肺がんの新遺伝子検査、頭頸部がんへの新放射線治療法など、点数算定上の留意点を整理―厚労省
2020.6.2.(火)
厚生労働省は5月29日に通知「『診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について』等の一部改正について」を発出(厚労省のサイトはこちら)。
新たな医療技術(肺がんへの抗がん剤選択を補助するMETex14遺伝子検査、角膜上皮細胞疲弊症に対する自家培養角膜移植、頭頸部がんに対するホウ素中性子捕捉療法)の保険適用などを踏まえ、診療報酬算定上の留意点を整理したものです。6月1日から適用されています。
目次
肺がんへの抗がん剤選択を補助するMETex14遺伝子検査、血漿を検体とすることも可能
今般の通知では、次の5本の通知が改正されています。「新たな医療技術の保険適用等」に伴い、診療報酬算定上の留意点などを整理したものです。
(1)診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(3月5日付、保医発0305第1号)
(2)特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について(3月5日付、保医発0305第9号)
(3)特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)の一部改正に伴う特定保険医療材料(使用歯科材料料)の算定について(3月5日付、保医発0305第10号)
(4)特定保険医療材料の定義について(3月5日付、保医発0305第12号)
(5)診療報酬請求書等の記載要領等について
まず、新たな肺がん遺伝子検査として「METex14遺伝子検査」が保険適用されました(5月13日の中央社会保険医療協議会・総会で承認、厚労省のサイトはこちら(中医協資料))。METex14遺伝子に変異が見つかった肺がん患者では、「テポチニブ塩酸塩水和物」(販売名:テプミトコ錠250mg)という抗がん剤が奏功する可能性が高く、有効な治療法選択の一助となるもので、組織だけでなく血漿も検体とすることが可能です。
本検査を実施した場合には、D004-2【悪性腫瘍組織検査】のロ「処理が複雑なもの」(5000点)を準用して算定する考えが中医協総会で承認されており、今般、その旨が次のように整理されています。
▽D004-2【悪性腫瘍組織検査】のロ「処理が複雑なもの」(5000点)について、通知では(ア)肺がんにおけるBRAF遺伝子検査(イ)悪性黒色腫におけるBRAF遺伝子検査(リアルタイムPCR法)(ウ)固形癌におけるNTRK融合遺伝子検査―を対象としているが、このうち(ア)に「肺がんにおけるMETex14遺伝子検査」を追加する
▽D004-2【悪性腫瘍組織検査】に(13)として次のような内容を新たに記載する
▼肺がん患者の血漿を検体とし、抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的として、次世代シーケンシングによりMETex14遺伝子検査を行った場合は、「1」の「ロ 複雑なもの」の所定点数(5000点)を準用して患者1人につき1回に限り算定する
▼本検査の実施は、医学的な理由により「肺がんの組織を検体として、『1』の『ロ 処理が複雑なもの』のうち、(4)のアに規定する『肺がんにおけるMETex14遺伝子検査(上記)を行うことが困難な場合』に算定できる
▼本検査の実施にあたっては、「肺がんの組織を検体とした検査が実施困難である医学的な理由」を診療録・レセプトに記載する
▼「本検査」と、「肺がんの組織を検体とした『1』の『ロ 処理が複雑なもの』のうち、(4)のアに規定する『肺がんにおけるMETex14遺伝子検』(上記)」とを同一月中に併せて行った場合には、主たるもののみ算定する
▼「本検査」と、「肺がんの組織を検体としてMETex14遺伝子検査以外の検査」を併せて行った場合には、「注2」の規定(患者から1回に採取した組織等を用いて同一がん種に対してロ(処理が複雑もの)に掲げる検査(上述)を実施した場合は、検査が2項目の場合には8000点、3項目以上の場合には1万2000点を算定する)を適用し、本検査を含めた検査の項目数に応じた点数により算定する
角膜上皮細胞疲弊症に対する自家培養角膜移植、角膜移植術を準用し5万2600点算定
また、新たに角膜上皮幹細胞疲弊症の治療に用いる新たな再生医療等製品「ネピック」も保険適用されています(厚労省のサイトはこちら(中医協資料))。患者自身から採取した角膜輪部組織から分離した角膜上皮細胞をシート状に培養して製造したもので、角膜上皮幹細胞疲弊症患者の眼表面に移植することで、角膜上皮の再建を目指すものです。
本技術(自家培養角膜上皮移植)については、K259【角膜移植術】(5万2600点)を準用して算定しますが、▼レーザー使用加算(5500点)▼内皮移植加算(8000点)―の算定はできません。
また、本技術(自家培養角膜上皮移植)の実施にあたり、「角膜輪部組織採取のみに終わり角膜移植術に至らなかった」場合には、K246【角膜・強膜縫合術】(3580点)を準用して算定します。
なお、本技術(自家培養角膜上皮移植)の対象患者は、角膜上皮幹細胞疲弊症(ただし▼スティーヴンス・ジョンソン症候群の患者▼眼類天疱瘡の患者▼移植片対宿主病の患者▼無虹彩症等の先天的に角膜上皮幹細胞に形成異常を来す疾患の患者▼再発翼状片の患者▼特発性の角膜上皮幹細胞疲弊症患者―を除く)のうち、重症度Stage IIA(結膜瘢痕組織の除去または必要に応じて羊膜移植を行ったにもかかわらず角膜上皮の再建に至らない場合のみ)・Stage IIB・Stage IIIの患者に限られ、レセプトに重症度を含めた症状詳記の添付することが必要です。
また本技術を実施する医師は、次の要件をいずれも満たすことが求められます。
▽眼科経験5年以上で、角膜移植術を術者として5例以上実施した経験を有する常勤医師である
▽所定の研修(▼自家培養角膜上皮の適応▼角膜上皮幹細胞疲弊症の重症度判定▼角膜採取法▼移植方法―に関する事項を含むもの)修了している
頭頸部がんに対するホウ素中性子捕捉療法、重粒子線治療を準用し18万7500点を算定
さらに、新たな放射線治療技術として「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がんに対するホウ素中性子捕捉療法」が保険適用されています(厚労省のサイトはこちら(中医協資料))。ホウ素を付加した薬剤をがん細胞に取り込ませ、体外から放射線(低エネルギー中性子線)を照射することで「薬剤と放射線との反応によってがん細胞を破壊する」新たな医療技術です。
この技術については、M001-4【粒子線治療(一連につき)】の「1 希少な疾病に対して実施した場合」の「イ 重粒子線治療の場合」(18万7500点)を準用して算定する(使用した薬剤は別途算定できるが、「位置決めなどに係る画像診断、検査等の費用」は所定点数に含まれ、別に算定できない)ことになり、点数算定に当たっては次の点に留意することが求められます。
▽薬事承認された医療機器・医薬品を用いて「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がんの患者」に対して実施した場合に限り算定する
▽関連学会により認定された医師の管理の下で実施する
▽治療適応判定に関する体制が整備された保険医療機関で適応判定が実施された場合には、【粒子線治療適応判定加算】(4万点)を準用し、所定点数に加算する。その際、当該該治療を受ける全患者に「当該治療の内容、合併症、予後など」を文書(書式は自由、診療録への添付が必要)を用いて詳しく説明し、患者から要望のあった場合には都度、治療に関する十分な情報提供を行うことが必要である
▽ホウ素中性子捕捉療法に係る照射に際して、「画像診断に基づいて予め作成した線量分布図に基づいた照射計画と照射時の照射中心位置を、三次元的な空間的再現性により照射室内で画像的に確認・記録する」などの医学的管理を行った場合には、【粒子線治療医学管理加算】(1万点)を準用し、所定点数に加算する
▽身体を精密に固定する器具を使用した場合は、【体外照射用固定器具加算】(M001【体外照射】の加算、1000点)を準用し、所定点数に加算する
このほか、次のような見直しも行われます。
▽K616-4【経皮的シャント拡張術・血栓除去術】に、(4)として「人工血管内シャントの静脈側吻合部狭窄病変に対し、末梢血管用ステントグラフトを留置する場合には当該点数の所定点数(初回:1万2000点、初回実施後3か月以内に実施する場合:1万2000点)を準用して算定する」旨を追記する
▽歯科診療報酬において、I019【歯冠修復物又は補綴物の除去】に関し、新規に保険適用された純チタン2種の全部金属冠の除去については、「3 著しく困難なもの」(70点)により算定する
▽歯科診療報酬において、M010【金属歯冠修復(1個につき)】に関し、新規に保険適用された純チタン2種の全部金属冠により大臼歯の歯冠修復を行った場合は、M015-2【CAD/CAM冠(1歯につき)】(1200点)に準じて算定する
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