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2022年度の臓器移植状況はコロナ禍前の水準に戻りつつある、小腸移植の成績が若干低下―厚労省

2023.6.14.(水)

今年(2023年)3月31日時点で臓器移植を待っている人は、心臓891名、肺472名、肝臓530名、腎臓1万3974名、膵臓26名などとなっている一方、2022年度における脳死者からの臓器提供は105名にとどまっている―。

移植後患者の生存率と臓器の生着率は、多くの臓器で向上傾向にあるが、小腸で若干低下している点が気になる―。

加藤勝信厚生労働大臣が6月8日に、こういった「臓器移植の実施状況等に関する報告」を参議院厚生労働委員会に行いました(厚労省のサイトはこちら)。

臓器移植の水準は「コロナ禍前」にまで戻りつつあるようです。今後の状況を詳しく見ていく必要があります。

臓器提供件数はコロナ禍前の水準に戻りつつある(2023年臓器移植状況報告1 230608)

脳死者からの臓器提供件数が2021年度から22年度にかけて大幅に増加、コロナ前水準に

1997年に臓器移植法が制定された際、国会(参議院)は「厚生労働大臣は、参議院厚生労働委員会で臓器移植等の実施状況を報告する」旨の附帯決議を行いました(附帯決議とは国会が政府に与えた、いわば「宿題」で、政府には決議の内容を実行するよう「努力する」ことが求められます)。

これに基づき、厚労相は毎年、臓器移植の実施状況を国会に報告しています。

まず今年(2023年)3月31時点の臓器移植「希望」登録者数を見ると、日本全国で次のような状況となっています。
▼心臓:891名(前年(2021年)3月末に比べて26名減少)
▼肺:530名(同41名増加)
▼心肺同時[心臓と肺を同時に移植]:4名(同増減なし)
▼肝臓:298名(同13名増加)
▼腎臓:1万3974名(同252名増加)
▼肝腎同時[肝臓と腎臓を同時に移植]:33名(同8名増加)
▼膵臓:26名(同12名減少)
▼膵腎同時[膵臓と腎臓を同時に移植]:148名(同6名減少)
▼小腸:9名(同増減なし)
▼肝小腸同時[肝臓と小腸を同時に移植]:0名(同1名減少)
▼眼球(角膜):1922名(同34名増加)

部位により若干の違いがありますが、「臓器移植を待つ方」は概ね増加傾向にあると言えそうです。



これに対し、臓器「提供」の状況を見てみると、2021年度には105名の脳死者から臓器提供が行われました。前値度から26名増加しています。新型コロナウイルス感染症下では臓器移植提供が大きく減少しました。今後、より詳しく「コロナ感染症と臓器提供との関係」などを分析していくことが求められるでしょう。

また、心停止後の提供を含む臓器別の提供件数・移植実施件数は、次のようになっています。コロナ感染症の落ち着き、コロナ感染症治療技術の上昇などにより「臓器移植の状況がコロナ禍前の水準を超える」状況になってきていますが、今後の動向も見守る必要があります。

▽心臓:提供は88名(前年度に比べて19名増加)、移植実施は88件(前年度に比べて19名増加)[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽肺:提供は83名(同20名増加)、移植実施は104件(同21件増加)[同じくすべてが脳死者からの提供・移植実施](1つの肺を複数の肺葉に分けて複数人に移植することが可能なケースがあるため、提供者数よりも移植実施件数が多くなることがある]

▽肝臓:提供は91名(同25名増加)、移植実施は97件(同27件増加)[同じくすべてが脳死者からの提供・移植実施](1つの肝臓を切り分けて複数人に移植できるケースもあるため、提供者数よりも移植実施件数が多くなることがある]

▽腎臓:提供は111名(同32名増加)、移植実施は215件(同67件増加)[うち脳死者からの提供は96名(同30名増加)、脳死者からの移植実施は186件(同58件増加)](死者からの提供であれば、1人から2つの腎臓を摘出し、2名の患者に提供できるケースもあるため、提供者数よりも移植実施件数が多くなることがある]

▽膵臓:提供は29名(同2名減少)、移植実施は29(同2件減少)[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽小腸:提供は4名(同1名増加)、移植実施は4件(同1件増加)[すべてが脳死者からの提供・移植実施]



また、臓器移植法施行(1997年10月16日)から今年(2023年)3末までに実施された臓器別の提供件数・移植実施件数(累計数)は次のようになりました。

▽心臓:提供は737名、移植実施は736件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽肺:提供は639名、移植実施は788件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽肝臓:提供は778名、移植実施は833件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽腎臓:提供は2344名、移植実施は4395件[うち脳死者からの提供が847名、脳死者からの移植実施が1659件)

▽膵臓:提供は505名、移植実施は501件[うち脳死者からの提供が501名、脳死者からの移植実施が498件]

▽小腸:提供は30名、移植実施は30件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]



なお、眼球(角膜)については、2022年度に575名から提供がなされ(前年度に比べて70名増加)、移植実施は833件(同19件増加)となりました。臓器移植法施行からの累計で見ると、提供者は2万2240名で、移植実施は3万6036件となっています。

臓器移植の現状(2023年臓器移植状況報告2 230608)

2010年から始まった「15歳未満の小児」からの臓器提供、累計で56名に

ところで、改正臓器移植法が2010年に全面施行され、▼「家族による書面での承諾」に基づく臓器提供▼「15歳未満の小児」からの臓器提供―などが可能となりました。改正法施行(2010年7月17日)から今年(2023年)3月末までに臓器提供が行われた脳死者は840名(前年(2022年)3月末から105名増加)で、このうち、本人の書面による意思表示がなく「家族の書面での承諾」に基づく臓器提供は659名(同83名増加)となっています。

また、今年(2023年)3月末時点で、18歳未満の人からの脳死下での臓器提供は73名(前年(2022年)3月末から8名増加)で、このうち15歳未満の小児からの臓器提供は56名(同10名増加)となっています。

移植した臓器の生着率や患者の生存率、多くの臓器で成績が向上するが、小腸で若干低下

さらに、1997年の臓器移植法施行後からの▼移植後の生存率▼臓器の生着率(体内で機能している)―に目を移してみましょう。昨年(2022年)末までに移植が実施され、今年(2023年)3月末までに生存している人・臓器が生着している人の状況です。

まず5年生存率を臓器別に見ると、次のようになっています。
▼心臓:92.9%(前年度調査に比べて0.2ポイント低下)
▼肺:74.2%(同0.2ポイント低下)
▼肝臓:84.1%(同0.7ポイント上昇)
▼腎臓:91.2%(同増減なし)
▼膵臓:92.0%(同0.3ポイント低下)
▼小腸:75.7%(同1.9ポイント向上)

小腸移植患者で生存率の低下が目立ちますが、中長期的に見ていく必要があります。



また5年生着率(移植した臓器が機能している割合)を臓器別に見ると、次のような状況です。
▼心臓:92.9%(前年度から0.2ポイント低下)
▼肺:73.1%(同増減なし)
▼肝臓:83.2%(同0.6ポイント上昇)
▼腎臓:79.4%(同0.3ポイント上昇)
▼膵臓:76.4%(同0.6ポイント低下)
▼小腸:66.6%(同4.0ポイント低下)

やはり小腸で成績が低下している点が気になります。もちろん、臓器も移植患者も一律ではないため(状態の芳しくない患者ではどうしても成績が悪くなってしまう)、中長期的に見ていくことが必要となります。重要です。向上しています。

移植者の生存率、移植臓器の生着率(2023年臓器移植状況報告3 230608)



なお、2015年末以降の5年生存率・5年生着率は次のように推移しています。多くの臓器で「成績が向上傾向にある」と見ることができそうです。今後も、長期的な視点で見ていくことが重要でしょう。

【5年生存率】
▽心臓

2015年末:91.0% → 2016年末:91.6% → 2017年末:91.9% → 2018年末:92.5% → 2019年末:93.0% → 2020年末:92.8%→2021年末:93.1%→2022年末:92.9%

▽肺
2015年末:71.2% → 2016年末:73.0% → 2017年末:72.0% → 2018年末:73.4% → 2019年末:72.1% → 2020年末:73.5%→2021年末:74.4%→2022年末:74.2%

▽肝臓
2015年末:81.1% → 2016年末:82.6% → 2017年末:83.0% → 2018年末:82.0% → 2019年末:83.1% → 2020年末:83.7%→2021年末:83.4%→2022年末:84.1%

▽腎臓
2015年末:90.5% → 2016年末:90.9% → 2017年末:91.8% → 2018年末:91.1% → 2019年末:91.2% → 2020年末:91.3%→2021年末:91.2%→2022年末:91.2%

▽膵臓
2015年末:94.6% → 2016年末:94.9% → 2017年末:95.3% → 2018年末:94.9% → 2019年末:93.6% → 2020年末:93.0%→2021年末:92.3%→2022年末:92.0%

▽小腸
2015年末:69.2% → 2016年末:70.1% → 2017年末:70.7% → 2018年末:73.2% → 2019年末:70.3% → 2020年末:74.6%→2021年末:77.6%→2022年末:75.7%

【5年生着率】
▽心臓

2015年末:91.0% → 2016年末:91.6% → 2017年末:91.9% → 2018年末:92.5% → 2019年末:93.0% → 2020年末:92.8%→2021年末:93.1%→2022年末:92.9%

▽肺
2015年末:69.6% → 2016年末:71.2% → 2017年末:70.6% → 2018年末:72.2% → 2019年末:70.8% → 2020年末:72.4%→2021年末:73.1%→2022年末:73.1%

▽肝臓
2015年末:80.5% → 2016年末:81.6% → 2017年末:82.8% → 2018年末:81.3% → 20190年末:82.4% → 2020年末:83.2%→2021年末:82.6%→2022年末:83.2%

▽腎臓
2015年末:76.3% → 2016年末:77.4% → 2017年末:77.7% → 2018年末:78.1% → 2019年末:78.4% → 2020年末:78.9%→2021年末:79.1%→2022年末:79.4%

▽膵臓
2015年末:75.3% → 2016年末:76.8% → 2017年末:75.2% → 2018年末:76.0% → 2019年末:76.9% → 2020年末:77.0%→2021年末:77.0%→2022年末:76.4%

▽小腸
2015年末:69.2% → 2016年末:62.3% → 2017年末:62.9% → 2018年末:65.1% → 2019年末:62.4% → 2020年末:67.2%→2021年末:70.6%→2022年末:66.6%



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