診療密度の「境界線病院」の未来―鼎談 II群請負人(6)
2017.12.5.(火)
高度な急性期医療を提供する病院としての絶対的なブランドとも言える「II群」を手に入れるには何が必要なのか、その条件とは――。
経営分析システム「病院ダッシュボードΧ」リリース直前の緊急企画として、数多くのII群病院の昇格・維持をコンサルティングしてきた「II群請負人」であるグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのシニアマネジャーの塚越篤子、マネジャーの冨吉則行と湯原淳平が、II群昇格・維持の本質を語り合う連載。6回目は、II群病院にとって最も重要な実績要件と言える診療密度の今と未来を議論します。
I群在院日数短縮で足切りの可能性も
塚越:今回の診療報酬改定で一番の気がかりは診療密度。多くのII群病院でも、これをどうクリアするかは悩ましいところなのではないでしょうか。結局、2016年度診療報酬改定で、「重症度、医療・看護必要度」が大幅に見直されて、7対1入院基本料の最重要要件とも言える重症患者割合が25%に上がったため、I群の大学病院もやはり平均在院日数短縮の方向に大きく動くかもしれない。そうすると、今の診療密度の基準値2513.24が相当上がるのでないかと予想しています。下手をすると2600になった場合、多くのII群病院が足切りになる可能性もあると考えているのですが、どうでしょう。
湯原:可能性はありますね。大学病院は大学本体の経営悪化のためここ2年ぐらいで経営改善が強化され、平均在院日数の短縮はかなり進んでいると認識しています。まさにII群維持か脱落かの境界線上にある病院は本当に多いですから、その可能性は否定できませんね。
冨吉:境界線上にある病院が多い一方で、B病院(公立、700床台)のようにシミュレーションで2700と安泰の病院もあります。B病院はひたすら平均在院日数を短くし続けていて、構築したばかりの入院サポートセンターも活用して、その動きをさらに加速させていっています。ちなみに、特に疾患構成が変わったわけでもありません。
例えば、心臓カテーテル検査の入院は2泊3日から1泊2日になりましたし、疾患別で見ても10日前後の平均在院日数がほとんど。本当に平均在院日数の短縮をとことんやってもらいました。もちろん、集患も並行して頑張ってもらったからできたことなのですが。
塚越:それは素晴らしいですね。「病院ダッシュボード」の係数分析では診療密度のシミュレーションもできるから、境界線上にある病院は常に状況をチェックできますし、伸ばしている病院は本当に伸びているかどうかなど、定期的に現状確認をして、改善行動に打って出ることができます。
冨吉:その一方で、同じ心カテの造影剤だけを先発医薬品にしている病院もあります。症例数が一番多いというルールを知っておいて、包括支払いになる心カテだけを。
湯原:それは悪質ですね。現行制度を正しい方向にするのなら、純粋に日当点だけでいいと思います。日当点割る平均在院日数とすれば、先発品を使っているか否かは問題でなく、診療密度は焦点が在院日数短縮と明確になります。
塚越:それが一番平等ですよね。そうすれば、同じように小手先で何とかしようという病院もなくなるでしょうし。どうも今の診療密度の計算方法には疑義があるし、個人的には納得できません。
どうする公立病院の人事問題
湯原:個人的にII群病院で気にすべきことの盲点として、人事があります。特に、公立病院と民間病院は人事が全く異なり、II群維持の最重要要素であるトップ・院長が2年とか3年のスパンで替わりますよね。その辺の意志を引き継ぐというは非常に難しく、運任せのところもありますよね。
塚越:事務部門も頻繁に入れ替わりますからね。
湯原:そうですよね。ですから、ある意味で独立行政法人化というのは一つの選択肢で、そうすると人事権を持てます。例えば、事務長を生え抜きみたいな感じで確保できたら、とても経営が安定しやすいですよね。
冨吉:確かにそうなのですが、それを議会が許すかどうかが悩ましいところです。議会は稼働重視、収益がすべてですからね。
塚越:収益重視だと、II群に急性期の本質が凝縮されていることや、II群がとても優れた経営ツールであることなどが理解されず、特に中長期での戦略を理解してもらえない。こういうことは、病院の現場を知る医療従事者であれば、丁寧に粘り強く説明していけば理解してもらうことができますが、医療を知らない議員たちには響かないことが多い。結局、どれだけ売り上げが増加して、赤字がどれだけ減ったのか、という議論に終始しがちです。
湯原:人の問題は本当に悩ましいところです。結局、組織を動かすのは人なので、その軸が替わるということは、何よりも大きな問題なのです。ですから、人の意志を引き継げるデータや仕組みを残しておくことが、少なくともこうした問題の影響を最小限に抑えることができる唯一の手法なのでしょう。
塚越:そういう意味でも、II群の存在は優れたツールです。「II群」というブランドが、人事変更で脱落してしまったらその責任の所在は明らかですし、院内の改善風土を醸成するという意味でも、II群というツールの影響は大きいです。人事は特に公立病院にとって、本当に悩ましい問題ではありますが、人事対策という面においても、II群は非常に有益なツールであると言えます。
連載◆鼎談 II群請負人
(1)最重要はトップの強い意志
(2)院内を一つにする最強ツール
(3)強みが不明確な病院に患者はこない
(4)迷ったら針路は「医療の価値」向上
(5)入院医療の外来化、制度の遅れにどう対処
(6)診療密度の「境界線病院」の未来
(7)やりたい医療から、求められる医療へ
(8)急性期医療の本質が、そこにある