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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

自治体病院においても再編・統合の早急な検討が必須―2016地域医療再生フォーラム

2016.11.22.(火)

 今後、我が国の人口減少が進む中で、地域で医療機関が際限なく消耗戦を続ける愚は終わりにすべきである。自治体病院においても機能分化・連携の推進に向けて『再編・統合』を重要な選択肢の1つに位置づけ、早急に検討していく必要がある―。

 22日に開かれた自治体病院全国大会2016「地域医療再生フォーラム」で、稀有な「自治体病院の再編・統合成功事例」として名高い日本海総合病院の統括医療監で山形県・酒田市病院機構理事長の栗谷義樹氏は、このように強調しました(関連記事はこちらこちら)。

山形県・酒田市病院機構理事長で、日本海総合病院統括医療監の栗谷義樹氏

山形県・酒田市病院機構理事長で、日本海総合病院統括医療監の栗谷義樹氏

自治体病院が再編・統合して機能分化、結果として経営や医療の質が向上

 山形県立の旧日本海病院と、山形県酒田市立の旧市立酒田病院が2008年4月に再編・統合、主に急性期医療を担う日本海総合病院(山形県・酒田市病院機構)と主に回復期・慢性期医療を担う酒田医療センター(同)に生まれ変わりました。

 この背景には、合併して誕生しました。その背景には、「旧市立病院施設の老朽化」と「県立病院の経営不振」がありましたが、合併の立役者となった栗谷統括医療監はその先の「病院を取り巻く地域医療などの変化」を見据えていたようです。

 合併におけるご苦労や合併後の成果などは、以前にメディ・ウォッチでも詳しくお伝えしているように、機能分化(日本海総合が急性期を、酒田医療センターが回復期・慢性期を担う)が推進され、日本海総合病院においては次のような改善を実現しています。

▼手術件数の増加(統合前に比べて年間925件増)

▼紹介率・逆紹介率の向上

▼平均在院日数の短縮(合併前の2007年:17.3日→2015年:11.7日)

▼常勤医師・研修医の増加

▼入院単価の増加(2007年:3万9373円→2015年:6万2990円)

▼外来単価の増加(2007年:8957年→2015年1万471円)

 こうした改善によって、経営状況も大幅に好転(経常利益は2007年度の▲2億5600万円から、2015度には9億7500万円)。さらに、2016年度からはDPCのII群病院となっています。

 厚生労働省医政局地域医療計画課の佐々木健課長は、「地域での機能分化・連携をうまく進めることで、経営的にも地域医療を守っていけることが分かる好事例である。機能分化・連携を進めるためには、地域医療構想調整会議での話し合いが重要となる。まず調整会議に地域の医療関係者間で、場合によっては住民も含めて、2025年に向けて地域医療をどう守っていくべきかを話あっていただき、それをベースに役割分担の議論を進めてほしい。簡単に進む議論ではないが、何もしなければ『共倒れ』になってしまう。議論の素材となるデータは厚労省からも積極的に提供していく」と述べ、機能分化・連携の重要性を訴えました。

地域医療において消耗戦・撤退戦は終わりにすべき

 ただし栗谷統括医療監は、これだけの成果を収めながら「地域では過疎化、高齢化がさらに進行する。将来が見えない。これから地域医療の中で、壮大な『撤退戦』が生じる」と危機感を募らせます。

 2025年には、いわゆる団塊の世代(1947-49年生まれの人)がすべて75歳以上の後期高齢者となるため、これから慢性期医療や介護のニーズが飛躍的に高まると予想されます。しかし、同時に我が国では「人口減少」も進んでおり、これは患者数が減少していくことを意味します。

 そこで栗谷統括医療監は、山形県・酒田市病院機構(日本海総合病院・酒田医療センター)と4つの医療法人・社会福祉法人によって「地域医療連携推進法人」を構築できないか検討していることを発表しました(関連記事はこちら)。

 栗谷統括医療監は、今のままでは地域で際限なく消耗戦・撤退性が続いてしまうとし、▼医療法人などの非営利性を厳格化した上で、地域独占を一定程度許容する▼地域で病院がグループ化し、病床や診療科の設定、医療機器配置の効率化を行う▼個別病院はもとより、地域で医療提供体制・医業費用を効率化できる仕組みを構築する―ことなどを提案しています。

 この点について、「地域医療構想策定ガイドライン」の作成に尽力(前厚労省医政局医師確保等地域医療対策室長)した文部科学省高等教育局医学教育課の佐々木昌弘企画官は、「病院単独ではなく、いわば『地域連結決算』で地域医療を考えていかなければいけないことが明確になった。さらに、医療従事者1人1人が、地域医療における自分のポジションを考えることが重要である。現在、文科省では医師のモデルコアカリキュラム改訂を検討しており、医学生の教育レベルでも地域医療の重要性を考慮しなければいけない。これまで以上に自治体病院を始めとする、地域の病院で臨床の実習を行いやすい仕組みを検討していく」との見解を示しています。

 

 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、かねてから「病院単独で生き残ることが難しくなる。今後は、さまざまな形で病院の再編・統合を進める必要があり、また進めざるを得なくなる」ことを訴えています。単純なM&Aでは地域医療を守ることはできず、地域医療の実態を踏まえたきめ細かい再編・統合が必要となります。

 なお、栗谷統括医療監は、例えば高齢で寝たきりのアルツハイマー患者に、高額な骨粗鬆症治療が行われているケースなどを紹介し、「高齢者に過剰・不適切な医療を提供している実態を是正しなければ、我が国の医療制度が崩壊してしまう」とも訴えます。この点について厚労省の佐々木地域医療計画課長は、「医療の内容について点検していく必要がある」とした上で、「実態を詳しく調べ、その上で慎重に検討する必要がある」とコメントするにとどめています。

地域医療構想・病床機能報告から地域の将来像をいかに予想できるかが鍵

 文科省の佐々木企画官は、前述のとおり「地域医療構想策定ガイドライン」の作成に尽力されました。22日のフォーラムでは、地域医療構想は「地域住民のための医療連携」を実現するに当たっての『戦略』であり、さらに『戦術』として地域医療連携推進法人などがあることを紹介(関連記事はこちらこちら)。

文部科学省高等教育局医学教育課の佐々木昌弘企画官

文部科学省高等教育局医学教育課の佐々木昌弘企画官

 地域医療構想では、地域における高度急性期・急性期・回復期・慢性期の機能ごとの病床の必要量など、2025年のあるべき医療提供体制の姿を定めます。地域では、調整会議(地域医療構想調整会議)を設け、そこに地域の医療関係者が集って、機能分化に向けた話し合いを進めていくことになります。

 厚労省では、調整会議での話し合いを促進するためのツールとして▼病床機能報告制度(各病院のデータベース)▼医療介護総合確保基金(総論賛成の場合の個別病院の誘導)▼都道府県知事の機能転換命令権―などを用意しています。佐々木企画官は「有力者の『鶴の一声』ではなく、データを基にした話し合いを進めることが期待される」と述べ、さらに「地域医療構想や病床機能報告制度について、未だに『病床削減ツール』と言われることもあるが、そうした方は話し合いを促進させるためのツールの使い方が分かっていないのではないか」と警鐘を鳴らしています。

 さらに佐々木企画官は、「調整会議」での話し合いが最重要ポイントになることを改めて強調。当初は様子見で積極的かつ具体的な機能分化論議が行われないと予想されますが、地域医療構想と病床機能報告制度といたツールを用いて、地域の医療提供体制の将来をどれだけ予想した上で様子見をしているか、が極めて重要です。

  
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