臓器移植希望者、臓器提供した脳死者ともに増加、生存率・生着率も徐々に向上―厚労省
2018.5.18.(金)
2018年3月31日時点で臓器移植を待っている人は、心臓665名、肺325名、肝臓306名、腎臓1万2343名、膵臓42名などとなっている一方、2017年度における脳死者からの臓器提供は77名にとどまっている。また、移植後患者の生存率と臓器の生着率は、肺・膵臓を除き向上している―。
加藤勝信厚生労働大臣は5月17日に、こういった「臓器移植の実施状況等に関する報告」を行いました(厚労省のサイトはこちら)。
目次
移植待ち患者、心臓665名、肺325名、肝臓306名、腎臓1万2343名に
1997年の臓器移植法制定に際し、国会は「厚生労働大臣は、参議院厚生労働委員会で臓器移植等の実施状況を報告する」旨の附帯決議(政府に課せられた努力義務規定)を行いました。これに基づき、厚生労働大臣から毎年、臓器移植の実施状況が報告されています。
まず、2018年3月31時点の臓器移植希望登録者数を見ると、オールジャパンで▼心臓665名(前年(2017年)3月末に比べて82名増加)▼肺325名(同10名増加)▼心肺同時[心臓と肺を同時に移植]4名(同増減なし)▼肝臓306名(同8名減少)▼腎臓1万2343名(同67名増加)▼肝腎同時[肝臓と腎臓を同時に移植]14名(同3名増加)▼膵臓42名(同7名減少)▼膵腎同時[膵臓と腎臓を同時に移植]167名(同22名増加)▼小腸3名(同増減なし)▼肝小腸同時[肝臓と小腸を同時に移植]0名(同増減なし)▼眼球(角膜)1624名(同418名減少)―となっています。心臓・腎臓の移植を待っている患者が大幅に増加しています。
対して、臓器提供の状況を見ると、2017年度には77名の脳死者から臓器提供が行われ、心停止後の提供を含む臓器別の提供件数・移植実施件数は次のようになっています。移植希望者に比べて、提供される臓器は少なく、「臓器移植提供意思表示カードを含めた移植医療の普及啓発」「優れた人工臓器の開発」「再生医療の開発」なども待たれます。
▽心臓:提供は59名(うち脳死者からの提供は59名)、移植実施は59件(同59件)
▽肺:提供は46名(同46名)、移植実施は57件(同57件)[1つの肺を複数の肺葉に分けて移植することも可能なケースがあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽肝臓:提供は64名(同64名)、移植実施は67件(同67件)[1つの肝臓を切り分けて移植できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽腎臓:提供は96名(同68名)、移植実施は188件(同135件)[死者からの提供であれば、1人から2つの腎臓を摘出し、2名のドナーに提供できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽膵臓:提供は41名(同41名)、移植実施は41件(同41件)
▽小腸:提供は0名(同0名)、移植実施は0件(同0件)
また、1997年の臓器移植法施行から2018年3末までに実施された臓器別の提供件数・移植実施件数は次のようになっています。
▽心臓:提供は390名(同390名)、移植実施は390件(同390件)
▽肺:提供は336名(同336名)、移植実施は407件(同407件)[1つの肺を複数の肺葉に分けて移植することも可能なケースがあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽肝臓:提供は428名(同428名)、移植実施は459件(同459件)[1つの肝臓を切り分けて移植できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽腎臓:提供は1879名(同474名)、移植実施は3497件(同934件)[死者からの提供であれば、1人から2つの腎臓を摘出し、2名のドナーに提供できるケースもあり、提供者数よりも実施件数が多くなる]
▽膵臓:提供は338名(同334名)、移植実施は337件(同334件)
▽小腸:提供は14名(同14名)、移植実施は14件(同14件)
なお、眼球(角膜)については、2017年度に869名(同24名)から提供され、移植実施は1395件(同64件)となりました。臓器移植法からの累計で見ると、提供者は1万9249名(同214名)で、移植実施は3万1112件(同405件)となっています。
2010年より「15歳未満の小児」からも臓器提供可能に、累計で17名に
2010年には、改正臓器移植法が全面施行され、「家族の書面での承諾」に基づく臓器提供、「15歳未満の小児」からの臓器提供などが可能となっています。改正法施行から今年(2018年)3月末までに臓器提供が行われた脳死者は432名で、このうち、本人の書面による意思表示がなく「家族の書面での承諾」に基づく臓器提供は332名となっています。
また、今年(2018年)3月末時点で、18歳未満の人からの脳死下での臓器提供は23名、うち15歳未満の小児は17名です。
移植した臓器の生着率や患者の生存率、心臓や腎臓などでは向上したが、肺では悪化
さらに、1997年の臓器移植法施行後からの、移植後の生存率と、臓器の生着率(体内で機能している)を見てみましょう。昨年(2017年)末までに移植がなされ、今年(2018年)3月末までに生存している、臓器が生着している人の状況です。
まず5年生存率は、▼心臓91.9%(前年度調査に比べて0.3ポイント向上)▼肺72.0%(同1.0ポイント低下)▼肝臓83.0%(同0.4ポイント向上)▼腎臓91.8%(同0.9ポイント向上)▼膵臓95.3%(同0.4ポイント向上)▼小腸70.7%(同0.6ポイント向上)—となり、肺移植患者を除き、生存率が向上しています。
また5年生着率は、▼心臓91.9%(同0.3ポイント向上)▼肺70.6%(同0.6ポイント低下)▼肝臓82.8%(同1.2ポイント向上)▼腎臓77.7%(同0.3ポイント向上)▼膵臓75.2%(同1.6ポイント低下)▼小腸62.9%(同0.6ポイント向上)―という、状況で、肺と膵臓を除き、移植した臓器がドナーの体内で機能する期間が長くなっています。
いずれも、医薬品等を含めた医療技術の向上などによるところが大きそうです。
【更新履歴】ドナーカードという表記をしておりましたが、正しくは「臓器提供意思表示カード」です。また「改正法施行から今年(2018年)3月末までに臓器提供が行われた脳死者は332名」とありましたが、「432名」の誤りです。お詫びして訂正いたします。記事は訂正済です。
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