入院日数の短縮、病床ダウンサイジングを支援し、医療費の地域差縮小を―経済財政諮問会議で有識者議員
2019.4.15.(月)
医療費・介護費の地域差縮小に向けて、▼消費税財源を活用した病床ダウンサイジング支援の拡充▼入院日数の短縮▼介護医療院への計画的な転換支援―などを実施せよ―。
4月10日に開催された経済財政諮問会議で、有識者議員からこういった提言が行われました。
次期診療報酬改定(2020年度改定)や次期介護保険制度改革に向けた提言も
画期的な抗がん剤をはじめとする医療技術の高度化、高齢化の進行(2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる)などに伴って医療費を含めた社会保障費は、今後も増加を続けます。
一方、2025年以降、高齢者人口の増加度合いそのものは鈍化しますが、社会保障を支える「生産年齢人口」が急激に減少していきます。このため社会保障制度の基盤が極めて脆くなることから、安倍晋三内閣では、さらなる「社会保障改革」の検討を進めています。
経済財政諮問会議の有識者議員(▼竹森俊平議員:慶應義塾大学経済学部教授▼中西宏明議員:日立製作所取締役会長兼執行役▼新浪剛史議員:サントリーホールディングス代表取締役社長▼柳川範之議員:東京大学大学院経済学研究科教授)は、4月10日の会合で、「新経済・財政再生計画の着実な推進に向けて―社会保障制度改革―」として、次のような事項を進言しました。
(1)地域医療構想の実現
(2)2020年度診療報酬改定
(3)介護保険制度の見直し
(4)次世代型行政サービスの推進
(5)保険者機能の強化
このうち(2)「2020年度診療報酬改定」に関しては、とくに「調剤」「医薬品」に焦点を合わせ、▼薬価制度抜本改革の推進▼院内・院外の調剤報酬の価格差是正、調剤料などの技術料、かかりつけ薬局、健康サポート薬局などの検証に基づく適正化(正当性が疑われる場合)▼病状が安定している患者等への「リフィル処方」(一定期間内に反復使用できる処方箋の活用など)推進の検討▼医薬品産業構造の転換(高い創薬力の保持)に向けた「長期収載品の価格引下げまでの期間の在り方」などの検討―などに言及しています。
中央社会保険医療協議会でも、2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が本格スタートしており、今後、各所でさまざまな「提言」が行われることでしょう(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
また2021年度に改正が予定される(3)「介護保険制度」については、第8期介護保険事業(支援)計画期間中(2021-23年度)に団塊の世代が後期高齢者となり始め、介護サービス利用者が急増すると見込まれることから、▼ICT、AIなどの活用による介護現場の生産性向上▼予防・自立支援を軸としたサービス給付・報酬体系の構築(要介護度の維持・改善につながる取り組みや、ADL改善などのアウトカムに基づく支払いを大胆に推進する)▼住所地特例制度(施設に入所した場合、元の住居で介護保険料の納付や給付管理などを行うことで、施設住所地の過重負担を抑える仕組み)の利用実態等把握と在宅介護への適用範囲拡大―などを検討するよう求めています。
こちらも社会保障審議会・介護保険部会で、制度改革に向けた議論が始まっており、今後の動きに注目が集まります(関連記事はこちらとこちら)。
さらに(1)「地域医療構想の実現」についても、2018年度で公立病院・公的病院等の機能改革論議が完了することになっており、議論が次のフェーズに入ることになります。有識者議員は、「医療・介護費の極めて大きな地域差の縮小に取り組む必要がある」とし、▼消費税財源を活用した病床のダウンサイジング支援の拡充▼入院日数の短縮(とくに精神病床について)▼介護医療院への計画的な転換に向けた支援―を行うよう求めています(関連記事はこちらこちらとこちら)。
このうち介護医療院については、「療養病床から転換した場合、介護給付費が増加し、介護保険料の高騰につながってしまう」として転換にストップをかける市町村(介護保険者)もあるといいます。ただし、医療療養から介護医療院への転換は、社会保障費という面でみれば「適正化」につながるものであり、市町村関係者の正しい理解に向けて厚労省が全国ブロック会議等を実施しています。この会議の中で「必要な支援策」が浮上してくるかもしれません。
このほか、(4)では「全国保健医療ネットワークの本格稼働」(2020年度からスタート予定の、保健・医療・介護データの連結と、その活用)、(5)では「働き盛りの 40~50 歳台の特定健診・がん検診受診率の向上」などが重要と強調しています。
2040年までに医師の生産性を7%、他職種の生産性を5%以上改善
なお、臨時議員として出席した根本匠厚生労働大臣は、▼健康寿命延伸プラン(2019年夏策定予定)で「2040年までに健康寿命を男女ともに3年以上延伸し(2016年比)、75歳以上とする」▼医療・福祉サービス改革プラン(2019年夏策定予定)で「2040年時点において、医療・福祉分野の単位時間当たりのサービス提供(生産性)を5%(医師では7%)以上改善する―考えを提示しました。
前者(健康寿命延伸プラン)では、(I)次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成等(II)疾病予防・重症化予防(III)介護予防・フレイル対策、認知症予防―に取り組み、とくに後2者では「保険者インセンティブ(医療保険者へのインセンティブ、介護保険における市町村・都道府県へのインセンティブ交付金など)」を拡充していく方向性が示されています。
また後者(医療・福祉サービス改革プラン)では、まず介護現場の業務を「介護の専門職でなければ担えない部分」と「間接業務」とに仕分けし、後者については「元気高齢者」や「ロボット・センサー・ICT」などが担当することで、介護専門職が本来業務に専念し(介護サービスの質公助にもつながる)、その負担を軽減していく方向性が明確にされています。
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