心臓や肺の臓器移植希望者増加、多くの臓器で移植者の生存率・生着率も向上―厚労省
2019.5.30.(木)
今年(2019年)3月31日時点で臓器移植を待っている人は、心臓732名、肺348名、肝臓308名、腎臓1万2055名、膵臓41名などとなっている一方、2018年度における脳死者からの臓器提供は70名にとどまっている。また、移植後患者の生存率と臓器の生着率は、多くの臓器で向上している―。
根本匠厚生労働大臣は5月28日に、こういった「臓器移植の実施状況等に関する報告」を参議院厚生労働委員会に宛てて行いました(厚労省のサイトはこちら)。
目次
移植待ち患者、心臓732名、肺348名、肝臓308名、腎臓1万2055名に
1997年の臓器移植法制定に際し、国会(参議院)は「厚生労働大臣は、参議院厚生労働委員会で臓器移植等の実施状況を報告する」旨の附帯決議(政府に課せられた努力義務)を行いました。これに基づき、厚労相は毎年、臓器移植の実施状況を報告しています(前年の関連記事はこちら)。
まず、2019年3月31時点の臓器移植希望登録者数を見ると、日本全国では▼心臓:732名(前年(2018年)3月末に比べ67名増加)▼肺:348名(同23名増加)▼心肺同時[心臓と肺を同時に移植]:3名(同1名減少)▼肝臓:308名(同2名増加)▼腎臓:1万2055名(同288名減少)▼肝腎同時[肝臓と腎臓を同時に移植]:22名(同8名増加)▼膵臓:41名(同1名減少)▼膵腎同時[膵臓と腎臓を同時に移植]:172名(同5名増加)▼小腸:1名(同2名減少)▼肝小腸同時[肝臓と小腸を同時に移植]:1名(同1名増加)▼眼球(角膜):1613名(同11名減少)―となっています。心臓移植・肺移植を待つ患者が大きく増加する一方、腎臓移植を待つ患者は大きく減少しています。
これ対して臓器提供の状況を見ると、2018年度には70名の脳死者から臓器提供が行われました(前値度から7名減少)。心停止後の提供を含む臓器別の提供件数・移植実施件数は次のようになっています。移植希望者に比べて、提供される臓器は依然として少なく、「臓器移植提供意思表示カードを含めた移植医療の普及啓発」を進めるとともに、「人工臓器の開発」「再生医療の開発」なども待たれます。
▽心臓:提供は62名(うち脳死者からの提供は62名)、移植実施は62件(同62件)
▽肺:提供は48名(同48名)、移植実施は60件(同60件)[1つの肺を複数の肺葉に分けて移植することも可能なケースがあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽肝臓:提供は61名(同61名)、移植実施は64件(同64件)[1つの肝臓を切り分けて移植できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽腎臓:提供は99名(同69名)、移植実施は192件(同135件)[死者からの提供であれば、1人から2つの腎臓を摘出し、2名のドナーに提供できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽膵臓:提供は40名(同40名)、移植実施は40件(同40件)
▽小腸:提供は3名(同3名)、移植実施は3件(同3件)
1997年の臓器移植法施行から2018年3末までに実施された臓器別の提供件数・移植実施件数(合計数)は次のようになっています。
▽心臓:提供は452名(同452名)、移植実施は452件(同452件)
▽肺:提供は384名(同384名)、移植実施は467件(同467件)[1つの肺を複数の肺葉に分けて移植することも可能なケースがあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽肝臓:提供は490名(同490名)、移植実施は523件(同523件)[1つの肝臓を切り分けて移植できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽腎臓:提供は1978名(同544名)、移植実施は3689件(同1069件)[死者からの提供であれば、1人から2つの腎臓を摘出し、2名のドナーに提供できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽膵臓:提供は380名(同376名)、移植実施は377件(同374件)
▽小腸:提供は17名(同17名)、移植実施は17件(同17件)
なお、眼球(角膜)については、2018年度に720名(同26名)から提供がなされ、移植実施は1155件(同48件)となりました。臓器移植法からの累計で見ると、提供者は1万9969名(同242名)で、移植実施は3万2267件(同457件)となっています。
2010年から「15歳未満の小児」からの臓器提供可能に、累計で27名
2010年に改正臓器移植法が全面施行され、▼「家族による書面での承諾」に基づく臓器提供▼「15歳未満の小児」からの臓器提供―などが可能となっています。改正法施行から今年(2019年)3月末までに臓器提供が行われた脳死者は502名(前年(2018年)3月末から70名増加)で、このうち、本人の書面による意思表示がなく「家族の書面での承諾」に基づく臓器提供は394名(同62名増加)となっています。
また、今年(2019年)3月末時点で、18歳未満の人からの脳死下での臓器提供は34名(同11名増加)、うち15歳未満の小児は27名(同10名増加)です。
移植した臓器の生着率や患者の生存率、多くの臓器で向上
さらに、1997年の臓器移植法施行後からの▼移植後の生存率▼臓器の生着率(体内で機能している)―を見てみましょう。昨年(2018年)末までに移植が実施れ、今年(2019年)3月末までに生存している人、臓器が生着している人の状況です。
まず5年生存率は、▼心臓:92.5%(前年度調査に比べて0.6ポイント向上)▼肺:73.4%(同1.0ポイント向上)▼肝臓:82.0%(同1.0ポイント低下)▼腎臓:91.1%(同0.7ポイント低下)▼膵臓:94.9%(同0.4ポイント低下)▼小腸:73.2%(同2.5ポイント向上)—となり、心臓移植患者、肺移植患者、小腸移植患者で生存率が向上しています。
また5年生着率(移植した臓器が機能している割合)は、▼心臓:92.5%(同0.6ポイント向上)▼肺:72.2%(同1.6ポイント向上)▼肝臓:81.3%(同1.5ポイント低下)▼腎臓:78.1%(同0.4ポイント向上)▼膵臓:76.0%(同0.8ポイント向上)▼小腸:65.1%(同2.2ポイント向上)―という状況で、肝臓を除き、多くの臓器で移植成績が向上しています。いずれも、医薬品等を含めた医療技術の向上などによるところが大きそうです。
【関連記事】
臓器移植希望者、臓器提供した脳死者ともに増加、生存率・生着率も徐々に向上―厚労省
2015年の臓器移植希望登録者、心臓と腎臓で前年に比べて100名超の増加―厚労省
免疫抑制剤の「ミコフェノール酸 モフェチル」、ループス腎炎治療での保険適用認める―厚労省
病腎移植を先進医療として承認、「医学的に妥当性なし」とのガイドライン記述を修正―厚労省
臓器移植後の長期入院、患者からの「入院料の15%」実費徴収禁止の対象に―中医協総会
抗がん剤キイトルーダ、臓器移植歴のある患者への投与は推奨されない―厚労省
直腸がん補助化学療法に用いるゼローダ、臓器移植患者の感染症予防薬のバリキサを特例保険収載―厚労省
腎臓移植を受けたが当該臓器が機能しない場合、「待機期間」の継続を認める―厚労省
腎臓移植、「血液型適合の小児レシピエント」を「血液型一致の成人レシピエント」より優先―厚労省