遠隔診療の活用で、生活習慣病治療の最大障壁である「通院の手間」解消を—日本医療政策機構
2017.3.31.(金)
生活習慣病の治療を患者側が中断してしまう最大の理由として「通院の手間」があげられ、症状が安定している場合にはICT技術を活用した「遠隔診療」で治療中断の障壁を取り除ける。ただし、費用負担を原因に治療中断しているケースも少なくないため、遠隔診療の個人負担を低く抑える必要もある―。
日本医療政策機構は29日、「2016年医療ICTに関する意識調査結果」をもとにこのような提言を行っています(機構のサイトはこちら。調査結果からは、遠隔診療のニーズが「地域を問わず」「未治療患者」へ広がっていることが分かりました。
また30代以下では、2割弱の人が「医療データは国のもの」と考えていることも明らかになりました。
テレビ電話やチャットも活用した「遠隔診療」への国民の期待は大きい
この調査は、昨年(2016年)11-12月に、20歳以上の男女1191人を対象にインターネットで行われたものです。
生活習慣病の医療費は今や10兆円を超えており、そもそもの予防や重症化予防が重要となります。中央社会保険医療協議会でも、2018年度の次期診療報酬改定に向けて「かかりつけ医と専門医療機関との連携」や「医療機関と保険者・自治体の連携」などを進める方針が確認されています。この点、治療中断は重症化に直結することから、中断要因を除外することが生活習慣病の重症化予防にとって極めて重要と言えます。
機構が、高血圧や糖尿病など生活習慣病の治療を中断してしまった人に、その理由を聞いたところ「通院の手間」がもっとも多いことが分かりました。機構では、治療中断の最大要因である「通院の手間」を省くために「遠隔診療」を活用すべきと提案します。さらに、生活習慣病を指摘されているが治療を開始できていない人も、過半数が遠隔診療を活用したいと考えていることも分かりました。
また、どのような遠隔診療が適切かという点については、「テレビ電話」と「チャット」(コンピュータネットワーク上で、リアルタイムに文字で会話を交わすこと)の複合的活用を求める声が8割弱を占めていること、日本全国のどの地域でも遠隔診療活用に前向きな人が5割を超えていることも分かりました。
このため機構では、「地域を問わず、未治療の人も対象として、生活習慣病などの慢性疾患治療に、テレビ電話やチャットなどのICT技術を活用した『遠隔診療』を広く用いる」ことを提言しています。中医協では、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)が「ICTの活用により、診療の効率化」を強く求めており、機構の提言は追い風になるかもしれません(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
ただし、低所得者では治療中断の最大の理由が「必要負担」であることから、「個人の費用負担を抑える」ことも検討する必要があります。
医療データ、30代以下では17%が「国のもの」と考える
また「健康・医療データが誰のものか」という点に関しては、世代間で意識にギャップのあることも分かりました。
いずれの世代でも「患者個人のもの」と考える人がもっとも多い点は変わりませんが、その割合は60歳以上では72%なのに対し、39歳以下では61%にとどまります。また「国のもの」と考える人は、60歳以上ではわずか5%ですが、39歳以下では17パーセントにのぼっています。
健康・医療データには、確かに機微性の高い個人情報が含まれますが、これらを集積・解析することで、「新たな治療法、医療技術の開発」「診療の標準化」「政策立案」などにつなげられる点の重要性が、若い世代には浸透してきていると考えられます。機構では「次代を担う若い世代の価値観も踏まえて、データの管理手法を考えていく必要がある」とコメントしています。
なお注目されるAI(人工知能)の活用については、「AIによる診断の精度が高ければ、活用してほしい」と考える人は6割に上るものの、「診断を主にAIが行い、医師が結果を確認する」ことに理解を示す割合は29%にとどまります。機構では「導入段階では、人工知能はあくまで医師をサポートする役割であり、最終的な判断は医師が下すという使われ方が受け入れられやすい」とコメントしています(関連記事はこちらとこちら)。
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