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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

血液診断によって「近く要介護・要支援状態に陥る可能性の高い人」を鑑別できる時代が来る—健康長寿医療センター研究所

2023.2.22.(水)

要介護・要支援状態の原因の1つであるサルコペニア(加齢に伴って生じる骨格筋減弱症)や、運動神経障害、重症筋無力症などについて「発症前・早期に診断を行う」「治療薬の有効性を確認する」ことが、今後「血液診断」(MuSKタンパク量の測定)で簡便に行えるようになる可能性がある—。

また、副作用の強い対象療法しかない「抗MuSK抗体陽性重症筋無力症」について、「血液中に遊離したMuSKタンパク」が自己抗原となることが明らかになり、今後の根治治療薬開発に繋げられる可能性がある—。

東京都健康長寿医療センター研究所が2月20日、こうした研究結果を公表しました(研究所のサイトはこちら)。

運動神経損傷や重症筋無力症、サルコペニア等の発症前診断、治療の有効性確認が可能に

今年度(2022年度)から人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめており、2025年度には全員が後期高齢者となります。このため介護ニーズは今後急速に増大していきます。

一方、支え手となる現役世代人口は、2025年度から2040年度にかけて急速に減少していきます。

少なくなる一方の支え手(サービス提供者、費用負担者)で、増大する一方の高齢者(サービス利用者、受益者)を支えなければならず、「どのように効率的に要介護者を支えていくか」(サービス提供の生産性向上、介護費の負担の公平化など)とともに、「要介護者の発生をいかに防止していくか、要介護状態になったとしても、いかに重度化を防止するか」という点が極めて重要になっています。

要介護・要支援となる原因は多種多様ですが、1つの流れとして「▼サルコペニア(加齢に伴って生じる骨格筋減弱症)→(増悪)→▼要支援・要介護」という形があります。しかし、サルコペニアの発症や増悪化の分子機構は不明であり、また、診断・発症予測に有用な分子マーカー(バイオマーカー)も同定されていません。

これまでの研究では「神経筋難病やサルコペニアの発症前期から神経筋シナプスの機能障害(脱神経支配)が起きている」「神経筋シナプスのMuSKタンパクを活性化すると神経筋 難病とサルコペニアの進行を抑制する効果がある」ことが報告されています。

そうした中で東京都健康長寿医療センター・慶応大学医学部・京都がくさい病院・脳神経内科千葉、東邦大学佐倉病院、千葉大学医学部による共同研究グループは「MuSKタンパクは、本来は骨格筋の表面に固定されているが、筋萎縮発症前から起きる神経筋シナプスの機能障害が引き金となって血液中へ切断され遊離する」ことを明らかにしました。

運動は、脳からの運動信号(例えば「左腕を動かせ」「右足を動かせ」などの命令)が、▼脊髄の運動神経細胞→▼神経線維の終末部と筋線維と接触して形成される神経筋シナプス→▼骨格筋全体—と伝わり、筋収縮が起きることで可能となります。「神経筋シナプスの機能・形態維持」のためには、「神経筋シナプスの筋側で限局して発現する受容体型チロシンキナーゼのMuSKタンパク」が必須となります。

今般の研究では、▼筋の運動神経損傷、神経筋難病やサルコペニアの発症前期から神経筋シナプスの機能が障害される(脱神経支配)→▼神経筋シナプスに限局していたMuSKタンパクの発現が骨格筋全体に広がる→▼タンパク分解酵素(マトリックスプロテアーゼ)の活性も加わる→▼MuSKタンパクがタンパク分解酵素の働きにより骨格筋の膜から切断される—ことにより、「MuSkタンパクが血液中へ遊離して顕著に増加する」ことが明らかにされました。

一方、神経筋シナプスが再生して治癒する過程では「血液中のMuSKタンパクが減少」します。

ここから研究グループでは「MuSKタンパク」を、様々な原因による神経筋シナプス障害の程度、治癒過程を正確に反映する血液診断バイオマーカーとして利用できると結論づけています。

血液診断によって「要介護・要支援の原因の1つとなるサルコペニアの発症前期」、つまり「近く要介護・要支援状態になる可能性が高い」と判断することが可能となります。こうした者を抽出し、適切な治療等を行えば、要介護・要支援状態に陥ることの防止にもつなげられる可能性があるでしょう。



ところで研究グループは、すでに2006年に「MuSKタンパクに反応する自己抗体が、神経筋シナプスの機能を重度に障害して、急速な筋萎縮や呼吸筋障害などを伴う難治性の抗MuSK抗体陽性重症筋無力症が発症させる」ことも明らかにしています。抗MuSK抗体陽性重症筋無力症は、難治性症例が多く、筋力低下から急速に筋萎縮を発症して死に至るケースもありますが、自己抗原の供給源が全く不明でした。

今回の研究では、▼抗MuSK抗体陽性重症筋無力症患者の神経筋シナプスの機能が障害される→▼それが引き金となり骨格筋から自己抗原のMuSKタンパクが血中へ遊離する→▼全身の血管中に存在する未熟なB細胞が、MuSK抗原で感作され抗MuSK抗体を産生するプラズマB細胞に分化する→▼自己抗体を産生して血中から神経筋シナプスへ運ばれる→▼機能障害と病態がさらに悪化する—という悪循環をもたらすことを明らかにしました。つまり、「血液中に遊離したMuSKタンパクが自己免疫疾患の自己抗原となる」のです。

抗MuSK抗体陽性重症筋無力症における自己抗原供給



研究グループでは、「血液中のMuSKタンパク量」をバイオマーカーとして活用することで、▼運動神経損傷▼重症筋無力症▼その他の神経筋難病▼サルコペニア—について発症前・早期に診断を行い、治療薬の有効性を簡単に判定できると期待を寄せています。

さらに、これまで免疫抑制剤など副作用の強い対症療法しかなかった「抗MuSK抗体陽性重症筋無力症」について、今般の研究成果をベースに「MuSK抗原の産生を抑制して自己免疫疾患を制御する根治治療薬」の開発が可能になることにも大きな期待を寄せています。



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