Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 看護モニタリング

外国人患者を受け入れた医療機関の2割で未収金発生、一部だが「月間500万円超」の未収金も発生―厚労省

2023.7.31.(月)

我が国を観光等で訪れた外国人患者が、傷病にあい、医療機関を受診する場合、通訳等に要するコストを考慮し「1点を15円、20円」などとして医療費を請求することが医療機関判断で自由に行えるが、多くの医療機関は「1点10円」のままで費用請求を行っている—。

また、ほとんどの病院において通訳費用を請求していない―。

外国人患者を受け入れた実績のある医療機関の2割で未収金が発生しており、一部ではあるが「月間500万円を超える」大きな未収金も発生している―。

厚生労働省が7月28日に公表した2022年度の「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」結果から、こういった状況が明らかになりました(厚労省サイトはこちら(概要版)こちら(報告書))(2019年の調査結果に関する記事はこちら)。

半数の病院が「外国人患者の受け入れ」実績あり

新型コロナウイルス感染症が下火なり、本邦を訪れる外国人旅行者が急速に増加しています。外国人旅行者が増えれば、必然的に、傷病で医療機関を受診する外国人旅行患者(以下、外国人患者)も増加します。しかし、外国人患者側には「どの医療機関に行けば良いのかわからない」、医療機関側には「言語対応はどうすればよいのか、費用請求はどのように行えばよいのか迷ってしまう」などのさまざまな疑問が生じます。

こうした疑問を解消し、外国人患者が安心して医療機関にかかれるよう、また医療機関側が安心して外国人患者を受け入れられるような体制整備に向けて、▼外国人患者を受け入れる医療機関リストの作成▼医療機関に向けた外国人受け入れに関するマニュアルの整備(患者が保険に加入しているかなどを事前に確認するとともに、事前に概算費用を提示するなどの重要性を指摘)▼費用負担について、「通訳等に係る費用は実費請求できる」「診療費は自由診療として医療機関が価格を設定できる」ことなどを明らかにする―などの取り組みが行われています(関連記事はこちらこちら)。

今般の実態調査では、医療機関側の取り組み状況(外国人患者受け入れ体制、受け入れ実態)が明らかにされました。全国の約5000病院、約1500クリニックが回答しています。

まず「2022年9月における外国人患者を受けた実績」を見てみると、病院ではちょうど半数(50.0%)が「受け入れ実績あり」と回答しています。受け入れ患者数は「10人以下」が多くなっていますが、1000人を超える病院も一部にあります。

外国人患者受け入れ実績の状況(2022年外国人患者受け入れ実態調査1 230728)



また、厚労省による「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」の病院における認知度を見ると、▼内容を知っている:31.8%▼名前は知っているが、内容は知らない:47.5%▼知らない:20.7%—となりました。

ほか、厚労省による外国人患者受け入れ事業の認知度は、▼希少言語に対応した遠隔通訳サービス:70.4%▼医療機関における外国人対応に資する夜間・休日ワンストップ窓口:54.0%▼外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修:54.8%▼外国人向け多言語説明資料一覧:57.7%▼外国人患者受け入れ情報サイト:47.1%▼訪日外国人受診者医療費未払情報報告システム:46.6%▼外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP):25.6%—となっています。サービス・事業によって認知度に差があります。

JMIPもしくはJIH認証医療機関で「外国人患者の受け入れ」体制が充実

次に、外国人患者の受け入れ体制を見ると、次のようになっています。

【自院における外国人患者の受診状況を把握しているか】
▽病院全体:詳しく把握11.6%、大まかに把握50.6%、把握していない37.8%
▽拠点的医療機関:詳しく把握11.6%、大まかに把握56.2%、把握していない32.2%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:詳しく把握77.6%、大まかに把握22.4%

【外国人患者の受入れ体制の現状を把握し、課題を抽出しているか】
▽病院全体:実施8.5%、未実施91.5%
▽拠点的医療機関:実施24.2%、未実施75.8%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:実施96.5%、未実施3.5%

【自院で「外国人患者受入れ体制整備方針」を策定しているか】
▽病院全体:整備完了4.0%、整備中8.6%、未整備87.5%
▽拠点的医療機関:整備完了17.1%、整備中17.4%、未整備65.4%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:整備完了90.6%、整備中7.1%、未整備2.4%

【外国人対応マニュアルを整備できているか】
▽病院全体:整備完了5.2%、整備中8.3%、未整備86.5%
▽拠点的医療機関:整備完了20.8%、整備中16.5%、未整備62.7%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:整備完了91.8%、整備中4.7%、未整備3.5%

外国人患者受け入れ体制の状況(2022年外国人患者受け入れ実態調査2 230728)



拠点的医療機関は「各都道府県で、外国人患者の受け入れ等を積極的に行ってもらうとして指定された医療機関」、JMIP認証医療機関は「日本医療教育財団が運営する外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)の認証を受けた医療機関)」、JIH認証医療機関は「Medical Excellence JAPANにより、渡航受診者の受け入れに意欲と取り組みのある病院として推奨されている医療機関」をさします。JMIPもしくはJIH認証医療機関で「外国人患者を受け入れる体制、取り組み」が進んでいることが伺えます。拠点的医療機関には「さらなる取り組み」に期待したいところでしょう。



なお、外国人患者受入れ医療コーディネーターの配置・業務の状況を見ると、上記と同じように「JMIPもしくはJIH認証医療機関で配置等が進んでいる」ことが分かりました。コーディネーターの役割としては、「院内の部署・職種間の連絡調整」が最多となっています。

ほとんどの2次医療圏内に「外国語対応可能な医療機関」が1か所以上整備

次に、2次医療圏における多言語対応(医療通訳・電話通訳・ビデオ通訳・自動翻訳デバイス等)の状況を見ると、▼医療通訳者が配置された病院がある2次医療圏:158(全体の47.2%)▼電話通訳が利用可能な病院がある2次医療圏:235(同70.1%)▼ビデオ通訳が利用可能な病院がある2次医療圏:113医療圏(同33.7%)▼外国人患者の受け入れに資するタブレット端末・スマートフォン端末等を医療機関として導入している病院がある2次医療圏:315(同94.0%)▼前述のいずれかが利用可能な病院がある2次医療圏:328(同97.9%)—となっています。

ほとんどの2次医療圏で「何らかの外国語対応が可能な病院」が存在している状況です。外国語対応が難しい医療機関では、外国人患者が来院し「自院では対応が困難(外国語に対応できない)である」と判断した場合には、2次医療圏内の「外国語対応が可能な医療機関」を紹介することが求められます。

外国語対応状況(2022年外国人患者受け入れ実態調査3 230728)

外国人患者の診療費は1点単価10円のところが多い、通訳費請求はごく一部にとどまる

次に、注目される「外国人患者の診療費用」を見てみると、次のように「診療報酬点数表に沿い、1点単価(通常は10円)を割ります形」をとっている病院が一部にあるものの、多くの病院では「通常と同様に1点単価=10円」の診療費を徴収していることが分かります。

【1点あたり「20円超」とする】
▽病院全体:2.3%
▽拠点的医療機関:7.9%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:42.9%

【1点あたり「15円超20円以下」とする】
▽病院全体:4.8%
▽拠点的医療機関:9.0%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:23.8%

【1点あたり「10円超15円以下」とする】
▽病院全体:7.4%
▽拠点的医療機関:8.2%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:4.8%

【1点あたり「10円以下」とする】
▽病院全体:85.6%
▽拠点的医療機関:74.8%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:28.6%

(再掲)【1点あたり「10円超」とする】
▽病院全体:14.5%
▽拠点的医療機関:25.1%
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:71.5%

診療費の設定状況(2022年外国人患者受け入れ実態調査4 230728)



我が国の医療保険に加入していない外国人患者の診療は「自由診療」となり、その費用は医療機関が独自に設定することになります。その際、個々の医療機関で「通訳費はどの程度か」「通常より診療時間はどの程度増えるのか(外国語対応、医療制度の違いの説明などで通常患者よりも多くの時間を割くケースが増える)」などを勘案して設定することが原則で、拠点医療機関やJMIP(日本医療教育財団の認証)・JIH(Medical Excellence JAPANの認証)登録医療機関では、外国人患者へ対応する体制を充実させており、その分、多くのコストを単価に上乗せする必要があると考えていることが分かります。

ところで、国などが「外国人患者では1点●円での診療が望ましい」などの基準を示すことは、公正な取り引きに反するため、なされません。



なお、一部に、診療費以外に「通訳費」を請求する医療機関もあります。厚労省は2019年3月28日に通知「社会医療法人等における訪日外国人診療に際しての経費の請求について」を発出し、「外国人患者への診療において医療通訳を活用した場合、その費用を患者に請求することが可能である」旨を明確にしていますが、この内容を知らない医療機関も存在する可能性があります(関連記事はこちらこちらこちら)。

通訳費の状況(2022年外国人患者受け入れ実態調査5 230728)

外国人患者受け入れ医療機関の2割で未収金発生、一部だが月500万円超の未収金も

さらに、外国人患者においては言葉の壁、慣習の違いなどから、「未収金の発生」も問題視されています。今般の調査では、▼外国人患者受け入れ実績のある病院(2342、全体の半数)のうち、19.9%で「未収金」が発生した▼月間の未収金発生件数は「5件以下」が多いが、一部に「31件以上」というところもある▼月間の未収金総額は「1万円以下」が多いが、一部に「500万円超」というところもある▼1件当たり未収金額は「1万円以下」が多いが、一部に「100万円超」というところもある—ことが分かりました。

未収金の発生状況(2022年外国人患者受け入れ実態調査6 230728)



未収金は病院経営を圧迫する大きな問題です。この点、「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」では、未収金発生防止のために、例えば▼外国人患者が海外旅行保険に加入しているか、また「これから実施する治療が当該保険でカバーされるか」の保険会社への確認をとったか、などを医療機関で事前にしっかりと確かめる▼医療費(概算)の事前説明を丁寧に行う―ことなどが重要とアドバイスしています(関連記事はこちら)。



診療報酬改定セミナー2024MW_GHC_logo

 

【関連記事】

外国人患者への診療における通訳費、2019年もほとんどの病院が請求せず―外国人旅行者への医療提供検討会
外国人患者を積極的に診療する医療機関、どうメリット・インセンティブを付与すべきか―外国人旅行者への医療提供検討会
東京オリ・パラ等に向け、「外国人患者を受け入れる」全国の医療機関リストを作成・公表―厚労省
外国人患者受け入れのための医療機関マニュアルを公表―厚労省

外国人旅行者への医療提供、通訳などのコストに見合った診療費を各医療機関で設定せよ―外国人旅行者への医療提供検討会
外国人旅行者の診療費、増加コスト踏まえ、各医療機関で1点単価の倍数化を考えては―外国人旅行者への医療提供検討会
外国人患者への多言語対応等が可能な医療機関を、都道府県で選定・公表へ―外国人旅行者への医療提供検討会



訪日外国人の「医療機関受診」増加に向け、医療通訳の養成・配置、未収金対策など整理
未予約受診の外国人患者が4割強、院内スタッフによる通訳体制が急務―日本医療教育財団
外国人の患者や医療者の受け入れ、最大の壁はやはり「言語・会話」―日病調査
外国人患者の感染症治療を支援する多言語ガイドブックを作成—東京都
外国人患者向けの電話通訳サービス、医師法・医療法に抵触せず―経産、厚労両省