お盆に西日本に上陸した台風7号の被災者、「保険証等持たずとも保険診療を医療機関等で受けられる特例」を適用―厚労省
2023.8.18.(金)
お盆に台風7号が日本列島を縦断し、関西地方や中国地方、四国地方で非常に大きな被害が出ています。
事態を重く見た厚生労働省は、保険証(被保険者証)を持たずに避難した、あるいは保険証を滅失してしまった方について「保険証を持たずに医療機関等を受診した場合でも保険診療を受けられる(1-3割の負担で済む)」とする臨時特例を設け、医療機関等に特例に沿った対応を行うよう呼びかけました。後述するように「被災者について氏名や住所などを確認したうえで保険診療を実施する」ことが求められます。
保険診療を受ける、つまり「医療機関を受診した際に、窓口で一部負担(年齢・所得に応じて1-3割)のみを支払って医療を受ける」ためには、原則として、自身の加入する医療保険者(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)の発行した被保険者証(いわゆる保険証)を医療機関等の窓口に提示し、「自分は公的医療保険の加入者である」旨を証明しなければなりません。
医療機関等では、患者本人に医療費の1-3割を「一部負担」(窓口負担)として請求し、残りの7-9割は医療保険者に請求します。この資格確認が適切に行われなければ、医療機関等は「この患者には、1-3割の自己負担を請求するだけでよいのか?もし医療保険に加入していなければ10割請求をしなければならないのだが・・・」と不安を持ち、円滑な事務が滞ってしまいます(関連して、オンライン資格確認等システムの本格稼働、オンライン資格確認等システムの導入推進が行われている、関連記事はこちらとこちらとこちら)。
被保険者証を持参し忘れるなどして、医療機関等の窓口で提示できない場合には、「一旦、医療費の全額を医療機関の窓口で支払い、後日、自分自身で医療保険者(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)に申請し、保険給付分(年齢や所得に応じて7-9割)を償還してもらう」ことが原則となります。
しかし、今般の台風で被災された方の中には、さまざまな理由で医療保険の「被保険者証」(保険証)や、難病等の「医療受給者証」などを持たずに避難を余儀なくされた方も少なくないでしょう(着の身着のままに避難された方も少なくない、また自宅に戻れない、自宅が倒壊等し被保険者証(保険証)が紛失してしまった方なども少なくない)。こうした被災者に上記の原則を適用することはあまりに酷であり、厚労省は「特例措置」を設けることを決定しました。
8月15日に示された事務連絡「令和5年台風第77号に伴う災害の被災者に係る 被保険者証等の提示等について」では、特例措置の対象とすることを明らかにしました。これまでにも東日本大震災や熊本地震、北海道地震、各地の豪雨に伴う浸水などの大災害で被災された方にも、同様の対応がとられています(関連記事は、例えばこちら(2023年5月の石川県地震の被災者特例)、こちら(2022年8月の東北・北陸豪雨の被災者特例)、こちら(2023年1月の大雪被災者特例)、こちら(昨年(2022年)末の山形県鶴岡市で発生した土砂崩れの被災者特例)、こちら(2021年の静岡県豪雨の被災者特例)、こちら(2020年の福島県沖地震の被災者特例)、こちら(2020年台風14号被災者特例)、こちら(2020年7月九州豪雨の被災者特例)、こちら(2019年台風19号の被災者特例)、こちら(2018年北海道大地震の被災者特例)、こちら(2018年7月豪雨の被災者特例)など)。
特例措置の具体的な内容は、被保険者証を持たずに避難したために、医療機関窓口に提示できない場合であっても、▼氏名▼生年月日▼連絡先(電話番号等)▼被用者保険(健保組合や協会けんぽ)の被保険者では「事業所名」(会社名)▼国民健康保険・後期高齢者医療制度(75歳以上の方が加入)の被保険者では「住所」▼国保組合では、住所と組合名―を医療機関の窓口で申し立てることで、保険診療が受けられるようにするものです。
この場合、医療機関側は次のようにレセプト請求を行うことになります。
▼「受診時に確認した被保険者の事業所」や「過去に受診した医療機関」などに問い合わせて、可能な限りレセプトに保険者(健保組合など)を特定し、記載する
▼保険者を特定できない場合には、「住所または事業所名」「連絡先」などをレセプトの欄外上部に記載する
また、さらに難病患者等が被災し、同様に医療受給者証の提出ができない場合であっても、医療機関の窓口で「医療受給者証の交付を受けている」ことを申し出て、▼氏名▼生年月日▼住所—が確認できた場合には公費負担医療を受けられるといった特例措置も設けられています(8月15日付の事務連絡「令和5年台風第7号に伴う災害の被災者に係る公費負担医療の取扱いについて」)。緊急の場合には、指定医療機関以外の医療機関を受診することも可能であることが明示されています。
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