感染防止対策加算は効果大、感染管理部門への専従医師・薬剤師配置などが検討課題―日本感染症学会
2018.5.25.(金)
感染管理部門において、9割程度の医療機関では看護師を専従職員として配置しているが、6割程度の医療機関では「専従の医師・薬剤師」が配置されていない。現場は「感染管理部門への人員補充」を求めている。今後、「感染管理部門における医師・薬剤師の専従配置」や「加算をどういった点に使用するのか」(人員補充の財源とするのか、機器等購入費に充てるのか、など)を検討していく必要がある―。
日本感染症学会は5月17日に「感染防止対策加算に関するアンケートの集計結果」を公表し、こういった考えを述べています(学会のサイトはこちら)。
専従の医師・薬剤師の未配置は、それぞれ60%程度にのぼる
A234-2【感染防止対策加算】は、組織的に感染防止対策をとっている医療機関を評価する入院基本料等加算(入院基本料などに上乗せされる)です。従前、感染防止対策は医療安全の一環と捉えられてきましたが、新興感染症(新型インフルエンザなど)や薬剤耐性菌などへの感染防止に向け、通常の医療安全とは別の対策が必要であることを踏まえ、2012年度の診療報酬改定(前回の同時改定)で新設されました。
また、我が国では▼経口セファロスポリン▼フルオロキノロン▼マクロライド—といった広域抗菌薬(幅広い細菌に有効な抗菌薬)の使用量が極めて多く、薬剤耐性菌の発生を抑えるために「抗菌剤の適正使用」がこれまで以上に重要になっていることを踏まえ、2018年度の今回診療報酬改定で、感染防止対策加算の上乗せの加算として【抗菌薬適正使用支援加算】(100点)が新設されています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
日本感染症学会では、会員を対象に加算の算定状況等を調査しています。619名から有効回答を得ており、所属医療機関の規模を見ると、▼無床:7.4%▼100床未満:3.6%▼100-199床:10.5%▼200-399床:26.7%▼400-599床:21.0%▼600床以上:30.9%―で、やや大規模病院に偏っている点には留意が必要です。
また、回答者の過半数(50.7%)は経営等に関与していませんが、16.2%が経営等に大きく関与し(幹部職員)、33.1%は一部関与しています。
まず、【感染防止対策加算】の取得状況を見てみましょう。【感染防止対策加算】は、医療機関の体制等によって【加算1】(390点)と【加算2】(90点)に分かれています。それぞれに求められる体制等は、例えば次のように規定されています(施設基準)。
【加算1】
感染防止対策部門を設置し、部門内に▼3年以上の感染症対策経験を有する専任の常勤医師▼5年以上の感染管理従事経験をもち、感染管理に係る適切な研修を修了した専任の看護師▼3年以上の病院勤務経験を持つ感染防止対策専任の薬剤師▼3年以上の病院勤務経験を持つ専任の臨床検査技師—からなる感染制御チームを組織し、感染防止に係る日常業務を行うとともに、「最新のエビデンスに基づいた、自施設の実情に合わせた感染防止マニュアルの作成と院内への配付」「職員を対象とした年2回程度の院内感染対策研修の実施」「加算2の届出医療機関と合同で、年4回程度の院内感染対策カンファレンスの実施」「加算2算定医療機関から、必要時に院内感染対策に関する相談等の受け付けなどを行う。チームメンバーのうち1名は「院内感染管理者」として配置する。院内の抗菌薬適正使用監視体制を構築することや、院内感染対策サーベイランス(JANIS)など、地域や全国のサーベイランスに参加することなども必要。
【加算2】
一般病床数300床以下を標準とする。感染防止対策部門を設置し、部門内に▼3年以上の感染症対策経験をもつ専任の常勤医師▼5年以上の感染管理従事経験をもつ専任の看護師▼3年以上の病院勤務経験をもつ感染防止対策専任の薬剤師▼3年以上の病院勤務経験を持つ専任の臨床検査技師—からなる感染制御チームを組織し、感染防止に係る日常業務を行うとともに、「最新のエビデンスに基づいた、自施設の実情に合わせた感染防止マニュアルの作成と院内への配付」「職員を対象とした年2回程度の院内感染対策研修の実施」「加算1届出医療機関が主催する院内感染対策カンファレンスへの参加」などを行う。チームメンバーのうち1名は「院内感染管理者」として配置する。院内の抗菌薬適正使用監視体制を構築することなども必要。
今般の調査では、【感染防止対策加算1】が73.9%、【感染防止対策加算2】が13.7%、未取得が12.4%となっています。上述のように大規模医療機関からの回答が多かったことが影響していると言えます。
院内の感染管理部(感染制御部門)の構成は、次のようになっています。
【医師】▼0人:0.8%▼1人:28.7%▼2人:26.2%▼3人:14.6%
○専従は▼0人:60.0%▼1人:16.7%▼2人:2.7%▼3人:1.3%
【看護師】▼0人:0.8%▼1人:34.1%▼2人:34.9%▼3人:13.4%
○専従は▼0人:10.9%▼1人:54.0%▼2人:17.2%▼3人:4.6%
【薬剤師】▼0人:5.0%▼1人:44.4%▼2人:28.9%▼3人:7.9%
○専従は▼0人:59.6%▼1人:16.3%▼2人:0.8%▼3人:0.2%
【臨床検査技師】▼0人:7.5%▼1人:44.4%▼2人:27.8%▼3人:6.7%
○専従は▼0人:65.5%▼1人:8.6%▼2人:1.9%▼3人:0.2%
施設基準を満たさない(例えば医師や看護師などが0人)ために加算を未取得の医療機関でも、一定程度、院内に感染管理を行う部門を設置している状況が伺えそうです。
また施設基準では「感染制御チームにおいて、医師または看護師のうち1名は専従」と定めており、今般の調査では「看護師1名を専従者として配置している」医療機関が多いことが分かりました。日本感染症学会では「ほとんどの施設において医師の配置があるものの、専従の医師、薬剤師がみられない施設はいずれも約60%」とコメントしており、今後の診療報酬改定において課題・論点の1つとなりそうです。
もっとも、一部の医療機関において「薬剤師や検査技師、複数の医師を感染管理の専従者として配置している」は注目されます。国が定める以上の感染防止対策をとっており、こうした医療機関が増えていくことが期待されるでしょう。
感染防止加算により感染症診療や制御の質が向上、「人員配置」が今後の課題
次に【感染防止対策加算】の効果等を見てみると、▼84.5%が「効果あり」とし、「効果なし」は4.8%にとどまる▼88.5%が「感染症診療・制御が良くなった」とし、「変わらない」は11.1%、「悪くなった」は0.4%にとどまる―となっており、大半の医療機関は「感染防止対策加算を高く評価している」ことが伺えます。
また、▼感染症診療・制御の質的レベルアップ:58.9%▼感染対策に関わる人員状況の改善:53.1%▼感染対策に関わるハード面の充実:41.3%▼他科との連携促進:28.0%▼病院執行部からの評価:26.2%—といった効果も現れています。
2012年度改定で【感染防止対策加算】が創設されて以降、過半数(51.5%)の医療機関では「人員増」が行われ、職種別の内訳は▼医師:49.8%(うち専従は18.6%)▼薬剤師:43.0%(同10.8%)▼看護師:57.0%(同37.6%)—となっています。
ただし、半数近く(48.5%)の医療機関では、人員増がなされておらず、感染管理担当者の業務負担が増加している可能性があります。感染防止加算等の使用用途については、「人員の補充」を求める声が74.2%と圧倒的で、この点を裏付けていると言えるでしょう。ほか▼感染対策消耗品に対する費用:56.5%▼施設・機器などのハード面の充実:54.9%▼耐性菌・遺伝子診断など特殊検査の費用:50.7%▼ワクチン費用:29.7%—と続いています。
現場が補充を求めている職種は、▼医師:29.9%▼看護師:25.4%▼薬剤師:22.8%▼微生物検査技師:11.0%▼事務職員:10.9%—となっており、医療専門職の補充希望が多くなっています。
また2018年度改定で新設された【抗菌薬適正使用支援加算】が、抗菌薬適正化使用にどれだけの効果を及ぼすかを予測してもらったところ、▼大いに進む:9.4%▼少し進む:67.0%▼変わらない:18.7%▼進まない:2.6%▼わからない:2.3%—となっており、4分の3は「一定の効果がある」と考えています。
こうした調査結果を踏まえ、【感染防止対策加算】が、我が国の感染制御体制の充実に大きく貢献していると高く評価。その上で、今後は「感染管理部門における専従職員(特に医師・薬剤師)の適正配置の在り方」「加算の使用用途」に関して引き続き考えていく必要があるとの課題を提示しています。
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