしやすい項目」と「クリアしにくい項目」とがある(訪問診療提供は多くの病棟等がクリアできているが、自施設からに訪問看護提供はクリアできている病棟等は少数派である)ようだが、基準値等をどう考えるか
(d)「入退院支援部門の設置」が義務化され、包括評価の中でも【入退院支援加算1】については出来高算定が認められているが、【入退院支援加算1】の届け出割合は4割にとどまっている。届け出のハードルとしては「専従の看護師・社会福祉士の確保が困難」などがあがっているが、こうした点をどう考えるか
このうち(a)(b)の論点については、「機能や患者・診療の実態を踏まえた評価とすべき」(つまりpost acute受け入れ機能に偏る地域包括ケア病棟等の点数を下げよ)と主張する支払側委員と、「地域包括ケア病棟等の患者構成等は地域や病院の特性によって異なる。評価の引き下げは不要である」と主張する支払側委員とで、考え方に大きな乖離があります。
例えば支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)や安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)、眞田享委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)、佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は「post acute受け入れ機能に偏る地域包括ケア病棟等では、患者の状態が安定し、医療資源投入量も少ない」点を勘案した評価の必要性を強調。とりわけ松本委員は「post acute受け入れ機能に偏る地域包括ケア病棟等は400床未満病院に顕著である。現在の『許可病床数400床以上で、自院のpost acute受け入れ患者割合が6割以上の場合の入院料減算』(1割減算)を許可病床数400床未満病院にも拡大する」ことを提案しました。
これに対し診療側の城守国斗委員は、▼例えば急性期病院等が少ない地域に設置された地域包括ケア病棟ではどうしても「自院のpost acute患者割合」が高くなるなど、地域・病院の特性を考慮すべきである。「偏りが不適切」と断じることは誤っている▼「自宅等患者受け入れに力を入れる地域包括ケア病棟等1・3」と「自宅等患者受け入れ割合要件の設定されていない地域包括ケア病棟等2・4」とではすでに点数差が設けられてり、さらなる厳格なペナルティ措置は不要である―と反論しています。
また、同じく診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は(b)の論点について「例えば救急搬送患者受け入れデータなどは病院単位のものであり、これをもって『一般病床の地域包括ケア病棟等』と『療養病床の地域包括ケア病棟等』との機能を論じることはできない」「プロセスやアウトカムでの評価であれば理解できるが、『一般病床か療養病床か』というストラクチャーのみに着目した評価は好ましくない」との考えを改めて示しています。一方、この点について支払側の松本委員は「一般病床由来の地域包括ケア病棟等(を持つ病院)では9割近くが救急医療を実施している。こうした点を踏まえて、現場に混乱を来さないような施設基準化を検討してはどうか」との考えを示しています。
他方(d)の入退院支援に関しては、支払側の松本委員から「一定規模以上では加算と在宅復帰推進との関連付けを検討してはどうか」との、診療側の城守委員から「【入退院支援加算1】は人員配置基準や居宅サービスとの連携などが厳しく、大規模病院以外では取得が難しい。しかし、地域包括ケア病棟等でも入退院支援の推進に取り組んでおり、これを後押しするような手直しが必要ではないか」との意見が出ています。松本委員の意見からは「加算取得の要件化」方向などが、城守委員の意見からは「より緩やかな加算(例えば【入退院支援加算2】)の出来高算定」方向などが見えてきそうです。
地域包括ケア病棟等を巡っては、このように中医協委員間で意見が割れており、今後の調整内容に注目が集まります。
医療資源の少ない地域での診療報酬特例、さらなる緩和へ
また(2)の「医療資源の少ない地域」では人材確保などが困難なため、「医療の質が低下しない」ように配慮しながら施設基準の一部を緩和するなどの特例が設けられています。しかし、この特例の活用状況は低調で、医療現場からは▼人材確保が困難で緩和された基準クリアも難しい▼転院先・連携先の医療機関等も少なく基準クリアが難しい▼ICT等の活用についても、医師が高齢であるなどの背景から難しい―などの声が出ています。
このため、2022年度の次期診療報酬改定に向けて「さらなる特例的な基準緩和」などを行うべきか否かが論点となっているのです。この点、診療側・支払側の双方が「医療の質が担保されるかどうかを見ながら、さらなる基準緩和を検討していく」方針に賛同しています。
ただし、「地域にはそもそも人材がおらず、基準をクリアしても診療報酬取得は思うように進まないのではないか」という指摘もあります。厚労省でどういった基準緩和を進めていけばよいのかを練っていくことになります。
DPCデータとNDB等との連結分析に向け「個人単位の被保険者番号」収集へ
(3)は、DPCデータと他のデータとの連結解析を推進する土壌をどう整備していくかという論点です。
2019年の改正健康保険法等で「DPCデータ」と「NDB(National Data Base、医療保険レセプトと特定健診データを格納)・介護DB(介護保険総合データベース、要介護認定情報や介護保険レセプトなどを格納)」との連結解析が可能となりました。連結解析により、将来的には「健診で●●に異常が見つかった人では、〇〇疾病にかかりやす、将来は▼▼が原因で要介護状態に陥りやすい。こうした場合、医療では◆◆という治療が、介護では◇◇という介入が行われ、それぞれ効果を生んでいる」などの知見が得られるかもしれません。その場合、疾病予防に向けた効果的な保健指導、エビデンスに基づく医療・介護提供が可能となり、より効果的・効率的な医療介護提供体制が構築できると期待されます。
こうしたデータは、当然のことですが「個人単位で連結する」ことが必要で(Aさんの医療データとBさんの介護データを連結しても何の意味もない)、「DPCにあるXデータ」と「NDBにあるYデータ」「介護DBにあるZデータ」が同じ人物のものか、異なる人物のものか、などを正確に判別する(同一人物データの紐づけ)ことが求められます。
この点、DPCでもこのデータ連結を進めるために「患者の▼生年月日▼カナ指名▼性別—の3情報」収集が始まっています(2020年度から)。3情報をもとに「同一人物の紐づけ」を行う考え方(従来の考え方)に基づくものです。
しかし、3情報では「この人とこの人が誰であるかは不明である(個人の特定はできない)が、同一人物である」という紐づけの精度に幾分かの問題が生じます。稀ですが「▼生年月日▼カナ指名▼性別—が全く同じ人物」が複数存在するためです。
そこで厚労省では、同一人物のデータを紐づける鍵として「個人単位の被保険者番号」を活用する考え方を示しています(新たな考え方)。1人につき1つの番号が付与されるため、「同一人物の紐づけ」精度が格段に高まるのです(関連記事はこちら)。
そこで厚労省では、DPCにおいても「3情報」収集から「個人単位の被保険者番号」収集にシフトする考えを提示。中医協でも診療側・支払側の双方が賛同しており、今後、厚労省で詳細を詰めていくことになります。
【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)とこちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(新指標4)とこちら(新指標3、重症患者対応)とこちら(看護必要度5)とこちら(看護必要度4)とこちら(看護必要度3)とこちら(新入院指標2)とこちら(看護必要度2)とこちら(看護必要度1)とこちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらとこちらとこちら
◆ICU等に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆慢性期入院医療に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆入退院支援の促進などに関する記事はこちらとこちら
◆救急医療管理加算に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちらとこちら
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◆在宅医療・訪問看護に関する記事はこちら(訪問看護)とこちら(小児在宅等)とこちら(訪問看護)とこちらとこちら
◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちらとこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちらとこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらとこちら
◆難病・アレルギー疾患対策サポートに関する記事はこちら
◆認知症を含めた精神医療に関する記事はこちらとこちら
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◆小児医療・周産期医療に関する記事はこちら
◆医療安全対策に関する記事はこちら
◆透析医療に関する記事はこちら
◆データ提出等に関する記事はこちら
◆調剤に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆医療経済実態調査(第23回調査)結果に関する記事はこちら
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