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GemMed塾 看護モニタリング

がん診療内容を病院間で比較することで「各施設の質向上」はもちろん、がん拠点病院等全体のボトムアップ目指す―CQI研究会

2023.10.4.(水)

8月26日に第16回「CQI研究会」(Cancer Quality Initiative研究会、代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)が対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。

がん診療の内容を病院間で比較することで、「各病院の改善」→「均てん化、全体のボトムアップ」が図られると期待されます。

●CQI研究会のサイトはこちら

地域連携の推進は、前立腺がん治療にとどまらず、多くの領域で非常に有益

CQI研究会は、全国から120を超えるがん診療連携拠点病院等が集い、自院のデータを持ち寄って比較分析することで、がん医療の質向上を目指す研究会です(2007年設立)。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が、DPCデータに基づく診療内容・実績の分析を担当しています(関連記事はこちら、2021年の第15回研究会の記事はこちら)。

8月26日に開催された第15回 CQI研究会では、全国のがん診療連携拠点病院等121施設が参加し、(1)がん診療に関する病院間比較(2)新型コロナウイルス感染症ががん診療等に及ぼした影響―の大きく2テーマを議題としました。

まず(1)ではCQI研究会世話人である神奈川県立がんセンターの岸田健副院長から「前立腺がん」について、同じく栃木県立がんセンターの藤田伸副理事長・副センター長から「直腸がん」について、治療等に関する病院間比較の分析結果が報告されています。

まず「前立腺がん」については、2012年4月からロボット支援下手術が保険適用されており、CQI会員施設症例をみても2022年度には88.4%がロボット支援下手術で実施(ほか腹腔鏡手術が5.6%、開腹手術が3.2%、小切開手術が1.8%)されていますが、施設間により手術比率には一定のバラつきがあります。

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また在院日数や医療資源投入状況について、例えば次のようなCQI会員病院の状況が分かりました。やはり一定のバラつきがあることが確認できます。

▽平均在院日数は中央値11日、うち術後在院日数は中央値8.5日

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▽術後の抗生剤投与日数は中央値2.0日

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岸田副院長は「術後日数で自院における手術のアウトカムを確認し、パスの見直しにつなげることができる」「術後の抗生剤投与は診療ガイドラインでも『24時間以内』が推奨されており、2日・3日と長期間投与している施設ではパスの見直しを検討し、改善する必要がある」とアドバイスしました。



ところで、ロボット支援下手術について、近年、「腸骨血管損傷などによる重篤な合併症」が複数報告されており、学会では「経験豊な医師が参加するチームで施行し、血管の取り扱い、術中術後管理に十分に注意を払う」よう要請しています。これを受け、施設での術中術後管理の状況をみると「Aラインについてゼロ%から100%まで実施率に大きなバラつきがある」「HCU・ICU管理についてゼロ%から100%まで実施率に大きなバラつきがある」などの状況が見て取れます。岸田副院長は「Aライン、HCU・ICU管理は決して無駄ではないようだ。学会レベルでも必要性・推奨度などを検討していく必要がある」とコメントしています。

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さらに、岸田副院長は診療報酬算定状況に「算定が十分に進んでない」「施設間で大きなバラつき」があることにも着目。例えば、B001【特定疾患治療管理料】の「23 がん患者指導管理料」については、一部施設では算定が進んでいますが、多くの施設が算定できていないようです。同管理料には(イ)医師が看護師と共同して診療方針等について話し合い、その内容を文書等により提供した場合:500点(ロ)医師、看護師、公認心理師が心理的不安を軽減するための面接を行った場合:200点(ハ)医師、薬剤師が抗悪性腫瘍剤の投薬・注射の必要性等について文書により説明を行った場合:200点(ニ)医師が遺伝子検査の必要性等について文書により説明を行った場合:300点—の4類型があり、「がん診療連携拠点病院等であるからには、しっかりとした相談・説明体制をとる必要がある」と指摘。

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また地域連携パスの作成・運用を評価するB005-6【がん治療連携計画策定料】についても、一部施設では算定が進んでいるものの、多くの施設で算定が芳しくありません。岸田副院長は「術後の診療を地域医療機関で見ていただける体制・環境が整えば、自院の外来負担減が可能となり、逆紹介率の向上にもつながる。自院でも地域連携パスの作成、患者への紹介医療機関パンフレット作成等の取り組みを進めている。地域連携の推進は、前立腺がん治療にとどまらず、極めて重要なテーマである」と強調しました。

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さらに岸田副院長は「点数算定による収益増はもちろんだが、それ以上に点数要件等は『このレベルの診療を行ってほしい』という厚生労働省のメッセージであり、算定り 、点数が算定できないことは『十分な患者サポートがなされていない』ことを意味する。点数算定は適切ながん診療の推進につながることを十分に理解してほしい」と訴えています。

こうした点数算定状況を病院ダッシュボードχやCQI会員向けのキャンサーダッシュボードによって他院と比較することで、「自院の状況を客観的に把握し、点数算定・体制充実に向けた院内の機運を高めていく」ことも可能です。

直腸がん切断術症例等では、人工肛門・人工膀胱造設術前処置を積極実施せよ

また「直腸がん」についても、2018年4月からロボット支援下手術が保険適用されています。ロボット支援下手術比率が高まってきており、「泌尿器科領域と同様にロボット支援下手術が中心になっていくだろう」と藤田副理事長は見通します。関連して「自身の肌感覚からするとステージゼロ、ステージ1の早期症例におけるロボット支援下手術の割合が高いように感じる。2021年に国立がん研究センターが『【ステージ4】の大腸がんで、原発巣に起因する症状がない場合には、原発巣は非切除のまま化学療法を先行する治療を第1選択とすべき』との見解を示している点が影響しているのかもしれない」との分析も行いました。

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また藤田理事長も、直腸がん手術内容等について施設間比較を実施。その結果、次のように「大きなバラつきがある」こと、「一部病院では必ずしも適切と言えない状況である」ことが分かり、藤田理事長は「各施設で自己点検を行い、パスの改善などに積極的に取り組んでほしい」と会員病院に訴えました。

▽高位前方切除術を実施した場合、人工肛門造設の必要性は低い(ハイリスク症例のみで実施)。人工肛門造設割合が10%を超えると違和感がある。診療科に必要性について確認すべきである

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▽低位前方切除術でも人工肛門造設割合が80%を超えると違和感があり、検証が必要と考える

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▽超低位前方切除術では原則として人工肛門造設を行うべきである(縫合不全があれば肛門機能が悪くなるので、人工肛門を造設してカバーする必要がある)。造設割合が低い施設では診療内容を確認すべきである

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▽平均麻酔時間にもバラつきがあるが、400分を超えると「手技の洗練が必要ではないか」と感じる

▽縫合不全は一定割合(5%程度)で生じるが、10%を超えている場合には「手技の洗練が必要ではないか」と感じる

このほかにも「術後感染症の発生状況」「ドレーン留置」などさまざまな点で施設間にバラつきがあり、「他院と自施設の状況を比較し、適切な治療内容であるか自己検証を行ってほしい」と藤田副理事長は訴えています。



さらに藤田理事長は、▼K740【直腸切除・切断術】の注2「側⽅リンパ節郭清加算」(片側:4250点、両側6380点)▼K939-3【人工肛門・人工膀胱造設術前処置加算】(450点)—の算定状況にも注目し、やはり「算定が十分に進んでおらず、施設間でバラつきが大きい」ことを指摘したうえで、前者の「側⽅リンパ節郭清加算」については「低位前方切除術・ステージ3症例で60%程度の実施が妥当ではないか。欧米でも進んでいる技術で、私も研究班に参画して高点数が設定された。積極的な算定を行ってほしい」と、後者の「人工肛門・人工膀胱造設術前処置加算」については「人口肛門造設を行わずとも、マーキングによって算定できる加算である。超低位前方切除術や切断術では100%の算定を目指すべき」とアドバイスしています。点数・加算等の算定率向上は「優れた診療」「質の高いがん診療」を目指すうえで、重要なメルクマールとなる点に留意が必要でしょう。

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膵臓がんの早期症例が増加、いわゆる「尾道方式」の効果か

また、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン代表取締役社長の渡辺幸子は「新型コロナウイルス感染症ががん診療に及ぼした影響」を分析。そこからは▼初診において前⽴腺がん・乳がんは増加しているが、胃がん・⼤腸がん・肺がんは減少したままである▼予定入院において前⽴腺がん・乳がん症例は増加(回復)しているが、肺がん・胃がん・結腸がんは減少したままである▼緊急入院は軒並み減少したままである—ことなどが分かりました。

また、「膵臓がんの早期症例が増加しており、いわゆる『尾道方式』(中核病院と地域の連携施設が協力して膵臓がんの早期診断を目指す取り組み)の効果が出いてる可能性がある」ことや、「化学療法の外来移行がかなり進んできている」ことなども明らかになっています。

渡辺は「コロナ収束後に、患者数は一定程度回復すると思われるが、コロナ禍前の水準には戻らないのではないか」と分析し、病院ダッシュボードχやCQI会員向けのキャンサーダッシュボードにより「自院および他院の症例数経年変化」などを的確に把握し、病院運営に活かすことが重要と訴えています。

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